数日間のシェルター

ひたすらキラキラしたのとか、ビニューンビニョーンとかガガガガ……ザザ、とかそんなのばっか聞いてどうにか気を紛らしていたのだけれど、これには弊害があって、音に集中してしまうので作業効率が下がるということだ。

 「文字」とは相性の悪い音楽ばかりを聞いていて、別に文字だってどうでもいい……いや、どうでもよくないんす、と思う。文字がなくなったら、健康的に働いちゃうかもしれないよ俺! そんなのやだ!!

 ここ数日何かを書く、読む時は、バッハとショパンを繰り返し聞いている。グールドやカザルスはとても大好きなのだが、そういうクレジットのない、あまり俺が感情移入しなくていいCDを聞いている。もちろんそれだけを聞いているわけではないが。

 クラシック音楽と書く、読む、との相性はかなりいいと思う。とか言いながら、俺はクラシックに全然詳しくない。グールドとカザルスが好きとか言いながら、彼らの情報をほとんど知らないし、知ろうともしていない。演奏曲の題名すらほとんど覚えていないのだ。その代わり、彼らの演奏はとても心地よい。

 バッハとショパンというセレクトが、自分のことながら少しベタ過ぎないか、と思う。詳しくないなりに、多少は、小学校の音楽室の壁に並んでいた有名どころをちょこちょこつまみ食いしてはみたのだが、やっぱり俺はバッハとショパンが好きだ。どっちもめちゃくちゃポップだと思うから。

 バッハのパイプオルガンの演奏を繰り返し聞いている、というか、俺はパイプオルガンの音がとても好きだ。好きだとか言いながら全然詳しくない。パイプオルガンはクラシックしか使用されないのだろうか? ごく多分一部で活動している人はいるだろうけれど、そんなに探す情熱はない、てか、バッハあるし! みたいな。

 ショパンは安心して見れる佳作メロドラマみたいでとても好きだ。ショパンのことを考えると、永遠に抜け出す木漏れ日がいつも(!)想起される。この言葉もとてもメロドラマチックだと思う。自然に目を向けるというよりも、木漏れ日だけ。走り去る軽やかな速度、それは転換の、小さなドラマの為にあるだろう。

 最近は夜が暗くて嬉しい。部屋の電気を消して、バッハやショパンの曲を聞くと、文章を書くのに多少は効率が上がる、ような気がする。てか、ポップな曲を聞くよりずっとマシなのは確かだ。

 夜になると落ち着くと言うか、最近は深夜になってやっと本調子になるというとても馬鹿げた状態になっていて、俺は本当なら十二時頃寝てハ時頃起きる生活を理想だと思っていて、ごく稀にそういう時期もあったのだけれど、今じゃ理想とは程遠い生活を送っている。

 そもそも、世界が暗くないのがいけない。暗い方がいい。暗いから明りを見て楽しいのに。いっつも深夜だったら、俺も仕事をする気になるかもしれない……あ、やっぱ今の嘘。

 でもいつまでもこのままでもいられず、プラネタリウムが欲しくなった。自分で書いていて「は?」と思うが、知らない。ネットで検索すると、なんと、安いのは三千円位からあるらしい!! しかも発売元で動画も見られる! なんていい時代なんだ!! プラネタリウム万歳!!

 俺は小さい頃プラネタリウムに二、三回行ったことがある。今はもうない渋谷にあるプラネタリウムだ。俺は星座に全く詳しくない。北斗七星? あ、空にあるよね、とかそんなレベルだマジで。元々SF、宇宙への関心が薄いので、理科の時間で勉強した星座、宇宙関連のことはかなり抜け落ちている。

 そのくせ、渋谷のプラネタリウムが(入っているビル)が取り壊されたのを知った時には、なんだかとても寂しくなるった。俺はとても落ち着きが無いので、プラネタリウムに入ったら最初だけわくわくして、後は「動きたいなあ」とか「もーもっと早くナレーションしてよ」とか「これ終わったらどこに連れてってもらおう」とか思っていた。多分小学生時より色んな意味でさらにヤバい感じになった今の俺が行っても、同様の気分になるだろう。でも、プラネタリウムに行きたい。てか、家がプラネタリウムになればいいじゃん!!! 

 で、ここ数日バッハとショパンを共にサイトと商品レヴューを読みあさっていたのだけれど、ふと、あることに気がついた(我に返った)。そんな数千円の商品じゃ、天上にちょこっと星空みたいなのが映るだけじゃん。

 数万円するのでも、「ぼくのへやが星空」はちょっと難しいらしいのだ。部屋に水面が浮かぶとか、オーロラが浮かぶとか、そんなのもあったが、かなりしょぼそうだった。値段的に、投射する機能的に当たり前なのだが、すっかり「ぼくのへやが星空」が頭にあって、何だこれ? 癒しグッズ? いらねーよそんなのだったらてんめー癒してみろよこのやろうできねーだろばーかばーか

 とか思っていながらも、しつこく検索、画像、動画確認を繰り返していて、とうとう商品を注文してしまった。万華鏡。動く万華鏡が壁に映されるそうですよ。は?

 何でこの商品を買ったかと言うと、一万二千のが三千円になっていたからだ。ディスク入れ替え(?)とかで色々楽しめるらしい。こういうのは値段でかなり変わるのだと俺は確信していた、というか、部屋の中が星で一杯にならないなら、もう光っているならなんでもいいや、とか思った。それじゃあ超安っぽいカラオケ屋にあるミラーボール(ディスコライトで商品が出てきた)とかでいいじゃん、てか、それでもよくね? とも思ったが、さすがにそれはどうかと思った。一人ディスコ無職。いやまじ、勘弁してくれよ俺。

 万華鏡無職。意味が分からない。でも、しばし気晴らしになってくれるはずだ。部屋がきらきら。フェイクっぽさ満点の、いかがわしいきらきら好きなんだ俺。万華鏡が映せるように、ずっと夜でいて欲しいずっと深夜、ずっと、だれも家から出なければいいのに。