屍の恋

 病院行ってました。心身ともにダメな状態で、採血とか検査とか続きで、かなり気分も滅入っていたのですが、大分快方に向かったということだし、いつまでもこんな気分とか生活じゃあダメだなあと、もう何度目かの、己の色々なことについて反省しました。

反省して、また前向きに自堕落に。いや、もうちょっと楽しくね。

 気分に余裕がないとつい嫌なことを考えたり、人や自分の嫌な部分に感応したりしてしまうのだが、そういうのってやっぱダサいなーと思えるくらいじゃなきゃなー。ダサい人生よりも、たのしいほうが。

 行くかどうか、と迷いながらぐずぐずして、最終日に行った、沢渡朔 写真展「少女アリス」会場の恵比寿のFmはとても小さなギャラリー、というか、小さなアパートの一室を改装したもので、会場のキャパに比べ、かなりお客さんで賑わっていた。

 この写真集はとても有名で、たまにまんだらけとかのショーケースに並んだりもしていたし、可愛らしい少女が表紙の、イギリスで撮影された不思議の国のアリスがテーマの写真集ということで興味は常々あったのだが、正直こういうのは数が多くて少食気味でもあって、興味はあっても、この展示にしても行くかどうかはかなり迷っていた

 のだが、行ってよかった。こういう作品の(絶賛されていたとしても)講評、感想というのはかなりあてにならないし、それどころか自己陶酔的な物が多いように思うのだが、本当に、不思議の国のアリス、を想起させる作品だった。

 そう、テニエルやアーサー・ラッカムの挿絵のような、キュートでいたずら好きでちょっと冷たい感じすらする、アリス。当時の撮影された本なので、年端もいかない少女が全裸になっていて、今だと絶対に発売できないであろう内容の写真も数点あった。
でも、一部の人以外には歳がいくつだとしても裸になったからって、そんなのはどうでもいいことで、過剰に規制が入るのは馬鹿らしいと思う。

ただ、児童虐待に当たる場合もあるし、小さくて決定権のない子供の将来のことを考えると、簡単に解決するものでもないのだけれど…でも、個人的には裸になったからって差別されない社会のほうがいいと思う。どういった姿にせよ裸になったからって綺麗、かっこいいならそれでいいし、そうでないなら、無視すればいいだけなのにね

 ともかく前評判に違わぬ良い展示だった。再販された写真集は薄い写真集なのに値段一万円。さすがにどうかと思ったが、欲しくなる人の気持も十分わかった。

 宇野千代の「或る一人の女の話」を読む。例によって家に溜めてある古本の山から適当に選んだものだけれど、宇野千代の本を読むのは何年ぶりだろうか?(とか言って他の作者のだってそうだが)


他の介入を許さず気儘に生きた〈放蕩無頼〉の人生。雪の上で夥しい血を吐き、狂い死した父は、娘に〈真っとう〉に生きろと教えた。しかし娘は、父の道をなぞるように更に鮮烈に生きた。70を越した女が、この世に生れ過した不思議を恬淡と語りかける「或る一人の女の話」。

 という自伝的小説で、かなり引き込まれた。あ、これ他にも読んだ気がする、というのは気のせいではなく巻末の解説を読めば彼女が自分の話を何度も繰り返しているということが分かるのだが、それでもなお読んで面白い。

 男遍歴を失恋の記録、失恋続きの人生だと語る著者だけれど、恐ろしく愛情深い、都合の良い女に見えて、それでもなお主体的に見えるのは彼女の自伝『生きていく私』そのままの、天衣無縫な生き様が清冽な印象をあたえるからのように思える。どんな破天荒(に見えることもある)な生活が嫌味なく受け入れられるというのは、薫るナルシシズムを上手く昇華している、そんなことをはねのけている強さがあるように思う。

 女性作家の太陽の如き或いは暗雲のような暑苦しい重々しい自己愛、というのは大抵辟易してしまうものだけれど、それを超越しているような「凄まじさ」を感じるとやはりすごいなあと感銘を受けるのだ。

 岡本かの子森茉莉草間彌生(の小説、『クリストファー男娼窟』)とか、女の業、とかそういう軽々しく便利な言葉ではとても片付けられない厄介さ。

 厄介、といえば、またジュネの作品『花のノートルダム』を再読する。オレは何度もジュネの作品を定期的に再読していて、その度に気持を新たにする。素晴らしい作品は何度でもオレに何かを与えてくれる。作品そのものの素晴らしさ以外にも、そこにある生き様に触れたくて、それを再確認したくて読むのかもしれない。

 自分の愛情のため殉職するため、世界をねじ曲げるということ。前述した女流作家たちとはまた別物の、泥棒の裏切りの愛の物語。自分で美しいと思うものに殉じる跪拝することの字面だけではない、痛ましさ、神々しさ。

 一方で最近ドラクエ3がやりたくてしかたがない。多分三回くらいクリアしていると思う。オレは何度か昔のゲームを何度も売り払い、やり直す買い直すのだが、ゲームには新しい感銘とかがないのが素晴らしいと思う。オレはほぼ毎日何かしらのゲームをしているが、ゲームは時間の無駄とかいう人の意見は割りとあっていると思うし、それだからこそいいのにねと思う。

 無駄な楽しい時間。繰り返される既視感。その中でふと、違う感覚とか懐かしさに襲われる。ゲームは物語は楽しくも虚しいし、それでいいのだと思う。

 いつまでも夢を見る、気がすることができるのはやはり、それなりに健康である必要があるわけで、悪夢のために夢のためにもう少しましな人生を、とか思うと阿呆らしくて、好みだ。


https://www.youtube.com/watch?v=41Fnx8FnGoE&list=PLIeRRviu1HMmJtqD89NK5WgHgBrsgZh2U
Los Lobos - Life is Good


 銃声からの歓喜の声が溢れ出す辺りが、何度聞いても胸に来る。
 ライフイズグッド、みたいな。