いつも揺れている

 良いことがあったり悲しいことがあったり。イラつくことがあったりほっとすることがあったり。気が休まることがない日々。ただ、何にせよ痛感してしまうのは、自分がお金を生み出す能力がないのだなあということ。

 当たり前だが、お金があれば解決できることがこの世には多くあって、お金なんかのせいで自分が矮小になる、卑屈になるというのは本当にみっともないことなのだけれど、色々あってちょっと落ち込んでいる。

 何にせよ、生産的な生活がしたいなと思う。

「お金がないなら なきゃないでいいけど 不景気そうな顔しないで」ってピチカートファイヴの歌でもあったし。

 こんな空元気で乗り越えられていければいいなと思うが、お金にいたっては、これが通用しない。当たり前の話。

 まあ、いつまでもこんな話をしても仕方がないので、別の話しでも。


 原宿で大好きなアニエス・ヴァルダの個展があるというので行ってきた。で、内容が壁に小さな写真三枚と、大きなモニターに映し出された海の映像(海辺も再現されている)というインスタレーション作品。

 俺は映画監督としてのヴァルダはほんと才能ある人だと思うけれど、この展示はどうかなあと思った。というか、俺がインスタレーション(映像を映すだけのやつ)作品がかなりぴんとこない……正直に言うと、かなり嫌いなのが多いからだ。

 それらの多くはギャラリーとか美術館の中で、キャプションや著名人という説明文付きで初めて成立する物が大多数だからだ。

 海辺のインスタレーションより、海の方がはるかに優れているのに。

 等と感じてしまうのだ。

 ただ、ヴァルダへの贔屓目か、その空間あるベンチに一人ぼーっと座っていたら、それなりに気分は良かった。そこは無料で俺以外の客はいなかったのだけれど、もしかしたらインスタレーションは無料で一人きりで味わえるような物ならば、「自然の一部」みたいな感じで受け取れるかもしれない。

 インスタレーションが大嫌い、ではないんだ。ただ、映像を流して説明文をつけて、それが美術館以外の場所で、作品として成立するのかなあと毎回思ってしまうのだ。学生時代からずっとそうだ。

 頑固な俺。学生時代から変われない俺。お金を稼げずに、お金にならない馬鹿げたことが好きな俺。


 新宿のツタヤでセールだったので映画を借りてきた。歌舞伎町店の品ぞろえはとても良い。というか、ツタヤオンラインで借りられない作品が店舗にはあるというのはどういう理由なのだろう……(渋谷や六本木のツタヤでも、店舗にはあるがネットでは借りられないのがあるのだ……)

 実相寺昭雄『青い沼の女+中・短篇集』を見る。

 この人の作品って、かなり当たり外れがあるなあと見て感じた。表題作はTVドラマ?用に撮影されたとかそういう趣向らしく、まあ、これが酷い。いや、酷いという言い方は良くないかもしれない。TVで流れてる見どころがないサスペンスドラマ。

 ほかの短編集もどうかなあというのが多かったが、『宵闇せまれば』というモノクロ映画は俺の頭の中の実相寺昭雄っぽくて良かった。男3人女1人で部屋の中で倦怠感を持て余す。そのうち、ガスを部屋にわざと流し、だれが残れるかというゲームが始まる……

 そこまで特筆すべきような作品ではないけれど、モノクロの緊張感と倦怠感のある映画は流石と感じる。

 ギャラリーに行くからとアニエス・ヴァルダの映画も借りた。

『歌う女、歌わない女』

1962年の冬のパリ。ポムは17歳の高校生。明るく、歌が好きで、人気者の彼女は大学受験の準備より、両親の家を出て、歌手になって旅に出ることを夢みていた。

ある日、通りかかった写真スタジオで、ジェロームという写真家が撮った女性たちの写真を見て、その女性たちの一様に淋しく、美しく、人生の影だけをせおったような姿にやりきれない気持になる。

それらの写真の中の女性の一人、シュザンヌは、ジェロームの内縁の妻で、22歳の若さで3歳のマリーと9ヵ月のマチューがいた。貧しい生活の中、さらに3人目の子供が生まれようとしていた。

 

 という、歌う陽気な女ポムと歌わない陰気「だった」女(ウーマンリブの活動家になる)シュザンヌの物語。

 数十年前のパリのウーマンリブ運動(と中絶)と歌が中心となった、二人の女性の友情と人生の物語。というと、かなり重い内容だと感じてしまいそうだが(実際そういう側面もある)彼女の映画だからか、最後まで見通すことが出来た。

 それぞれのつらい道のりを二人は歩むことになるが、当たり前だが人生は辛いことだけではない。そして自分の人生を生きる、ということを伝えてくれる良作だと感じた。

 ただ、俺が現代に生きている男なので、分かってない、感じられない面があるかもしれないので、多くは語らないようにしようと思う。

 続いて見たのが『カンフー・マスター!』

 中年女性が、娘の同級生の少年と恋に落ちるラブストーリー。40歳のマリーは、娘のルシーの誕生パーティーでルシーの同級生ジュリアンと出会う。

 という内容なのだが、主演がジェーン・バーキン。その娘役が実娘のシャルロット。しかもジェーン・バーキンのお相手の少年が監督、アニエス・ヴァルダの息子(美少年です)というかなり豪華な面々。しかもバーキンの両親までバーキンの両親役でちょっと出演するとかいう、あまりに身内参加がすごくてどういうことなの? ファン向け映画なの? といったキャスト。

 劇中に登場する、ゲームセンターにあるカンフー・マスターは、日本のスパルタンXの英語版(?)で、ファミコン世代としてはニヤニヤしてしまう。しかもゲームセンターにはアルゴスの戦士マイティボンジャックの英語版らしきものまでちらりと映っている! (バーキン映画でこんなの喜んでるのは俺だけかも……)

 で、肝心の映画の出来はと言うと、80分の短い中でちょっと長すぎるゲームシーン。そして説明不足なジェーンと娘や家族の関係等、ちぐはぐな印象もある。人によっては(ジェーンファン以外には)何で中年女性に美少年が夢中になるの? みたいに思ってしまうかも。

 ただ、思春期の不安定な演技を見せる、母への愛憎にも似た複雑な感情を表現するシャルロットはほんと演技がうまいなあと思った。

 それにジェーンと少年のままごとみたいな大人びた恋も、ほほえましく、ほろ苦い。

 終盤で離ればなれになって、少年が違う学校のクラスメートに「前の恋人は俺に夢中だった」というのもさっぱりしていて好きだ。

 せつなくて、本気で愛して、でもわりとどうでもよくもなってしまっている感じとか、少年期の強がりが感じられて好きなラストだ。

 いや、でも俺疲れてるから明るいのが見たいんだ! ということで何年も前に借りたはずの、バルドー主演の『裸で御免なさい』

 というか、これ新宿ツタヤのレンタルに監督「ロジェ・ヴァデム」となってるけど、≪監督・脚本≫マルク・アレグレなんですがいいのか……(ヴァデムは脚本で参加)

内容は


 兄を訪ねてパリにやってきた作家志望のアニエス。生活費の足しにしようと、
兄の本を売りさばいたはいいが、そこに混じっていたのは何とバルザックの初版本!
一刻も早く本を買い戻すため、彼女は賞金目当てでヌード・コンテストに出場するが……。
バルドーが健康的な肉体美を存分に披露するお色気コメディの傑作!!


 というおバカコメディ。正直強引なご都合主義が目につくが、それよりもスピーディーな展開とかわいらしいバルドーを楽しむのがいいだろう。というか、ほんとこの時代のバルドーは可愛すぎる。お人形よりもかわいいお人形ってどういうこと? みたいな阿呆な感想が浮かんでしまう。

 かわいいは正義。ほんとにそう思う。

 それに、単純に、きれい、かわいい、かっこいい、とか好きな感情が出るっていいことだなあと思う。

 俺は余計なことまで考えすぎてしまうし、すぐに疲れて寝すぎてしまう。自分の人生を貧しくするのは、やはり愚かなことだ。

 俺に色んな力がないとしても、美しいものを、好きなものを好きと言えるならばまだ生きていける気がする。生きていきたいなと思う。

 俺はいつも揺れている。そこに海辺のような美しさはない。でもそれが俺の人生。