傷口の話なんて口づけの話なんてしないで

朝電源を入れたらパソコンが真っ青。win10にしてから初めてのブルースクリーン。中古で買って酷使していたパソコンだし、最近調子が悪かった。だからいつこうなってもおかしくないと感じながら、もし、今駄目になったら、これまで書いてきた小説、どうしようかなと思った。誰に望まれなくても、俺には必要なんだよね、必要なのかな?

 なんてことを考えながら、どうやら、パソコンは平気、らしい。調子が悪かったり、小康状態だったりをいったりきたり、まるで俺の身体みたいなパソコン君。

 マジックザギャザリングというゲームのフレーバーテキスト

 

高潔のあかし/Righteousness

やがてわたしも、死の前にひざまずくときがくるだろう。だがそれまでは、勝利の栄光を味わわせておくれ。 
――ホメロスイリアス」第18巻

 

 あるいは、

 

最後の言葉/Last Word

いつか、誰かが私を打ち負かすだろう。 だがそれは今日ではないし、お前にでもない。

 

 こんな言葉が好きで、こんな感じなことを考えて空元気を続けているんだ。大した根拠なんてないのに、俺は、大丈夫だって思わなかったら、こんな人生やっていけない。

 

 でも、明らかな身体の異変で、病院へ。その日の問診で、六千円が飛んだ。そして、次の日さっそく検査。

 悪い考えが頭を回る。悪い考えばかりの人生。

「やがてわたしも、死の前にひざまずくときがくるだろう。だがそれまでは、勝利の栄光を味わわせておくれ」だとか、「いつか、誰かが私を打ち負かすだろう。 だがそれは今日ではないし、お前にでもない」とか、気持ちに余裕がないと考えられないんだ。

 きちんとした健康診断なんてずっとしていないわけで、そう、いつ何が起こってもおかしくない。

 帰宅してドラッグストアで買った白がゆを食べていたら、自分が病人みたいな気がしてくる。いつだって自分が病気だなんて、信じられないんだ信じたくないんだ俺。

 そして、処置をしてもらった。朝から一日かかって、へとへとになった。二週間後に正確な結果が出るそうだが、一応平気らしい。ひとまずほっとした、けれど今日の会計は三万円。カード不可。頭が思考停止になり、近くのATMでお金をおろし、払った。色々我慢していて、ためた金がさくっとなくなるのは、虚しい爽快感がある。

 身体にガタはきているけれど、未だ平気らしい。でも、仕事のこと、考えなきゃなあと思う。これからを、どうにかしなきゃなあと思う。コンビニによってエビスビールを買って、錠剤を流し込む。歩きながら少し、気が楽になって、自分がはらはらと涙を流していることに気づくのだ。

 自分の人生が続いて行くことが、うんざりしてほっとした。こんな人生嫌だ。けれど、本当に嫌な事ってこんな雑文にだって書けないし人にだって話せない。俺だけじゃなくて、他の人だって、きっと多分絶対おそらくそうだ。傷口の話なんて口づけの話なんてしないで。告白ができるとしたら、小説の、物語の、フィクションの、嘘の世界で。

 神様がいたら素敵だと思うのだけれど、俺はそれを知覚できないし、信じてもいない。小説は俺を必要としていないが、俺には小説が必要だ。必要なんだ。貧者の処方箋。

 帰宅して、すぐに寝てしまって、翌日の午前中に小説を完成させた。一応、書き終えて、ほっとして、気が抜けた。明日から俺はどうしたらいいのだろう? 家にたまったCDも映画も本も手をつけたくない。でも、注文して届いていないものがまだある。

 とにかく、繰り返し。俺が駄目になるまでいつまでも。その日は来ないって永遠に来ないって嘯く。「やがてわたしも、死の前にひざまずくときがくるだろう。だがそれまでは、勝利の栄光を味わわせておくれ」なんてことが、勝利なんてものがなくても、望まなくては生きていけない。灰になるまで正気でいたい。正気で、錯覚をしていたいんだ。幻に秩序を与えていたいんだ。その為に、うんざりする好きでもない好きな人達の言葉を。