夢幻チョコレートうつつ

イライラするとお菓子を食べる。ここ一か月近く、週四、五のペースで、一日にクッキーやせんべい類二袋、チョコ系二袋食べていた。なんかお腹ぷよってきた気がしている、つーかぷよって当然だべ!

 やべーし。俺、あんま太らない、と思っていたしそうなんだけどさすがにいい年なんで、ちょっと我慢するべきだしまじで。俺が栄養失調骸骨だったのは昔の話。でも、その時のセルフイメージをひきずってる。ガリガリの身体に一番、社会に適さない服が似合うでしかし。

 ということでおかしを我慢するためにお菓子を買おうと思ったんだ。体型維持の為には内容量が少ないお菓子食べればいいんだよね。

 でさ、久しぶりにペコちゃんのチョコえんぴつを手に取ったら、おまけのシールが売れ売れのうんこカンジドリルとコラボしていて、ペコちゃん、うんこの被り物してるんだ。

 マジかよほんと俺そんなペコちゃん見たくなかつた。君はそんな子じゃないはずなんやでもそんなの俺の思い込みだったんだ君のことを何も知らないのに一方的に清純さを押し付けていた俺が愚かな笑いものなんだよでも切ないよ君があんな姿になるなんて見たくなかった見たくなかったんだ

「あのこはーどこかの誰かとーえんじょこうさーいー!!!!!!」

 

 ということで、ツインクル買ってみました。初めて買った。可愛すぎてかったことなかったんだ。女の子が小さいときに食べたことがあるはずのお菓子。アルミホイルに包まった卵型のチョコレート。その中を割ると、こんぺいとうやチョコレートやラムネが入ってるんだ。マジかわいい。俺を割ってもただれた臓物しか出てこないけど、ツインクル割ったらおかし出てくる!かわいい!

 何かに依存傾向にあったりストレス過多だったりすると、何かを消費する際に、それを消化している最中に別の何かを消費しなければならない焦燥感に襲われる。

 例えば物を食べる時に貪り喰らう、みたいなの、良くないって分かってるのにしてしまうんだ、でも、ちょっと、気分を変えてゆっくりと何かを味わう、向き合う、すると、身体感覚が蘇るような取り戻せるような気分になる時がある。

 代用品で我慢するのが人生じゃあない。

 俺の身体も俺の意志も俺の物、ということにしておかないと、生きるのは困難だ。その為にはお菓子と読書を。

 『ボルヘス怪奇譚集』を読む。ボルヘスが様々な国で生まれた物語の中から、本誌一ページ~四ページ位の分量のエピソードを集めた一冊。ぼんやりと、空想の物語に浸ることができる本。

 穏やかな夢の中でまどろんでいるかのような時間を味わえるこの本では夢の話もよく出てくる。昔の人たちにとっても、夢は様々なファンタジーと物語の源泉だったのだろう。良い夢を見る為によく生きる、なんてことは難しいことだろうけれど、寝ても覚めても素面で酔ってる時間が長ければいいのにな。

 マルグリット・ユルスナール『東方奇譚』を再読。ユルスナールの歴史ものより、ずっと気軽に読めるのがありがたい。

 最初におさめられている「老絵師の行方」という作品が一番好きだ。老絵師と弟子の旅の話。金銭を持たずに世界を旅する絵師、そして弟子は彼の為に私財をなげうち付き添う。

 旅の途中、彼らは王宮に捕らえられる。美しい容貌をしながらも、老人のような手をした、二十歳の王、天子。彼に何の罪があるのかと問う絵師。王は絵師に呪詛混じりで語る。素晴らしい老絵師の画に囲まれ過ごした自分が、現実の世界を見た時の失望を。

「死刑囚の血は汝の画布に描かれた柘榴ほど紅くないし、農村では虫が稲田を感嘆する妨げとなる。生身の女の躰は、肉屋の鉤につるされた屍肉のように、余に嫌悪をもよおさせる。(中略)世界は気の狂った絵師によって虚空にまきちらされ、われらの涙によってたえず消される、乱雑なしみの集塊にすぎぬ。漢の王土には最も美しい王土ではなく、余は皇帝ではない」

 そして王が老絵師に画を描けない身体にすることを宣告し、弟子が短刀を手にして王に飛び掛かる。しかし護衛兵に取り押さえられ、弟子は処刑される。

「兵士の一人が刀を振り上げ、玲(弟子)の首が切られた花のように胴を離れた。下役人どもが屍を運び去った後で、汪佛(絵師)は絶望しながらも、弟子の血が緑の石畳につけた美しい真紅のしみを感嘆して眺めた」

 この箇所すごく好きだ。首が切られた花のように胴を離れたという表現にも、強い絆で結ばれた弟子の死に絶望しながらも、目の前に出現した色に感嘆してしまう絵師の業、血についても。

 

王は老絵師へ最後の仕事として、未完成の山水画を描くように命じる。長い人生で蓄積した最後の秘密を注ぎ込むのだと、それを書き終えて両手を落とすのだと、王は言う。

 老絵師はその絵にとりかかると、その場には水が生まれ、そこには弟子、玲の姿が蘇っていた。そして二人は船に乗り旅に出る。飾られた絵には、もう、何も残されていない。

 あらすじだけ書くとなんだ、そうなんだって感じなのだが、これをユルスナールの実際の文章に触れると、ああ、彼女は老絵師のように、現実を夢幻の世界のように作り変えているのだということが分かる。

 幻想の世界、というのを構築するには、それ相応のセンスや筆力と言う物が必要になる。インスタントな、とりとめがないもの、びっくりする(させる)それ、というのもそれなりに面白いのだけれど、長い夢を見る為には、自分が夢を見続ける為には、強固な意志、素面の状態で向き合う必要がある。

 いつでも逃げ出していたい、なんて思ってしまう。でも、逃げ出すにしても毎日のチョコレートよりも誰かの夢想を。砂糖漬けのカカオよりも健康にいいんだ誰かの精製された妄想。と、いうことで今日もお菓子屋さん行ってきます。


Lab Pop Orange - GOODBYE CHOCOLATE KISS

 

 

 

 俺が学生の頃、当時六本木にあったゲーセンで、ホストがプレイしていた。めっちゃうまかった。ホストもポップンミュージック(のかわいい曲)するんだーって思ったんだ。いいよね。いつになってもチョコレート毎日食べていられるように。