半勃起の殺し屋。未熟な、成長途中の獣たち。或いはイノセントの中の迷い児

メンタルがやばくて、仕事を続けられるかどうか、という状況で仕事場へ。どうにか、こなしたが、これから先のことを考えると暗澹とした気分になる。いつまで「大丈夫」だと、俺は「普通」なんだと言い聞かせなければならないんだ?

 そんな折、ふと、ネットで、生きるというのは楽しく生きることで、楽しく生きるっていうのは好きなことをするんだよ、みたいなメッセージに出会った。俺みたいな状況の人間は、それができれば苦労しねーよとかねえ、好きってなんだっけ? お金も気力もないからむりですわ、なんてすぐ思いがちなのだが、しなきゃな、好きなこと。辛いことから、すぐ逃げようとするもん。駄目になる前に、楽しい思い出、多い方が良い。

 朝から小さい音量でグールドのバッハをかけて、少し前に書いた小説の誤字脱字チェックをしてた。傲慢で繊細で賢しくて不安定で泣き虫でしたたかな青年の話。そんな話ばかり書いている。

 世界に、悪意が、蛮勇が見て取れないのが本当に悲しい。有名になりたいお金持ちになりたいモテたい称賛されたい認められたい、それは結構な話で、それを否定したいのではないのだが、

「本気」で、天使になりたいとか、純粋な存在になりたいとか、神の存在を証明したいとか、粛清したいとか考えている人がいない(いても俺とは出会うことがない)というのが本当に悲しく、虚しい。

 でも、そんな極端な(思考というよりむしろ)思想の人でなくても、真面目に生きている人は、好きなものがある人は、それだけで素敵だと思う。その位の人並みの心を自分が持っていることに安心する。でもさ、but not for meの歌詞が頭に浮かんじゃう駄目な俺。

 毎日人外の、外部のことばかり考えて、でも、そんなことしてたら本当に実生活が成り立たなくなる。怖いな。それに俺、小説書いてるからさ、色んな人の意志や意見や生きざまをさ、理解しなきゃ、責任を持たなきゃって思うんだよね。常識良識マジ大切。色んな人がいて、俺がいるんだよって当たり前の話。

出来はともかく、自分の書いている小説が、小説の中では一番位好きだ。これはうぬぼれというか、そうじゃないと小説なんて何年も書いていられないだろう。

 まれに、それを本にしようか、なんて思うことがあるが、装丁とかサバト館レベル、とまではいかなくてもそれなりにいいものにしたいし、ていうか、その前段階で、宣伝しまくっても(あ、宣伝する友達いねーよ)1、2冊くらいしか売れないと思う。マジな話で!!!! 自己満足の為に払うムダ金の余裕なんてない、けどさ、もし、死ぬと考えたらさ、自分の本作るのもありだよね。「本」好きなんだ俺。本作るの、楽しそうじゃない?

 

 珍しく昼過ぎにやることを片付け、六本木で甲秀樹の展示を見に行った。なまめかしい、少年や青年たちが額の中やケースの中に収まっている。好きなんだ、美少年やなんだか居心地が悪そうな青年達。

 俺が下絵をじっと見ていたら、在廊していた先生に声をかけていただいた。色々話をした。自分が入れてるから、タトゥーの話しをした。作品には刺青が入っている若者が多い。俺は刺青がとても好きだ。本当は全身入れたいんですよ。お金がなくて無理だけど、と先生に言った。先生は少し驚いたような「何言ってんだこいつ」みたいな感じで、少し困らせてしまったかもしれない。

 技法やら作品のことやら話していたら、先生がはにかみながら、作品を買って下さい、と言ったが俺に買えるわけがないので、自分の部屋の壁に、本を破った四谷シモングリューネヴァルトや先生の絵を貼ってますと言ってお茶を濁す

そしたら「ホンモノは違うでしょ」と言われ、まあ、その通りすぎるのだが、俺は苦し紛れに「このまえ雪舟を見たのですが、水墨画は生で見るのと印刷とは全く違う、違い過ぎて生で見られてよかったです」と微妙な返事をしてしまった。

 会場のうん十万の作品は買えないけれど、ポストカードを買う。先生は丁寧にも、買ったものにサインを入れてくれた。特にお気に入りなのが、両肩に鯉の刺青をした青年。超かっこいい! 彼はこれから龍になるのだろうか? てかさ、こういう危うさが、野心がほんと好き。

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 俺が少年少女(青年)をすきなのは、未熟で傲慢で輝かしいからかもしれない。あ、勿論おじさんおばさん壮年老人だって好きだ。でも、若さ、と言う年齢に関係ない、無謀さを蛮勇をかっこつけを持っていないと、駄目なんだ。若者はさ、いやおうなく、持たされてるんだそれら。

 甲秀樹の作品は、半勃起の殺し屋って感じで、とてもかっこよかった。未熟な、成長途中の獣たち。或いはイノセントの中の迷い児 

 俺もさ、タトゥーまた入れたくなったな。薬飲んで、働けるかな、仕事新しいの探さなきゃなって段階なのにさ。

 美しい、鯉の若者にはなれないけれど、墓標に捧ぐ花々を、俺の身体にも。身体中、俺、花々になりたいよ。

 現実の様々なことにチューニングが合わせられない。なのにさ、俺は現実で生活をしていて、非現実の王国の夢を見る。貧乏な王様気取り。願わくば、薬物以外の救いがあったなら。少しの、友好や心愛や肉欲を啜り、生き延びられますように、本、書けますように。