高性能でもジャンクでも甘い夢を見る

 気分が落ち着かない。いつものことだけれど。今後のこととか、過去の不安に囚われる。そういうことにこだわり過ぎるのは愚かなことだって、頭では分かっているのだが、気持ちを切り替えるのは中々難しいものだ。

 外に出れば金がかかる。行先だっていつものところ。行ってみたいところはあっても、余計な散財をする余裕はない、けどさ、そんな時こそ外に出なくっちゃいけないんだ。

 電車の中で石黒浩の『人間とロボットの法則』と、彼も参加している『アンドロイド基本原則 誰が漱石を甦らせる権利を持つのか?』を読む。どちらも俺の知らない分野のことだし、さらりと読めて楽しかった。

 この本の著者の本は他にも数冊読んだことがあって、たまに賛同しかねる部分もあったりするのだが、やっぱさ、「アンドロイド」、最先端の人形(ひとがた)って言うのだけでも、わくわくしてしまう。

 彼は既に「マツコロイド」等の、「一部は」精巧なアンドロイドを作っている。『人間とロボットの法則』の著作で宗教とアンドロイド という賞があり、影響力がある人間をアンドロイド化することについて彼は語っている。

 でも宗教家やアイドルをアンドロイド化するというのは、難しすぎるような気がする。カリスマ性というのは、アンドロイドが持ちえない、不器用さやポエジーや冗談や抽象的なやりとりやら、つまり、役に立たないあれやこれやが必要だと思うから。アンドロイドは有能なことはできる、でも、本当の意味での意思疎通ができる「友達」になることは、「アウラ」を発することは(俺が生きているうちは特に)ないだろう。

 でも、俺はアンドロイドやそういうロボットの進化について触れるのが好きだ。『アンドロイド基本原則 誰が漱石を甦らせる権利を持つのか?』というプロジェクトの一人、谷島 貫太の話が印象的だったので引用する。

 

「アンドロイドにはわたしたちの欲望を駆り立てる何かがあるからです。人間を複製すること、故人を甦らせること、存在を永遠化すること、これらの行為には人間の領分を超えた何かがあり、それゆえアンドロイドはひときわ強い欲望の対象となるのではないでしょうか」

 俺は、漱石のアンドロイド(リアルな造形で、それらしい言葉を喋り一定の受け答えができる)を作ってどうするの? みたいな半ば覚めた気持ちを抱きながら、この本を読んでいた。でも、研究者の、いや、人々が人を、ひとがた を作りたい、誰かと繋がりたい理解したいという欲望は無くなることはないだろう。

 俺は球体関節人形が好きで、特に天野可淡恋月姫吉田良の作品が好きだ。彼女たちが作る人形は美しく恐ろしく、見る者を拒絶するかのような力を持っている。しかし、彼/彼女たちは、作られた人形なのだ。そのきになれば所有することもできるのだ(高くて買えないけど)

 俺はどちらかといえば、高性能なロボット、アンドロイドは空想の産物の物が好きで、実際に隣にいるとしたら、手が届かない、人形作家たちの恐ろしくも高貴な人形たちと時間を共にしたい。

『バレエボーイズ』というドキュメンタリー映画を見た。これが、すごくよかった。

 

北欧・ノルウェーの首都、オスロでプロのバレエダンサーを目指す3人の少年--ルーカス、トルゲール、シーヴェルト。男子はめずらしいバレエの世界で、ひたむきにレッスンに打ち込む。時にはふざけ合いながらも厳しい練習に耐え、お互い切磋琢磨していたが、ある日ルーカス1人だけが名門ロンドン・ロイヤル・バレエスクールから招待を受け、3人は人生の分かれ道の選択を余儀なくされる。 12歳から16歳というもっとも多感な4年間に、危うくもしっかり未来を見据えひたむきに夢に向かって踊り続けるバレエボーイズ。

 

 ドキュメンタリー映画としてもそうだが、青春映画としても上等の仕上がりで、少年達の苦悩も挫折も、成功も喜びも、友情も家族愛も、いろんな挑戦の記録、人が頑張る姿が、バレエという厳しい世界を舞台にして、あたたかな視線で映し出されていたのだ。

 何歳でも、どういう環境でも、その人その人の歴史があり、悩みや目標がある。それを知ること、受け入れることが、他人に敬意を持つことだと思うし、利己的な人ではなく、俺はそういったことができる人間でいたいなって思うんだ。

 この映画の三人の主人公は若く、夢と不安に満ちているだろう。彼らの倍以上の年齢になぅた俺は、彼らと同じ十代の頃と、あまり変わっていない。そのことをたまに、ほんの少しだけ誇らしく思い、でも、それよりもはるかに大きな苦痛や不安に苛まれている。

 もっと、うまくいくと、うまくできるとおもっていなのにな

 でも、俺の人生は続く。人生が続くなら、挑戦は続いているってことだ。俺にせめてもの慰め、空想の中でも写真や画像だけでも、誰か、好きな物を好きな人のことを考える。それらは現実の問題ですぐに曇ってしまうけれど、何度も、繰り返すしかないんだ。