近未来の幸福な詐欺師になりたい

 日々沼の中を歩いているようだ。もがいてもどうにもならないが、何かしないと確実にうずもれてしまう。そんな日々。なのに、なんだか小説が書けている。書けているからどうだ、というか展望も何もないのだが、小説内での誰かとの会話や思考の流れを感じるのは面白いことだし、たまに飛び出すんだ動物が。闖入者が異邦人が書きたくて、書いてるんだ多分。

 オンネリとアンネリのおうち という映画を見る。以下あらすじ。

 

オンネリとアンネリはとっても仲良し。
ある日ふたりは、バラ通りで「正直者にあげます」と書かれた手紙とお金の入った封筒を拾い、そのお金で、バラの木夫人というおばあさんから夢のように素敵な水色のおうちを買うことに。
オンネリは9人きょうだいのまん中で、アンネリは離婚したおとうさんとおかあさんの間を行ったり来たり。
ふたりの両親は忙しすぎて、自分たちがいなくても気づかない。
「わたしたち、ふたりの家に住んでいい?」気難しそうなお隣さんや、魔法が使える陽気なおばさん姉妹、ちょっぴり変わったご近所さんと交流しながら、ふたりだけの楽しい生活が始まる。
しかし、お隣さんに泥棒が―!

 

 ファンタジックでキュートな絵本の世界、絵本でしか表現できないような、キュートさを実写化したかのような、とても素敵な映画だった。家具も衣装もお菓子もお花もおもちゃも、色遣いにすごくこだわって作られていて、見ているだけで幸福になれる。双子みたいな仲良しの二人がかわいい。ひたすらかわいい。ちょこっとだけダークな部分や謎の人物がいるのも絵本、ファンタジーの世界っぽくていい。何かあってもかわいいからいいじゃん! で押し通せる素晴らしい映画!

 久しぶりにBL本を買った。内容がアンドロイドのSF物だったから。俺、アンドロイド、機械との友情とか恋愛物大好きなんだ。だからそういう物は大抵評価が甘くなりながらも、細部に「あれ、この設定おかしくないか?」とツッコミが多数生まれてしまうこともしばしば。面倒な性格。

 その漫画も「あれ? その展開(設定)は?」みたいなもやもやが結構残った。でも、(ガチな、ある程度の長さのある物を除く)SF物って説明しすぎると、文章ばかりになってしまうし、難しいんだよね。それに当たり前だけど、漫画家や小説家は技術者ではないし。きっと、書きたいのは異質な物との交流とかディストピアとかそういう物が主軸になっている気がするし、というか、俺がSFやアンドロイド物に求めているのがそれなんだ。

 まんだらけのショーケースに並ぶ、値札がついて裸のまま並べられている球体関節人形(スーパードルフィー)の群れを見ると、奇妙な近未来感に襲われて、とても好きなんだ。まるで、「人間」が売られているみたいな感じがするんだ。でも、それらは明らかに清潔で似通った人形であって、本物の人身売買とかの嫌な感じはしない。

 もしかしたら、友情や愛情が手に入るような錯覚をしてしまうのかもしれない。俺はそこまで球体関節人形に感情移入できない人間だけれど。でも、もし、漫画やゲームの世界のごとき性能のアンドロイドがいたとしたら、俺は何をしても購入してしまうだろう。

 その時代が(俺が生きているうちは絶対に)来ないと分かっているのだけれど。無意味な行動をしてほしいんだ、詩的なことを、冗談を言って欲しいんだ。

 手塚治虫の火の鳥を思い出す。ロボットと人間との交流が色んな形で描かれていて、本当に好きな作品。一番好きなのは『鳳凰編』だけどさ。

 そういえばロボット(人形)と人間との関係大好きな俺は動物も大好きで、どちらもディスコミュニケーションが大きな魅力になっていることに気付いていて、すこしげんなり。だって、誰か、と話したいのに、コミュニケーションが成立しない(或いは辛うじて成功する)という部分に魅力を感じているのだから。分からないものだらけだけど、めちゃくちゃ分からないものに惹かれる。しょっちゅう、なんだろう、って思って注意欠陥マルチタスクからのフリーズ。でも、俺、OS取り換えできないんだ。俺、早くアンドロイドになりたいな。

 奈良原一高の訃報を目にした。88歳で亡くなったそうだ。そこまで長生きしたなら、なんて本人はきっと思っていない気がするんだ。物を作る人はいつでもいつまでも、何かを見ていたい、見てみたいと思う、気がする。

 彼の写真は本でも見たが、恵比寿の写真美術館で見た軍艦島の写真がとても良かった。大きなプリントでみたそれは、生きている人の生命力が感じられて、写真集ではなく、展示で見られたことに感謝したんだ。

 本は色々買っているのだが、『軍艦島全景』という写真集がとても良かった。廃墟の写真集って、割とあって、わりとどれもそこそこ好きなのだが、購入するまでには至らなかった。だが、この本は違った。

 年代を追いながら地区ごとの変化等がきちんとアーカイブ化されていて、この本の中には歴史が、人がかつていた痕跡が、ページをめくっていくと事細かに感じられてくるのだ。よくある廃墟写真というのは、「廃墟」を「廃墟らしく(ファンタジックにノシタルジックに)」撮ろうとするのが多いと思う。でも、ここに映し出されているのは廃墟になってしまった都市なのだ。

 俺は実際に軍艦島に行きたいと、さほど思わない。この写真集のように、年代ごとの変遷とアーカイブ化され、歴史の一部になってしまった風景に、近未来感を感じるのだ。実際の軍艦島も行けば楽しいだろう。でも、本の中の歴史は、遠くて近いレトロフューチャー。

 俺にとってのSF、近未来、テクノポップ(いや、エレポップ、チップチューン)というのは皆、寂しくて小さな希望を抱ける未来の話なのだ。実際にはできないと分かっているのに、無限の未来、みたいなうさん臭くてチープなヴィジョンを夢想してしまうのだ。

 夢いっぱいの詐欺師になれますように自分自身ももっと、うまく騙せますように。

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さあ金を溝に捨てよう君。

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ゲイ。ウケ。高身長。純文学に傾倒し、執筆。十字架と百合と剣と王冠のタトゥーあり。全身が花園になる夢を見ながら、日々をすり減らす。小説、雑記を書く。趣味が合いそうなそこの君、お茶でもしましょう。東京住。