お前の中に住む宝石泥棒

早起きして、乃木神社へ。前本で読んだ白木の肌に金細工、という扉が見られなくってがっかりしたが、狛犬が良かった。直線が多く、モダンなデザインでかっこいい!

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 そして、本来の目的である、国立新美術館の ブダペスト ヨーロッパとハンガリーの美術400年 展へ行く。それほどきたいしていなかったんだけど、とってもボリュームがあって見ごたえ十分な良い展示だった

 宗教画、風俗画、庶民の生活からお金持ちの人々、戸外制作から象徴主義までよりどりみどり。彫刻作品もあった。簡単に目にとまった作品の雑感を。

 定番の聖母子は、油彩を間近で見ると、赤子、イエスの身体の温かみが感じられて良かった。桃色の肌に薄っすら混じる静脈のようなエメラルドが目を引く。受胎告知もいくつかあったのだが、縦の構図のは初めてみたかも。しかも、天使ガブリエルの顔はほぼぬりつぶされていて、神聖さというよりも、ドラマチックな動きを感じた。意欲作。

『王子の肖像』という画が面白かった。昔は赤子の死亡率が高かったから、全身にお守りをつけている王子様の画なのだが、腰からクマの手やサンゴや不思議な模様のお守りやらベルやらがごちゃごちゃ並んでいて、さながら日本の傾奇者のような奇妙さがとても好きだ。また、王子の顔はやけに目がでかく、アンティークの西洋人形のようなつくりで、カンヴァスの大きさもそこそこあって、どういう経緯でこの画が作られたか気になった。

『小さな宝石商』という作品はポストカードも買った。幼子が小さなダイヤらしきものを手にしてみつめている、ただそれだけの画なのだが、ほほえましくもかわいらしい。彼女のテーブルの上には他にも小さな、多分大して価値がない宝石が並んでいるのだが、その小さな宝石たちを、彼女はきらきらした眼で覗き込むのだろう。

メッサーシュミット『性格表現の頭像 あくびをする人』これもポストカードを買ったが、やはり彫刻(立体)は平面の図録やらでは魅力が半減する。実物はとても迫力があって良かった。

 昔、仲が良かった、彫刻をしていた人が「(彫刻の)耳は複雑な形をしているから、いかに主張するか、省略するかで腕が問われる」みたいなことを言っていて、それ以来おれは彫刻は耳を見る。彼の作品は、生々しい、力強い耳だった。良い作品。

 作品数が多いし、見どころが沢山の良い展示だった。美術館も広々とした空間で気分がいいしね。

 でさ、俺さ、ちょい風邪気味なんだ。でも、歩いて六本木から渋谷まで歩いたで。普段なら、まあ、疲れたかなって感じだけど、展示をたっぷり見た後だから、かなりグロッキー状態。

 あ、そういえば、六本木のヒルズ近くにあるラピスっていう画材店、文具店が今も営業していてびっくり(というか、その店を通る度に思う)俺がガキの頃からあるお店で、六本木の一等地は入れ替わりが激しいのに、生き残っているのはマジすごいと思う。

 久しぶりに店に入るとさ、画材屋の匂いがするんだ。いろえんぴつ、マーカー、絵の具。画、久しぶりに描きたいなって思いながらしてないな。小説だけでなくて、画にもちゃんと向き合えるのかな。しなきゃなー。元気になって、できるかな?

 そんなことを考えながら、へろへろになってはなまるうどんに行って、大量のしょうがを食す。お茶とかしょうがをとにかく食べれば平気だと俺は思っているのだ。身体、燃やすぜ。

 ふらりと寄った文化村ギャラリーは、あれ……昔見たぞ、この作品。平野甲賀大友克洋のポスター。あと、宇野亜喜良のポスターも……まあ、全部同じってわけではなかったが……。後、バレリーナをかいた人の画がそこそこの値段で会場のまわりに展示されていて、これも前見たような……

 それで、まんだらけに行って本を買ってしまう。先日図書館で本を借りたばかりなのに。最後に西武デパートで値引きシールがついた食材を買って、帰宅して、流石に疲れ切って寝た。

 起きて、大量の本の山とか、明日は日銭稼ぎがあるが、それ以降は空白で、頭が回らなくなってきた。逃げ出していけれど逃げる場所なんてない。どうしようもない、ではなく、どうにかしなければって話。

 あ、これを聞きながらたまたま知った指揮者オットー・クレンペラーという人のヴェートーベンをずっと流しっぱにしていた。彼はとってもスキャンダラスで色狂いだったそうだが、演奏はとても丁寧でエレガントに感じた。クラシックなんてわからない俺だけど。でも、ヴェートーベンはあまりこのみではないのに、彼のは気持ちよく聞けるんだ。

 色んな物が簡単に手に入るのに欲しい物は手に入らない、いや、いろんなものが手に入るだけでも幸福すぎる。増え続ける本の山と休むことを許されない俺のボロノートパソコン君。虚しくて辛くてそれなりに楽しい。

 自分が、たまに盗人になる想像をする。或いはそうなのかもしれない。誰かの生きている小石を、宝石を盗んで、飽きて、捨てるんだ。それは、なかなか良い職業かもしれない。愚かな話。