恍惚と不安

色々あった。状況はかなりよくない、のだけれど、珍しく気持ちが軽くなることがある。画を描き始めたからだ。十数年ぶりに画を描き始めた。というか、三十代で初めてアクリル画(油絵を描きたかったが、値段的に安く済みそうだから)を描いてみた。

 一発目。花を描いた。さすがに、下手だなあ、でも面白いなあと思った。無心で色を乗せ続けるというのは、やはり楽しいし、気持ちよかった。文章、小説を書くのとは違う快楽があった。

 小説を書くのって、かなり頭を使う。俺が小説を書くのが遅いのかもしれないが、色々と頭を使って文章を書いては直して、という物の繰り返し(それでも誤字脱字、間違った表現や勘違いが沢山!)。自分の書きたい物、テーマについて、ずっと考え続け、慎重にパズルを組み立てていく感じ。

 そういう意味では絵画だって同じだと思うが、俺は絵画は趣味でいい、下手でいい。そう開き直って、ようやく筆をとることができた。小説は十数年書き続けている。だから、自分の好きな物を書けているという自信がある。

 ただ、画に関しては沢山見てはいても、俺よりうまい人は山ほどいるし、どうしても比べてしまうし、この年で、しかも生活がやばくて立て直さねばならないのに始めるのか。そうずっと思っていた。

 でも、アクリルで七枚描いた。画像はネットで上げられている自然やら一部のモデルとかを参考に、わりと適当に自由に描いた。楽しかった。昨日描いた画は、5,6時間ぶっ続けで描いていた。へとへとになりすぎてやばかったが、それでもすごく楽しかった。

 アクリルが俺に向いているんだと思う。水彩のより重ね塗り、修正がとても楽。油画より扱いやすい。厚塗りや、色を重ねるのがとっても楽しいし、俺に向いていた。

 デッサン力やパースの理解、ものを描く積み重ね、そういう物が無い俺でも、「まあまあ」の画が描けたのだ。それは自己満足ではあるけれど、自分は画が描けないからやめよう(写実的な画やパースが取れない)という呪いを解くことができた。

 何かを作って楽しいって思えるって、幸福なことだ。

 仕事がだめになって、生活はかなりまずい。これから先、生きていける気がしない。なのに、画を描き始めて、へろへろになって、幸福なんだ。とっても不安で辛いのに、画をかくと楽しくって、訳が分からない。

 選ばれし者の恍惚と不安と二つ我にあり なんて十代の頃から、うわあと引いてたのにな。まあ、選ばれた、とか思っていないから違うか。恍惚と不安。いつまでも綱渡り芸人人生。