没落下等遊民記

使ってはいけないお金を溶かした最悪の年末で、しかしギャンブルがやめられずに最後だ、とかけた一万円が、奇跡的に当たり続けた。今月の生活費はどうにかなるし、負けた分はそっくりかえってきた。奇跡? 安っぽい奇跡だな! しかしその下らない奇跡で救われた。愚かな俺。

 でも、とにかく少しはまともな思考ができるようになってきた。あまりにも追い詰められていると、或いは自分を追いつめていると視野狭窄になる。歯止めがきかない。分かっているのに止められない。

 でも、とにかく外に出た。元旦の昼は思っていたよりも暖かくて、厚着をしていたから冷たい風が心地良かった。IPODから聞こえるチェット・ベイカーの甘い声が優しい。

愚かな恋を繰り返す男。彼が歌うから、或いは歌の中だから美しく映るのか。

 俺が描く小説には、たいてい愚かで熱情のある男が出てくる。作者の俺としては、生活は安定している方がいいのだが、俺も似たり寄ったりの愚かな繰り返し。

 でも、馬鹿でも愚かでも惨めでも、本を読んでいられる精神状態ならいいな。そういう風に自分を立て直さなくっちゃな。

 あといつまで書けるのか読めるのかって、強迫観念が一日に何度も俺の新蔵を柔く抱いてくる。

 前向きになるためには、前を向くためには好きな物に触れる、好きな物を書くしかない。低調ばかりの状態だけれど、それでも虚ろもまたたきも俺の友達ってことにして。

 

雑記

S・エリザベス『オカルトの美術 現代の神秘にまつわるヴィジュアル資料集』読む。オカルト、という単語には魅力もあるし警戒してしまう。だが、見えない物を見ようとして、作品にする意志に惹かれる。この本は有名な作品だけではなく2015,6年辺りの新しい作品が多くてかなり良い。

シェリダン戯曲『悪口学校』読む。道徳を説くが偽善家の兄財産を売って放蕩三昧の弟。インド帰りの叔父は本心を試そうと、身分を偽り近づく……本国でシェイクスピアと人気を競うほど上演されていた作品らしく、雄弁な曲者達が語る先の気になる風刺喜劇。舞台で見られたらもっと楽しめただろうなあ。

のばらあいこ『寄越す犬、めくる夜5』読む。1巻を読んでめっちゃ先が気になる面白さで、この5巻で完結まで約八年。バッドエンド濃厚な展開ばかりで、どうなるのかずっと気になっていた。ネタバレのため内容は言えないが、良かった。辛かった。好きな作品の完結は嬉しくて寂しい。先生お疲れ様でした。

 久しぶりに漫画の新刊を買った。この作品はとても好きだったので、何年も出るのを待っていた。完結して嬉しくって寂しい。ちょいネタバレになるが、きちんと彼らのその後の生活を書いてくれていて良かった。ラストの笑顔も胸に来た。辛さを抱えたまま、しかし生き続けることはできるんだって、彼らが教えてくれた。ドロドロのラストが好きだし、バッドエンド濃厚だと思っていたけれど良い意味で裏切られた。物語の中の彼らが頑張っている。それは本当に素敵な事なんだ。

 思えば漫画を買わないようになってしまっていた。置きばしょもあるし、見たい漫画を買っていたらきりがない金が無いのもある。それでも のばらあいこ たなと 梶本レイカ 草間さかえ 丸木戸マキ 朝田ねむい 野田彩子 等はチェックしている。BLの先生ばかりやんけ! 

 あ、あいまいみーは萌え漫画(?)で唯一全巻買っていた。というか、萌え系の漫画をほぼ買わない。だがあいまいみーはガチで笑えたギャグマンガだった。あー自分はギャグマンガで笑えたんだーって、そんな単純なことを思い出すことができた。

 でも数か月前最終巻が出てしまい、悲しくて買っていなかった。でも注文した。近々届くだろう。

少年漫画は巻数が多いからね!! 読みたいけどさ。ゴールデンカムイボールルームへようこそ 揃えたい……金がないのに欲しいものが多すぎて金の心配ばかりするのが情けない。

 ドゥシャン・カーライ絵『不思議の国のアリス』読む。大型本で定価5000円!これは大人向けだ。アリスって何だかんだで魅力的に描かれる事が多いが、カーライのアリスは普通の女の子のような描かれ方。だからこそ奇妙な世界との対比が効果的なのかも。画がとても魅力的なので、画だけのが見たい位。

 アリス=かわいい、或いは怖くて魅力的というのが定番だけれど、カーライのアリスはどこにでもいる女の子が奇妙な世界に迷い込んだと言った描かれ方で、新鮮で楽しめた。イラストの中のかわいいものは大好きだけれど、飾り気のない少年少女の魅力に気づかされた。

ユーゴー『死刑囚最後の日』読む。19世紀、若き日のユーゴー死刑廃止を目指して書き上げた一冊。饒舌で冗長な熱弁ではあるが、文が丁寧で読みやすい。ただ、考え方が異なる現代人の俺が読むと、作者(主人公)の叫びに共感するのは難しかった。政治的なのや人々に訴える小説は苦手。

花と蝶の表紙が素敵で中を調べずに買った『マリア・シビラ・メーリアン作品集』中身は16,7世紀、紙が貴重な時代、南米で昆虫の観察をしていた昆虫学者の描いた絵画(記録)だった。幼虫や蛾やら、個人的にあまり好みではない物もあるが、だからこそ新鮮!美しい物も違うのも記録する熱意と技術に感服。

映画『黒いオルフェ』十数年ぶりに見る。好きな映画なのにずっと見ていなかった。見直して忘れていたシーンばかりだったが、見覚えのある場面で妙な高揚に襲われた。この映画は変わらずに素晴らしく、俺は良くも悪くもガキのまま変わることがない。ただ、映画の中のブラジルは、夢のように輝いている

 当時アントニオ・カルロス・ジョビンは知っていたが、ルイス・ボンファは知らなくってCDを買った。昔は狂ったように中古のCDを買いあさっていた。ネットなんてないし、ジャケットも解説も大切だ。情報に飢えていた。今は簡単に曲がきけてありがたいけれど、音楽への情熱は薄れてしまったかもしれない。良いとか悪いとかではないけれど、たまに、昔の熱情を懐かしく思う。オッサンになったって、それだけのことだ。

マルセル・カミュ監督の他の映画を見てみたくって、検索をしたけれど、日本で見られそうなのはこの一作だけらしい。十数年前も似たような落胆を覚えたような気がする。

 好きなのに手に入らない物は山ほどある。手元にあるのに消化できないものも山ほどある。

 いつまで俺は働けるのか、メンタルがまともでいられるのか、本を読めるのか書けるのか。

 そんなプレッシャーに押しつぶされ、ギャンブルや薬(きちんとした処方箋が出ています)に逃避したり、頭が回らずに疲労や焦燥に依存することがしばしば。

 それでもさ、俺は誰かの作品が、自分が書くのが好きなんだ。好きなこと、できるだけ長くしていきたいんだ。