すばらしきこのせかい、って噓でも言って

 酷い時間を過ごしていた。仕事のストレス、払っていなかったカードの支払い、膨らむ借金と不安怒り焦り。小説を半年以上かけていない。年老いて、持物はなにもなく、むしろ借金だけが増えた。人生でここまで酷い状況はないかもしれない。

 それでも、自殺せずに生きている。

 今日、新すばらしきこのせかいをクリアした。前作は十数年前に出たソフトで渋谷が舞台になっている。社会とのつながりを遮断していた少年が、世界と向き合い「今を全力で楽しむ」話。今回もわりと近いテーマに少年少女が向き合うことになる。

 実家からは歩いて渋谷に行ける距離だったから、学生時代は意味もなく渋谷に行った。高い物は買えなかったけれど雑踏が好きだったし、本やCDならかねがなくてもどうにか買えた。

 前作のDSのソフトは大好きで、サントラも二枚買ったくらいだ。渋谷が舞台で音楽もバラエティに富んでいる。何より、心を閉ざしていた主人公が、人や街を好きになる、「今を全力で楽しめ」というメッセージを受け取り歩んでいく姿が好きだった。

 ニンテンドースイッチはずっと欲しかった。でも、金が無さすぎてというか支払いがあり過ぎてそれどころではなかった。

 ずっと、欲しい物を買っていなかった。お金が減るのが怖かった。数百円の物を買うのにも躊躇した。それなのに、ギャンブルで何万円も金を溶かし続けた。その結果、恐ろしい金額まで借金が膨れ上がった。

 何もかもがうまくいかなくって、唯一好きだった小説も読めないし書けないし、もう、自分の中は空っぽで、ギャンブルに依存して心を埋めたかった。お金儲けがしたいというよりかは、ずっと「演出」を見ていたかった。どうにかなる、と思いたかった。

 そんな俺が、久しぶりに家庭用のゲームを買った。それが、新すばらしきこのせかい。少しの不安と大きな期待を胸にプレイ。操作性は向上して渋谷の街も最新のものになっていて、とても楽しめた。

 二十歳過ぎの頃に大好きだったゲームの続編を、四十代後半で借金に押しつぶされて何もかけない俺でも、楽しめた。

 前作に思い入れが強いので、どうしても前作の方が、なんて思う所も多少はあったが、今作の良さも沢山あった。何より、一年ぶり?位に家庭用ゲームを楽しくクリアできた自分が嬉しかった。

 スマホゲームをやっては消すのを繰り返し、それにも飽きてしまってたから。

 ゲームをクリアして、また、渋谷は平和になって少年少女も大人たちもそれぞれの人生を生きていく。

 俺はまた、取り残された気分。ひとりで、なにもないどころか負債をかかえ、毎日つぶれそうなのを処方箋で誤魔化している。

 それも、いつまでもつのかな。諦めて、終わりにするのかな。楽になりたいな。俺は、自分が書いた小説を好きだけど、社会的には価値が無く、それでもいいと思っていたけれど、ひたすら借金を返し続けて小説もかけないなら、死んだ方がいいかもしれない。

 そういったことが何度も頭の中を通り抜けて消えて、繰り返す。

 それでも、こんな酷い生活でも、多少は本を読めるようになってきていた。

雑記

海野弘『366日絵画でめぐるファッション史』読む。権威を現す肖像画、流行や生活を読み取れる風俗画。絵画における洋服でその時代や意図を読み解く。解説つきで、気軽に色んなファッションを見られるのが楽しい。個人的には日常生活に不便な、過剰な襟やリボンやフリルが楽しくて好き

海野弘『ロシア・バレエとモダンアート華麗なる「バレエ・リュス」と舞台芸術の世界』読む。通常イメージするバレエとは違い、トウ・シューズをはかない、自由な総合芸術としてのバレエの世界を紹介。芸術家との結びつきや豊富な衣装デザイン等見所だらけの素敵な一冊

コルタサル『秘密の武器』読む。悪夢、幻想、いや、作者の執拗なオブセッション言語化され、日常の景色のはずなのに幻覚の中へと迷い込んでしまう。とても良い短編集だった。チャーリー・パーカーの伝記に着想をえたという作品での「麻薬と貧困は相性が悪い」って主人公の目線、切なくてクールだな。

 久しぶりに知らない海外の小説を読めた。とても楽しかった。俺の知らない素敵な小説が沢山あるって当たり前のことを思い出させてくれた。体力が無いとしょうせつには向き合えない。でも、誰かの言葉を目にしないと、俺も自分の言葉を作り出せなくなる。ずっと逃げてはいられないな。

他にも少しは本を読めるようになってきている。でも、今の仕事が大変過ぎて、帰宅したら疲れて寝て、休みも頭が動かないし、支払いの心配ばかり。何かお金を使うのもためらわれるというか、少しでも減らさないと、低賃金非正規躁鬱だから、生きていけない。

 大好きなゲームの大切なメッセージ「今を全力で楽しめ」

 それが一年以上できていない。

 だけど、そうしなかったら、死んでいるよりもくるしい。

 自殺するにしても、それなりに満足してからがいいな。まだ、書きたいこと、かけないけどやりたいこと、残っているんだ。

 世界はすばらしくても、おれは好かれなかった選ばれなかった。それでもいい、それでもそれなりに楽しいんだって二十代の強がりを、三十代後半の今も忘れないように、忘れているけれど、思い出せるように。

 生きていて楽しいことより苦しいことの方がはるかに多かったけれど、でも世界はわけがわからなくって、好きだ。

 すきなら、しかたない