「ん? どうしたんだいゴロリ」「ねえわくわくさん。いつ地球は滅亡するの?」

一ヶ月、二ヶ月先の事を考えると食欲も減退するもので、食費も抑えられていたのだけれど、或る夜、ものすごくお腹がすいてしまって、近所にある百円ショップの値下がり品を幾つか購入して、家に着く、と、鍵が無い。鍵と言うか、財布が無い。

 店で金を出した際にしか使ってないのだからと戻った店にない。落ち着いて、また家に戻りドアの前を探してみてもない。また店に戻って店員に聞いてみてもない。家に戻る道を探してみてもない。

 時刻は十二時を回っている。朝までどうすればいいんだ、というか、数万円の生活費が入った財布がなくなって鍵もなくて、呆然としながら家に戻り、また、店に行って探すが、無い。

 ああ、働こう、というか働くしかないなあ、と思ってもないことが頭に浮かび、何だかぼんやりしたまま、ふと、視界に交番が入り、「まさか」と思いながら中に入り、警察官に「あのーさっきここで財布落としたんですけど」って、おいてめー手に持ってるの俺の財布じゃんか!!

 で、俺の財布の特徴やら中に入っている物を色々説明して、ポリが「身分を証明出来るものお持ちですか」って聞くけど、そんなん財布に全部入ってるに決まってんじゃねーか!! って、丁寧に言ったら、もう拾得物がどうたらこうたら、とか、しらねーよそんな事務的なこと!! カードとかは無事でも、中身の札が抜かれてたらどーすんだ早く返せ!!

 とか思いながらもそんな申し出が通るわけないのでポリののろのろとした説明を聞いていると、中からもう一人のポリが出てきて、色々と紙に記入する羽目になって、

 てか、ポリマジ要領悪いって言うか遅いっつーか、てめーらは暇な時の夜のイベントかもしれねーけど俺はポリハウスなんていたくねーんだこのやろーって、普段あんまりしてないのか、「○○用紙はどこ?」とか探したり、他の部署(?)に電話をし始めたり、マジで、めんどくせーし。

 しかも、紙に職業まで書かされて、無職って書いたよ馬鹿!! 無職で悪いか!! いいえそんなことはありません悪いのは俺の心です、ってアホか!!

 ってな下らないことで、四十分もポリハウスで過ごしていました。ファッキン!! 最後に俺は「どうもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ありがとうございました」って言ってやったぜ!! ファック!!

 そんな状況に陥って、家に戻り、少し気分が楽になりながらも、明日からのことは不透明なまま、いやおうなくこれからの事を考えてしまう。地球が滅亡した時の事を。

 フリーゲムとかゲームとかで、地球滅亡系のはかなり少ないような気がした。ジャンクとかサイバーとかゴミくずわーい系な感じ。女神転生みたいな感じの。悪魔が東京にやってくればいいのに、ていうか、毎日わくわくしながらそういうことを考えてたら、俺も仕事が出来るような気がする。でも、毎日そんなことガチで考えてたら、確実に頭がアレな感じになって、仕事どころじゃなくなってるだろうけれど。滅亡するのに仕事なんてしてられるか!!

 てか、無いなら自分で作りゃーいいじゃん、どうせ時間ならあるんだし、ってことで、滅亡する系の、冒険小説を書いていた。フリーゲームに触発されて、本当はアドベンチャーゲームみたいなの作りたいなと思ったんだけど、現実逃避はそこそこに。娯楽小説を書くのなら、かなりコストがかからないしね!

 絶え間ない対話の繰り返しによって未来を織り上げていく、知を信じている秀才のイケメン君と、そんなのが機能してない時代でドンパチしたいヤクザの妾の息子君と、アスペというか超空気を読めない、ノイズを耳にしてしまう男の子、とかその他、が日本ボーン!! した後でゲームに参加、みたいな(俺にしては)ベッタベタな感じの小説を書いていた。

 ゲームでも何でも、対立したり、対立すらしていない人らを見るのはとてもわくわくする(物にもよるが)。『思想地図』のVol3のシンポジウムの部分はとても面白かった。「興味が無いことには興味が無い」もんね皆! すれ違いやら無関心やら、でも東先生が頑張ってるのとか、読み物として刺激的だった。まあ、それなり、というか、もう超有名どころの人らばっか集めてるんだから当然かもしれない。

 だから作り物の群像劇みたいなのは、過剰なキャラクターが、大いに頭が悪い台詞を、カッコつけた台詞を吐くべきだ。

 そう思いながらも、行き当たりばったりでだらだら書いていたら、全部で、ワードで180ページを越えていた。こんな長い小説(小説と呼べたとして)を書いたのは初めてだった。

 書いたペースが一日五ページから七ページとしても、約一月。この時間を何か別の事に活用できたのでは、と一瞬思ったが、でもそれだって、他の暇つぶしに使われるのだとすぐに気付く。

 それに、なんだかんだで(クオリティを『特に』考慮に入れなければ)、書こうと思えばどんどん書けるのだと自分で思えたことは良かった。未だ書ける。暇はつぶさなければならないし、頑張って終わりを迎えよう!!

 古川日出男の小説を俺は好きではない、というか合わない。彼が影響を受けた、好みだと上げる作家もそうなのだから当然かもしれない。短編二冊読んで、もうお腹いっぱいだった。

 でも彼がウィザードリィの小説を書いていたことは知っていた。しかも一巻しか刊行されず、しかも彼の中で黒歴史というか、経歴には載っていないらしい。一応その『砂の王』が古川のデビュー作となっているのにも関わらず。

 「作家が書いた」ノベライズというか、そういった小説ならば、なんであれ一定以上の質は保ったものだろう、とそう思って手にした彼の『砂の王』は、序文をベニー松山が書いていた。その序文でベニーはかなり古川のことをほめちぎっていた。ゲーム小説の名で刊行される物が多い中(書かれたのは94年当時)ゲーム小説として形を為している物がどれだけあるだろうか、という真面目な問いで始まり、それは古川への賛辞で結ばれる。古川の存在が「この混沌としたジャンルに基盤を築いてくれるだろう」とまで言っているのだ。

 で、俺が読んでみた感想としては、ベニーのその言葉が大袈裟ではないと感じた。特に目を引いたのが、ウィザードリィというゲームをモチーフにした(GBの外伝2がモチーフらしい。俺はGBのWIZをしたことない。世代ではないので、電池切れが怖くて)のにもかかわらず、つまりアイテムやら魔法やらモンスターやらを「知っている人」しかほぼ読まないであろう小説にもかかわらず、そういった固有名詞を登場させなかった点だ。物語にも関わる、エルフ、人間、ノーム、とかそう言った種族の説明はあるにせよ、(カント寺院も登場する。登場人物の一人が信仰しているし。だってさ、寺院や宗教には必ず名前があるでしょ?)これは「小説」の流儀で書かれていることは間違いない。作者がそれを意識していることは。

 おそらく、ゲームをしていない人でも楽しめる小説を目指して書かれていたのだろう。こういったゲーム小説は、多分ファンアイテムというか、そういう楽しみ方、消費のされ方がするのだと思う。ファンの人が、その世界を延長する為に、二次創作的な楽しみ方だ。当然、そういった場合はその小説そのもの以外の助けが必要で、単品で成立しないような性質を持っている。それがいいとか悪いとかそういうことではないけれど、作者が「小説」を書きたいのだとしたら、それが枷になることはあるだろう。

 古川の『砂の王』は、ゲームをプレイしない人にでも面白く楽しめる、エンタメ小説に仕上がっていた。でも、それはあくまで、楽しめることを主題に置かれて、ゲーム小説の文脈からは逃れていたとしても、エンタメ小説の範疇にあった。




 この時だった。酒場の喧騒が不意に失われた。
 店の看板をくぐって戸口に立つ男がおり、それが原因だった。静寂に不審を覚えたアシュエルとシメオンも戸口を振り返り、そして見た。
 それは人間族の男に違いなかった――だが何という美麗さか。髪は二種類の色彩、漆黒と炎黄色とが溶け合う至高の芸術。相貌は黒緑の琥珀で、肌は白の中の白。衆人が息を飲んで……


 一部分を引用したが、「漆黒と炎黄色とが溶け合う至高の芸術」なんて文章、何も意味していない、何も描写していないことは明白だ。その人が小説を書こうとしているのならば、そう思うだろう。物語を語ろうとしているのならば別だが。

 別にここで槍玉にあげた個所は、おかしな文章ではない。でも、正直に言って、恥ずかしい、或いは冒険小説だからこそ許される描写だろう。芸術的な美貌は誰にも宿らない。悲しい顔をした動物なんて存在しない。俺はそう確信している。

 でも、そう思っていない人の方が多いだろう。けど、知ったこっちゃない。だって俺は確信してるんだから、「俺の中では」ね!

 それに、古川は俺が知っている限り、そう言う表現は使わなくなった。二冊しか読んでないでこういうことを言うのはふざけているかもしれないが、でも、この『砂の王』は、彼の他の著作とは明らかに異なっていた。そして、俺はこの『砂の王』が、古川の著作の中で、今の所、一番楽しめた。

 もっと彼の著作を読めば感想は変わるかも知れなないが、俺にはしなければいけない、したい、暇つぶしが多くて、いつになるかは分からない。というか、合わないんだよね。でも、合わない人のだって読むよ暇人だから。

 小説を書ける人は、冒険小説を書いてくれない。冒険小説の体を内包している場合があるだろうし、別にわざわざ過剰なサービスをする必要を感じないのだろう(というか、それが瑕疵につながるのだ)。確かによんでわくわくできれば、どんなものだってオッケーだけれど、地球ボーンとか悪魔がわーいとか、そんなん、沢山消費したい。古井さんとか金井さんとか清水さんとか、クールなのとか厭味ったらしいの超得意だから、ガチの冒険小説を書いたのあったら超読みたい。絶対に無理だけど。


 みんなあんまり乗り気じゃないから自作自演(は?)するしかない。というか、してみたら、思っていた以上に楽しかった。自作自演ばかりでどうにかなるとは思えないけれど、でも、今はそれでもいいんだって思う。たかが暇つぶしでも、されど暇つぶし、ボーン。