夢の続きをいつまでも

夢を見た。悪くない夢だった。少年と青年が森の中を歩いている。少年はどうやら前を歩く青年と友人らしいのだが、信用ならないというか、密かに警戒心を抱いているらしかった。でも、前を歩く青年が立ち止り指さした先には花々が咲いていて、その指先の桜貝色と木漏れ日を受けた顔の晴れやかさを目にして、それはとても鮮やかな光景で少年の警戒心が溶ける、所で目が覚めた。

 指先の桜貝色はともかく、花が咲いているのを見せるのに、次の映像(描写)木漏れ日が見える(木漏れれ日が見れているなら光と葉っぱの影とかしか見られないのでは?)、というのはおかしい。まあ、夢なんだから何でもありなんだけれども、夢から覚めた俺はその映像の続きが見たい、作りたいと思ってしまったのだ

 若い頃、映画監督とかデザイナーとかモデルとかミュージシャンとかなりたい職業は色々あった。結果として小説を書き続けているのは、一人で出来るからだ。なんともめんどくさがりで消極的な理由だろうか。色んな芸術や表現が好きだけれど、俺は皆で何かをする、ということができなかった。

 とはいえ生きていくには一人きりでは成り立たない。仕事をするにも楽しむにも孤独をうめるにも、集団行動は必要だ。でも、俺はそれがとても苦手で何度も駄目にして、苦戦してどうにかしがみついての繰り返し。人間関係で苦労しない人はいないにしても、酷い有様だなあと歳をとるにつれて身体の中に澱がたまっていくのを感じていた。
 
 俺はもう、駄目なのかなって、希死念慮も強くなり、身体も精神も駄目になってきて、大切な大切な、他人から見たらゴミだらけの部屋を少しずつ整理して、売れる物は売り始め、捨てられる物は捨てた。それでもなお家には物が沢山あるけれど。

 欲しいものが無くなってしまった。というか、俺には手に入らないのだと思った。そうしたら、俺は何を目標に生きて行けばいいのだろうか。仕事は不安定でもう若くない。頑張らねばという空元気と、楽になりたい気持ちの間で揺れ、処方箋で眠り続けるとかギャンブルに逃げるとかそういう洗濯ばかりを続けていたけれど、惨めな末路だなあと我ながら他人事のように感じていた。終わりはゆっくりと近づいてきていて、まだあきらめていない諦めていないにせよ、腐りかけの精神と身体を見ないようにして生きるのか。

 なんて思いが頭に住んでいた。でも、小説を書こうと思ったら余計な雑念が消えた。ずっと書くことから逃げていた。毎日書かなきゃ書けなかったと自分を責め、構想はスマホにメモしていて、しかし形にはならない。

 というかある程度精神の余裕がないと小説は書けない。ずっと、ボロボロのまま。でもさ、この先もボロボロのままだよ、それを理由に書かないで終わるのか、やだなって思った。

 久しぶりにワードを起動した。そうしたら、見たこともないエラーが表示されて、慌てて検索すると、オフィス2013のワードに不具合が出ている、らしい。俺のパソコン十年選手だよ。色々ガタが来ているけどよく頑張ってくれた。でも、金が無いんだ。いつまで君は頑張れるのかな?

 なんて思っていたが、ワードが使えないのでは小説は書けない(書こうと思えばできるけど)。色々しらべて、どうやら修復は不可能で一度オフィスをアンインストールしてから再度インストールをしてプロダクトコードをにゅうりょくすればいける、らしい。

 でもプロダクトコード書いた紙、どこにある? それにパソコンに詳しくないのだが、なんかそのライセンス?が一度しか使えないとか書かれているんだけど……

 とりあえず部屋中を探して2013オフィスのプロダクトコードの書いてあるカードを運良く発見し、試みた。パソコンは詳しくないのでスマホでやり方を見ながら半信半疑。オフィス2013の32ビットを64ビットにしなければならないらしい。知らないよそんなこと!! 今までずっと仕えていたのに。

 俺の理解力が足りていないのか、使用できないという説明とかもサイトによって微妙に解決やらの仕方が異なる。とにかく、そのコードを入れてみるしかない。

 結果、直った。調べたら64ビットのオフィスになっている、っぽかった。

 実は数日前電源の表示が点滅するようになって、流石に電源おかしくなったら買い替えるしかないと思っていた。

 満身創痍。でもなんとかなった。

 久しぶりにワードで小説を思ったまま書き散らした。細かい設定は考えていないけれど、一応ラストは頭にあった。俺はラストさえ決められたら、そこに向けて物語を作り上げていけるので、乱雑でもとりあえずは書き進められるのだ。

 楽しかった。久しぶりに自由で我儘で傲慢な人間を書けた。愛や欲望や美しさ、俺が見えなくなったものを信じている渇望している軽んじている蔑んでいる人々。そういう人を書きたい。

 そういうのを、俺も求めて生きていきたいんだ。

 身体や頭がいかれて、おまけに借金があって若くなくても、小説を書いただけで精神が少しまともになるのを感じた。その位俺の感情の起伏は極端で沼の中で這いずり回っていた。今も

 誰かの欲望を書くには、自分の中のそれを多少なりとも引きずり出す必要があると思う。

 ああ、俺は多分人や物を憎んだり愛したり傷つけたり優しくしたりしたいんだなあできるんだなあと思った。実際は徒花でしかない物語、俺の為の他者には求められない小説だとしても、それでもそれを書いて作り上げて、埋葬できるなら、俺は自分の人生、まあ、悪くないかもって思えるんだ。

 一人で作り上げた世界を、一人で終わらせる。埋葬人生。孤独なリハビリ人生。もっと楽しくてまともなのがよかったけれど、俺にはこんな生き方楽しみかたしかできないんだろう。

 ノートパソコンの電源ランプが点滅しているのに気づいた。怖い。

でも、小説が書けるならまだ生きているって狂っていないってことだよなそうだろ?