シフォン、シフォンケーキ

近頃夜の空気が生温かくて不謹慎な時期になってきていて不純異性交遊が好きなNちゃんとお昼を食べる。Nちゃんは恋愛の話ばかりをする。相手にとっても、恋愛が何より大事だと信じている、というか確信しているらしいNちゃん、は会話の色々な事柄と恋愛を結び付けるNちゃん、はシフォンケーキをフォークで意味なく二三度刺しながら言う「ヨナ最近恋愛してる?」

 その言葉を耳にしながら、共通の友人である「ヨナさあ、俺、昼間っから寿司屋で日本酒だけ注文して酔っ払いたいなあ」とか言っていた憎たらしい憎めないイケメン君は今どうしてるのかな、と思い口に出してみた。Nちゃんは「ああ、働いてるんじゃん」と興味なさそうに言った。働いてるの、かな?

 その小一時間前に電話があった。合否に関わらず電話するとか言ってたくせにこねーよバカ、とか思っていたら採用の電話で、何だか良く分からない状況にいるなあ、と思った。

 面接の際に待遇を確認すると、俺の思っていたものとは大分違い、これなら落ちてもいいかなーてか人数多いし無理か、と思っていたが受かってしまった。運が良く。一部を除いて、選ばれるのにそれほど特別な理由なんてない、というか、今回の俺の場合は特に。

 とはいえ、俺にも出来そうな仕事ではある、のだが、シフトが超高速時間長いくせに不定期で、今後の生活が成り立つのかもしばらくしないと分からないだろう、けれどうだうだ考えてもしかたないんだよね喜んだ方がいいのかな、よろこんでくれるかいNちゃん、

 というようなことを告げるとNちゃんは俺の言葉を流して「てか最近ブラックマヨネーズのハゲ沢山出てるよね、結構好きなんだけど、てかハゲ面白くない?」

「え、俺吉田の方が好き、てか、ブラックマヨネーズ面白いよね。安定感あるもん」

「ヨナ無職だし芸人になれば?」

「芸がないんで無理っす」

「じゃあ恋でもすればいいのに」

 そこまで親しいわけではないけれど、会えばいつも気の無い台詞をはく俺に向かって同じ言葉をかけてくるNちゃんに気を使い、俺は「実はさあ」と適当なことを喋り始めると、(Nちゃんはスポルツメン風、仕事しまくり風の人が好き。顔は割とどうでもいいらしい)恋愛対象外の俺に親身になって、相槌を打つ動作が大きくなっていって、時給三千円の占い師みたいな「うん、わかる」を所々で挟み共感を示し、アイラインがっつり引いた眼が恋愛で濡れる。きらきらした瞳の人を見るのは好きだ彼女に、

「報われない恋愛だったら超応援する」と言われている錯覚をして、Nちゃんを可愛いと思う。ピンクベージュの唇にフューシャピンクのおもちゃみたいなバッグを持った、なんだかちぐはぐなNちゃん。

 欲しいものなら即答できないけれど、ちょっと欲しいものならばありすぎて困る。さっさと触れていかなくっちゃ、お金もはいる(だろうし)いつまで何が、どうなるかわかんない(だろうし)。

 俺はいつもふらふらしているけれど、Nちゃんはピリピリしている。傭兵みたいだ。サバイバーだってか、サバイヴしようとしているNちゃんは。そういう心意気って、俺には似合わないのかもしれないけれど、そろそろ俺も兵士コスプレをして竹やり買いにあっ、竹やりに合わせるブーツとシャツ、ていうかブーツは高いしもうすぐ不謹慎な季節になるし、でも夏にブーツってドキがムネムネするっていうかおーしば君の真似してライダースハーパンごついブーツみたいな恰好久しぶりにしなきゃ、とか思って兵士って案外楽しいのかなとかコスプレだから楽しいのかなとか思ってでも、とにかく色々と始まってしまうのだから俺も。