ブラッディ・ルビーマリー

パソコンが壊れた、けれどガーガーうるさいが未だ使えていて、でもこんなことしていると寿命は近いようだ、と思っていたらプリンターが使いものにならなくなって、ベッドが壊れてPSPのボタンが駄目になってタッパーを二個破壊してしまって、最後にサイフを落とした。以前財布をパーカーのポケットに入れて失くした時とまったく同じやり方で。ああ、こりゃだめだ、と思ったら財布は親切な人が届けてくれた。あんまりありがたく思っていないような気もしたのだが、やはり、ありがたいと思う、ありがとう。

 映画なんてちっとも見たくないのだけれど、ツタヤで半額セールをしていたから何度も借りに行って、でも映画なんて見たくもないのだから最初は疲れないドキュメンタリー映画ばかり見ていたのだけれど、BBCが制作している美術の巨匠シリーズは他の(特に日本の)とは違って、寸劇やら(美術)関係者の証言やら実際に当時のものを制作したりとかかなり豪華だった。日本のって静かな映像にナレーションとか、そういう教科書通りって感じで、それはそれでいいのかもしれないけれど、BBCテレビの方が制作者の志が高い気がして面白かった。

 ずっと見ようと思いながらまあ、どうでもいいやと何年も思っていた『バクダッド・カフェ』と『チョコレート』を見る。バグダッドの方はやけに高評価らしいのだけれど、単なる出来の良い凡庸なおとぎ話って感じで、退屈こそしなかったものの、全然わくわくどきどきしなかった。よくできているけれど、これ、映画じゃなくてもいいよね、的な。絵本の賢者の贈り物
、みたいな(嫌いじゃないけど)

 どっちかといえばチョコレートの方が好みで、弛緩したロマンチックがただれていく様が好ましかった。いつまでも差別するものは差別をして、和解出来たりもするし出来なかったりもする、くすぶったヒステリックな承認欲求は、男に買ってもらった安っぽいチョコレートを口にするように、たまゆら、満たされる。

 溝口の映画を二本見て、何というか、完璧というかこれぞ映画だという気になってきて、でも俺は彼を超好きなわけでもない狂ったりなんかしない。これからもちょこちょこ見ていきたい。

それと鈴木清順の『夢二』がよかった。まあ、清順だからね、というのはそりゃそうなんだけれど、夢二役の沢田研二がかなりはまり役で、実際の夢二なんてどうでもよくって、やや年をとって皮膚のたるみも見える、沢田研二のひょうひょうとした骨太色男っぷりがかっこよく、清順の心地よい悪夢的映像にタメを張れていた。

 夢二というと必ず室生犀星のエッセイの発言を思い出してしまって、「若い女がころっていってる、つまりあんなものは春画じゃないか」という趣旨の発言で、俺もそう思うし、春画と女をこます研二/夢二は中々のもので、俺としては清順悪夢に飲まれる研二がいいなと思う。

 あ、でも実相寺昭雄の『曼陀羅』は見るのがきつくて、センスのない文学的(笑)長台詞をまくしたてエロだ紛争だユートピア共産主義だ、的ノリは勘弁してほしい。なんかほんと俺はATG関連の人達と相性が悪い。この人たちからセンスとかユーモアというものをほとんど感じないのだ。多分、男のナルシシズムで出来た映画という感じがする。でも、それが薄っぺらいものではなく大真面目だから、映画として力があるのだとも思うのだけれど。


 ジム・ジャームッシュ、というのは俺にとって不思議な監督で、俺はすぐ厭だ/スゲー、どうでもいい、と反応が激しいのだけれど彼の映画には、ひっかかりをあまり感じないまま(もちろんセンスはいいのだけど)、でも楽しく見てしまう。個人的にはオタール・イオセリアーニアキ・カウリスマキに近い感覚で見る、そして多くを忘れ、うっすらと心地よい感覚が残される。それは、彼らが優しい監督だからという気がする(勿論褒め言葉だ)。

 優しさ、を持て余す俺は些細なことがきっかけで些細なことにはならなくなって、こういうことはやめよう、と思っていたのだけれどアルコールと薬を飲んで眠くなるまで泡をひたすら消すゲーム(パズルボブル)をして、数時間後に起きたらとにかく外に出ることにする。どんなときでも留まるのは危険だ、多分。

ゴスペルと(初期の)ゲームミュージックが好きな子が「ハウスミュージックってのは千切れた祈りなんだよ」という台詞を口にするのが頭に浮かんで、ゴスペルもゲームミュージックもとても心地よく耳に刺さって、長時間聞くのには全く適していない、のだけれどハウスミュージックならばずっと聞いていられる。ハウス、という名称の語源は幾つか候補があるらしいのだけれど、モテないゲイが家で一人で楽しむためにダンスミュージックを作っていた、という説が一番好きだ。はしたないだろ、一番、祈りみたいだろ? ハウスミュージック、ロマンティック・シティ・ラブホテル。はしたないはしたない気分昂揚の寒さ。

 でもクラブに行って心がすさむような無駄金は無いから一枚60円の激安ガーナ・チョコレートを三枚、恵比寿ビールを二本で街を歩きながら音楽をIPODで聞いて、kiyoshi sugo, autechre ,Spirt cathcer, Hexstatic, REI harakamiとか、一人でテクノばっかり聞いていると早死にしてしまいそうだけれどテクノを聴いていると死んだりなんてしないような気がする。

 ふと、テクノなんて止めて、大好きなGREAT3のRUBYを流して口ずさむ。
「愛の回路 心から血が 流れ出して止まらない 愛さないで 流れ出して止まらない」
 
 俺の心の臓も、血液を吐き過ぎて、本当に大変だと思う。大変だ大変だ、もっと、軽いの、軽いのがいい、そう、

髭の『ブラッディ・マリー、気をつけろ!』みたいに、


もう一回殺してくれ来週 カクテルグラスでおぼれてる最中
 
ブラッディー・マリー、ブラッディーマリー、…

もう一回殺してくれ来週 トマトが君を潰してる最中

ブラッディー・マリー、ブラッディーマリー、…


 こういうキュートなのってすごく好きで、好みではないお酒も飲みたくなる。でも、ブラッディ・マリー位ならアルコールに強くない俺でも気軽に飲める、垂れ流しシネマみたいに楽しめる、楽しめますように映画を音楽を書くことを。