刺青を散らしてDJ

浅い眠りを繰り返す。食事も質素な物で、急に色々食べたくなって、安い油とチョコレートばかり口にする。

 俺は身体を動かすのが好きな方ではないのだが、学生の頃は陸上部で、リレーの選手にもなっていたので、そこそこは運動ができていたのかもしれない。

 走る時の、あの身体を、全身を自分が動かしている感覚、そして心地良くなってしまう肺の苦しみは忘れられない。

 最近はずっとクラブに行っていない。それに、元々俺はクラブは、閉鎖空間は、心地良くもとても居心地の悪い場所だった。あの場所は、はしたなくってアンニュイでキュート、これってハウスミュージックのことでもあるような気がする。

 だから結構家で、電気を全部消して、イヤホンの音量を最大にして、下着だけを身につけて、一人で踊り狂うことがある。ぐっちゃぐちゃな、どうしようもないダンスは、中々気持ちがいいものだ。

 そんな時に御供にいいのは、はしたなくってグラマラスでクールなテクノミュージック。
yuksek  extra ball(remix)
 http://www.youtube.com/watch?v=NO28c7-ob3k


surkin white knight two

 http://www.youtube.com/watch?v=KJhaMfSnRFc

HIEROPHANT GREEN - Fxxxxn' Birthday

http://www.youtube.com/watch?v=TJO6Bu53Bp4

正直大音量で聞かないと魅力が半減してしまうようなものばかりだが、イヤホン全開で屑ダンスをすれば、かなり気分がいい。音楽と溶けあう、みたいな。


 思えば俺は多少理屈っぽいせいか、結構身体をないがしろにしているような気がする。身体を大切にしない、どこか軽視している。でも、一応身体の楽しみというのも人並みには分かっている、はずだ。貧相な馬鹿なダンスだって、とっても楽しめるのだから。

 そんな俺がすごく好きで、何度も聞いてしまうのは、スパンクハッピーの「フロイドと夜桜」。


「夢から覚めても夢の 夢の中でまた夢の中

 さまようアタシは今日も

 コワイ夢やアマイ夢を見たの」

 そしてこの歌の中の少女(しかしこの曲で主に歌っているのは、プロデューサーである男、菊地成孔)は

 「恋するバカなアタシは 

 ワルイ人がワルイ人が好きなの」と歌う。そして、

「あいつの背中の刺青は 春の夜桜よ パっと散りそうな

 粋でいなせで艶っぽい 思い出すたびにね 気を失いそうになる」

 また、悪い癖で、逃避癖で新しいタトゥーを、とか夢想する。それにさ、知ってる? おしろい彫りって。身体の温度が上がるとタトゥーが浮かび上がるっていう奴で、マジ超かっこいい、全身おしろい彫りで、憎しみで花々だらけにしてほしいなあ、でも、これって現実には出来る人はいない伝説の技法らしいんだ、残念だなあ、でも、技法名は失念したが、赤い墨を入れるんじゃなくて、肌の表皮を削って血の赤さをむき出しにしてくれる彫り方もあるらしくって、それで花々を掘られたらさあ、かなりカッコいいと思うんだよね、


 フロイドと夜桜の歌詞をまた引く

「先生先生ジグムンド あなた博士でしょ? 心理学の?

 あたしの胸の夜桜を 二度と散らさずに忘れさせて

 クリスマス クリスマス御釈迦様

 あなた今夜はね? お暇でしょ?

 かなしき乙女世界中の アタシ達を皆叱ってほしいの」

 この歌詞を歌謡曲ガラージハウスみたいな曲調に乗せて歌われると、もう、たまらなくなってしまう。フロイドが好きな菊地は、自著で何度か、自分が「叱ってほしい」ということを口にしていて、でも、彼は自分に対する意見や中傷にかなり敏感で、お前らなんかに「叱られたくなんてないんだよ」ってことなんだと思うのだが、「偉大なる存在」だけに「叱ってほしい」なんて口に出せるなんて、少し、驚いてしまって、


 でも、思えば俺は彼(ら)にとても惹かれてしまう部分があって、それは彼(ら)が、

 セックスと自己愛に溺れ、十分な悦楽を味わいながらも、その「場、(ハウス)」において、彼らが同時に、「本当に」傷ついてしまっているように感じてしまうのだ。

 まあ、これは俺の勝手な決めつけ(菊地さんごめんなさい、今更?)でしかないのだが、幸福のためのミュージックを作れる人はきっと、うすら寒さを持ち合わせていなければならないのだと、俺は確信しているし、きっと、他の芸術でも。

 とにかく、体中が花々ならば、と夢想するのはとても気分がいいもので、踊った後の、思考を排斥するあの心地良い徒労感と共に、自信に献花する夢想のまま。