けだもの、英雄

 色々な雑務やらに追われ、つい感情的になったり感傷的になったり。その上うだるような、吐きそうになるじめじめした暑さも重なり倒れそうになるが、倒れたりなんかしたら詰むわけで、もう少しがんばろうと思う。

 今住んでいる場所は立地的にはとてもいい場所で(その分家賃も高いが)、そして実家からも割りと近く、学生のころから慣れ親しんでいた町なので、新しい、単に家賃だけで決めた、まったく知らない町に住むことを考えると、何だか現実味がないというか、てか、俺の人生そんなのばかりだなあと思う。

 地に足着かない、でも、そこそこ、楽しんでいるらしい人生。


 ミズノマリのソロ名義の『気絶するほど、ラグジュアリー』を聴く。本当に俺はこの人の声が好きだ。クールでグラマラスでキュート。paris matchも好きだが、このソロ名義の曲はこの人しか歌いこなせないんじゃないかって位いろんな要素が組み合わさって、えらいいい出来だと思う。

 ショコラ&アキトのかわいらしい歌詞もシティポップ風の曲も、ミズノマリのクールな声が導き三位一体、本当にラグジュアリーな気分だ。数分間の魔法、つまり、優れたポップソング。

 http://www.youtube.com/watch?v=_D170NnJQPo

 割と男性は甘めな声が好きで、女性だとクールな感じの声がすきだ。多分、かっこいいのとかわいいのがとても好きだから。

 高校のころ(今もだが)、すごく好きだったカヒミカリイのI am a kitten.
初期のカヒミモーマスというか、モーマスプロデュースのカヒミは一番輝いていたと思う。モーマスの陰気でメランコリックな曲と歌詞を繊細そうな振りをしてきちんとこなしてしまう彼女。美しいけもの。


http://www.youtube.com/watch?v=0Dbz4BpiPmU
私は人間でいたいけれど
私の小さな眼はチャイナ(陶器)の青色
それには悲しみが写ってる
私をなでるあなたの手
私のとは全く違うひとつの手


私はもう眠りたくない
毛糸の玉と一緒になんて
私はもう蟻を捕ったりしない
ネズミを殺したりしない
尖った耳になんて
私はもう興味ない
しましまのしっぽなんて
私があなたのその何にも
おおわれていない美しい身体を見てから
私は愛されたい
けれど神様は定めたの
あなたはひとりの人間
私は一匹の仔猫


 俺もあの、毛に覆われた、かのような「人間ではない」、かのようなものを見ると、ひどく気分が高揚する。俺も全身毛むくじゃらになりたいなと思う。まるでけだもののように。思うだけだが。けれど神様は……。



 夜に暑さがひとだんらくして、ウォン・カーウァイの『楽園の瑕』を見る。彼の映画を見るのは久しぶりで、当時から思っていたが、一時期だけゴダールと比較、類似対象としてコピーをかいていた人がいたが、ぜんぜん違って、デレク・ジャーマンに似ていると思う。カーウァイは何も語ろうとしない。主張をしない。その代わり、感情を捕まえようとする。

 いつものコンビ、クリストファー・ドイルのカメラで『射都英雄伝』の前日譚を、ってそれだけでお行儀いいものにはなるわけがなく、原作は未読だが、ヒーロー、スーパースター大好きなカーウァイに相応しい、感情で展開する映像になっている。とにかく彼らは戦う、スターだから。まあ、他のこともする。


 俺のスター、ヒーロー、は結構多いのだが、ふと、ゲームのサガフロンティア2のことを思い出した。

 雑な説明ではあるが、自然界のいろいろなものに宿っている<アニマ>、魂を引き出し(指向性を与えて)術を行使する、術至上主義の中世的な世界を舞台にした、王家と冒険者の二人の主人公の物語。この世界では魂の宿らない金属は嫌われており、主に棺などに用いられた。

 王家に生まれたギュスターヴ君は、ごく珍しいことに術不能者であった。彼は王家の儀式に失敗し、それをかばった母親と国を追われ、流刑にあってしまう。

怒り狂った国王は言う「木や草にもアニマはあるのに! あいつは石ころ以下だ!」

幼い彼は腐ってしまい、捻じ曲がったいじめっ子に育ってしまう「どうせ僕なんか、術もアニマもない、人間のクズなんだ!

 が、病弱ではあるが気品のある母はそれをいさめる。

「ギュスターヴ、見なさい!
木々が花を咲かせるのは術の力ですか?
鳥が空を飛べるのは、術が使えるからですか?
術が使えなくても、あなたは人間なの。 人間なのよ、ギュスターヴ!!

 そして病弱な母を早くになくしてしまい、ギュスターヴは変わる。<アニマ>を阻害する、術の力を弱めることから嫌われ軽視されていた金属、鋼鉄の武器を作り、それを使いこなし大陸を制覇するのだ。

 この展開はかなり熱かった。ゲームシステム的にも金属製品を身に着けるとがくっと能力が落ち術が使えなくなるのだが、ギュスターヴはあえてそれらで全身を固めて、高性能な武具を開発調達して、戦いに挑むのだ。

 そしてこのゲームでは成功を収めた後の、落城した後の、彼の死も描いている。パッケージの画は、草むらにささった巨大な、折れた金属製の剣だ。

 そして、彼が死んだ後も別の人間が歴史を引き継ぎ、物語は続いていく。もちろん、ゲームも別の主人公を操作し、大好きな彼が死んだって、プレイは続いていくのだ。

 なんだかちょっとセンチメンタル、って、今日に限ったことではないけれど。

 戦闘の曲もかっこいいのだ。
http://www.youtube.com/watch?v=RaC1-hQbRys


 思い通りにならないことが多くっても、やっぱり好きなものがあるっていいことだなと思うし、そうじゃなきゃやってらんない。けだものと英雄のことを思う。