浮き草は燃え

 とりあえず、新居の審査は通って安堵するまもなく、当然、入金作業が必要なわけで、まとまった金を借りて、他にもしなければならないことが、なんて考えると気分が落ちるばかりで、自業自得とはいえ、自業を楽しめるように、ひたすら映画を見ていた。

 俺は飽き性なので、二時間も一緒にいるなんて結構きついのだけれど、普段見ない、あまり興味のないエンタメ映画ばかり頭の中半分で見ていると、なんだか不思議な気分にもなる。好きじゃないのだけれど、でも、結構面白かったりして。面白いことが色々あるんだって、ちゃんと感じなきゃなって。

 ギャングスタラップみたいなのはスタイルとしては興味深いけれど、音として聞くならば断然ジャズやソウル風のラップがいい。ヒップホップに詳しくない俺は、新鮮にそれらを味わうことができる。この前日記で書いたcradle やarts the beatdoctor もいいし、ひたすら、気持ちのよいたたみかける言葉の流れに身を任せる。

http://www.youtube.com/watch?v=aixqF9qIjps

Starving Artist Crew - Feed The Homeless
歌詞なんてぜんぜんわからないけれど、今の俺にはぴったりの題名、かも。

http://www.youtube.com/watch?v=NH3epCEsd_E

ShinSight Trio - "Only As Serious As You Make It"
クールなピアノとホットなフロウにメロメロになる。マジ、こういうの大好きだ。


 覚めたままで、燃えるようにわくわくしたい。

 頭の悪いガキが考えるように、カートが自殺する年くらいまではがんばろう、とか青臭いことを考えていて、でも図々しくも生き延びている俺は三十手前でこんな風だなんて思わなかったけれど、でも、音楽ひとつで気分がよくなれるなら、まあ、いい体質なのかなとも思う。ほんとに。

 新しいことが何もないような気がしているってのはやっぱりダサイことで、どんどん知らないものを知って、形にしていかなきゃなと思う。おぼろげなものであっても、計画があるってのは、モチベーションがあがるものだし。

 ずっと積んでおいた、アレナスの著作を二冊読む。正直そこまで好みというわけでもないのだが、先日映画でも見た、自伝作品である『夜になるまえに』はやはり読み応えがあった。淡々とした、戦いの愛の愛欲の記録。貧困革命投獄愛、愛欲。感傷的でもないし、感傷を感情移入を恐れたりしない。

 くそうざったい夏に、現状に対抗するには、やっぱりエモーショナルなのが必要なのかもしれない。


 眠れなくって、時間をうめたくって、どうでもいい映画ばかり見ていたのだが、マノエル・ド・オリヴェイラという現在104歳の映画監督の作品がやばかった。

 ブニュエルのドヌーブ主演の『昼顔』のリメイク『夜顔』。設定では38年後ということになっていて、アンリは訪れた演奏会で未亡人・セヴリーヌの姿を発見し、後を追うが…。という、筋なんてどうでもいい、美しい映画だった。最低限の会話と、鏡を見事に使った画面と、ヨーロッパの硬質で華やかな町並みと、どうしても滑稽さを免れない(だってそれはメロドラマ、恋愛劇なのだから!)物語との微妙なずれがクールで、とてもよかった。映画が70分というのもすごくいい。メロドラマは上品な、クールなふりをして、足りないくらいでちょうどいいものだから。

 慌てて他の作品もレンタルをする。『永遠の語らい』。
インドにいる父親に会うために旅に出た大学教授の母と八歳の利発でかわいらしい娘が、さまざまな地域の歴史や文化、人々に触れながら自らを見つめ直していく。 

 という美しく教養もあるブルジョアジーが中東付近を豪華客船で旅をしながら、現地の人と遺産について語り合う、という随分ハイセンスな教育テレビのドキュメンタリー的な内容、だったのが後半では(たまたまだが)また登場する女性実業家ドヌーブを含む四人の地位「は」獲得した、国籍の違う人々のそれぞれの人生観を語り合う場面は主人公である母娘をまったく映さずに、十五分位も流されていて、少しちぐはぐな魅力を感じながらも、それが太古の国々の遺産を巡っていた母娘の語らいともリンクしていく。

 そして思いがけない、これまでの構成からするとやや唐突なラストに最初こそ驚いたものの、エンドロールまで見終わると、自分の中でその展開が消化できた。ネタバレになるし深くは突っ込まないのだけれど、誠実ないい映画だなあと思った。こういう映画に、今出会えてよかったと思った。

 残念なことにこの監督の他の映画はネットレンタルできそうにないのだが、それでも、いつかは見られるだろうし、他にだって、優れた無数の作品があることを思うと、頭が少し、すっきりとしてくる。

 好きな批評家の言葉ってわけではないけれど、どうしても集中力のない俺は、覚めてしまうけれど、情熱は忘れちゃだめなんだなって、当たり前のことを思う。

 高校生のころ好きだったラヴ・サイケデリコ の「your song」の歌詞、

 oh sing it to me
oh sing it to me
夢を見るくらいじゃyou are not crazy

本当にそうだって思う。何だって、好きなものがやりたいことがあるならば、なんだか、どうにかなるような気がして、口ずさんで。


http://www.dailymotion.com/video/xqtlyb_love-psychedelico-your-song_music