九月も太陽が

家の周りにはやけにスーパーがあって、しかも名前の知らない大型スーパーばかりで、結構テンションがあがる。高級スーパー(この呼称自体がなんか安っぽいけど!)はない代わりに、お買い得な値段でスーパー同士で熾烈な競争をしている、らしい。
  
 たとえ買わないとしても、買い物が大好きな俺は商品を見るだけでも十分に楽しい。そして、近所の定食屋でチンジャオロースーを食べたのだが、かなりへなへなで、がっかりした。親が中華料理は火力が命で、家庭のガスじゃあ無理だし油を大量に使うから、中華は外で食べるに限る、と言っていて、大して料理ができない俺もその言葉を信じているのだが、外で食べて不味いってのは(チェーン店とかならいいけど)、ちょっと寂しい。

 別にグルメとかではないけれど、中国飯店のチンジャオロースーが食べくなる。ランチなら結構安かったはずだ。あの、青臭いピーマンの苦味でひきたつ、甘辛いタレが絡んだ肉の汁を噛みしめたくなる。お互いの良さを生かしたナイスコンビ(タケノコはどっちでもいい)。あ、マジ食べたくなってきた。胃腸が強くないのに、油物大好き、食べ物に限っては中国大好きな俺。

 最近食べ物に関しては、迷ったら買うような気がしているのだが、好きなもの、小さな買い物に関しては、迷ったら買わないようにしているような、そんな気がしてしまう。

 先日公園で友人とシャボンをしていたとき、大好きでどうでもいい、女性ヴォーカルの、どれも似たような、素敵なハウス・ミュージックばかりをかけていたのだが、当然そればかりかけているわけではなくて、george cablesのピアノの黒いオルフェを流すと、ジャズに全く興味がない友人が反応して、ちょこっとベタ過ぎる(日本人好みの、ベタな感傷的なピアノの調べ!)選曲だけど、と一言告げると、「でもいいじゃん」と言われる。そう、別にいいじゃんね、と俺も恥じ入る。

https://www.youtube.com/watch?v=qk6ddNVv-bs

(彼の演奏がなかった、でもこれも洗練されていていい)


 高校生の頃にみたきりの映画『黒いオルフェ』南米の祝祭。太陽のことを思う。黒い肌をした人たちはきっと、太陽に愛されているような、そんな気になる。一度くらい、ボサノヴァの国(本国では日本の演歌扱いだそうだが)、ブラジルに行ってみたいなと思う。暑い日ざしの下で、けだるいギターに身を任せたいと思う。


 もっとベタなのを、と思って、DAISHI DANCEのリミックスの「あの夏へ」をかけると、友人がとても喜んでくれた。友人が実はジブリ好き(でも初期の)とは知らなかった。ジブリのはなしなんてしなかったから。俺もね、好きなんだこれ。聞いてて少しだけ、気恥ずかしくなることもあるけれど。

https://www.youtube.com/watch?v=XrIq0p5dNV4


 思えば千と千尋以降、ジブリの映画を見ていない。ってことは、十年以上見ていないってことかも。特に理由があるわけでもないのだけれど。魔女の宅急便は好きで、三回くらい見た。でも毎回悲しくなるのは、ネコが自分の元を離れる、しゃべれなくなるところ。

 九月に入って、ふと思い出すのは、クレイジーケンバンドの「せぷてんばぁ」

 このバンド自体は、魅力的なバンドだと思うのだけれど、少し濃すぎるというか過剰すぎる気がして、個人的な好みからは少し外れていた。でもこの、ボサノヴァ調のやさしいギターには、横山剣の艶っぽい声がとても合っている様に思えた。それに、この歌詞もとても好きだ。


http://www.youtube.com/watch?v=_XSNIpfy3rU


楽しく過ごした事しか 今は想い出せないけど
せぷてんばぁ 9月は胸に来ますね
明日は会社を休みます

どうしてみんな別れ間際に
綺麗な嘘をつくのでしょう
二度と顔も見たくないのに
友達でいようなんて

横須賀線の最終で
鎌倉の海に来ました
やっぱり心の奥であなたを
少し恨んでいるのです


 別れ際、というか、肝心なときには、大抵(表面上は)きれいな嘘をついてきたなあと思う。悪役になったり、気持ちが覚めているのに、振られるのが分かっていて、振られるように仕向けておいて、惚れた振りをしたり未だかすかに未練があるような振りをしたり、また、そういう相手に付き合ったり。それが礼儀のような、そんな気さえしていたのだ。それなりに付き合いがあるというのはつまり、相手のそういうのだって、お互い了解しているのだ。

 でも、それよりも、


横須賀線の最終が
車両基地で眠った頃
私も冷たい9月の海で
泣きつかれて眠りました
泣きつかれて眠りました
明日は会社を休みます


 なんて歌っている人の方が、ずっと、魅力的な気がしないでもない。これが歌の中の話だけだからだろうか? フランスギャル、のヒット曲の(作曲もだが)作詞をしたゲンスブールは、少女に「ほんとの愛なんて 歌の中だけよ」と歌わせた。そのくせ、絶えず、愛を、色を好んだ、ゲンスブール

 歌の中だけの話、だろうとも、好きな人相手に恥をかけるなんて、なんて素敵な体験だろう。俺は覚めてしまうまでなら、口で何と言っていても、大抵のことは許してしまえる、馬鹿みたいな所があって、でも、馬鹿になれるって、とてもいいことだなと思う。馬鹿にもなれないなんて、要するに根性無しってことだ。


https://www.youtube.com/watch?v=PiPAAUfCafk

Sunlightsquare のカヴァーした、 I Believe In Miracles。すごく、ソウルフルで好きだ、勿論原曲も。


  I Believe In Miracles
  I Believe In Miracles
  I Believe In Miracles don't you?


俺はロックやポップソングの類では歌唱力がない、というかやばい、ファニーボイスがとてもすきなのだが、ジャズやディスコナンバーなら、歌唱力のある、ソウルフルなヴォーカルに惹かれる。本当に、楽しそうに歌っているような気がするから。数分でおわる、短い祝祭の為の司祭。

 食べ物もいいけれど、好きなものがあるならば、もっと自分から好きにならなくちゃなあと思う。もっと恥をかけますように。もっと、無駄遣いが出来ますように。寒くなっていく季節の中で、少しだけ夏を惜しむ。俺に今足りない太陽について。