初めての海もタトゥーも俺のことも

 野球に全く詳しくない(何人でプレイするのかすら知らない!)のだけれど、育成ゲームは大好きなので、pspパワプロを購入して、久々にパワプロをプレイ。パワプロシリーズおなじみのサクセスモードという選手育成モードがとても面白い(多くの場合、高校生が甲子園、スカウトされるのをを目指すモード)、

 のだけれど、結構シビアな難易度で、普通ならそれも楽しいのだが、野球に興味がないから最終的にバッドエンドとかになったりして、でも、今回のpspのでは、一応ハッピーエンドを迎えることができた。

画面に「俺の名前のキャラ」が「巨人(ファンでもアンチでもない)一位指名」という文字が躍っているのが楽しくも、他人事すぎてぼんやりする。

 単純なことに、一瞬「やきゆう」したいなーと思った。

 高橋ツトムの野球漫画、『鉄腕ガール』を思い出す。彼の著作、『地雷震』とか『スカイハイ』とかはそこまではまったわけでもないのだが、この野球漫画『鉄腕ガール』がすんごく面白かった。

 戦後日本で、主人公の女性トメが女性の野球選手として活躍する話なのだが、このトメがかなりかっこいいのだ。興業相手に、アメリカ相手に、「女には子供を産むから人殺し(野球)はできない」と言われても、恋人の指を送られるような事態でも、彼女は戦い続ける

 単純にきっぷのいい男前、みたいな言葉で表現しても間違いではないかもしれないが、ちゃんと女性としての弱さも持ち合わせているし、それを描写されているのもいい。それに、彼女が老人になるまで、一人の人間の生きざままで書ききった点もすばらしい。

 どんな状況になっても、どんな年になっても、彼女が口にする、

「いっちょやってみようか、球遊び」

 という言葉は、清々しく、胸に響く。


 小中学生のころ、四、五年間位スイミングスクールに通っていた。別に早くもないし、何時間も「泳がされる」し、時には本当に行くのが嫌だったこともあるけれど、たまに、あの、水の中で泳ぐ感じを、当時でも楽しんできたことを思うし、スクールの中ではパッとしなくても、学校の中では、ずっとしているのだからとりあえずは泳げるほうになっていて、スクールとは違って、それなりにゆったりと水を自分の力でかき分ける、肌の上の水を感じる、あの感覚を楽しんでいた。

 いろんなところで話題になっていたし、水の描写がすばらしいPVを見て、先日終了した『free!』という水泳アニメを見た。同じスイミングスクールに通っていた仲間が再開して、しかしあるわだかまりを抱えていて、主人公たちは学校にクラブを作って活動を始めて……。

 みたいな話で、最初は結構期待していて見ていたのだが、三話位か、部活やるぜ! 位までが一番わくわくして、後は惰性と多少の困惑で最後まで見た。スポーツアニメだと思って見ていたのが、スポーツを題材とした萌えアニメだったのだ。だって、全然練習しないんだもん。勝ちたいとか早くなりたいそういうのがほぼない(伝わらない)んだもん(主要キャラには)。あと男同士の友情描写が明らかにBLっぽいというか、「普通の男同士」ではありえないものになっていて、見れば見るほどこのアニメとの距離を感じていった。

 このアニメが話題になった時に、ネットで本当に「ホモ、ホモ」(海外のサイトのコメントでも「ゲイポルノ」とか言われていたりした)とかいう言葉が躍っていて、ああいう人らは水着の男が出たらホモホモ言って騒ぐのが楽しいんだろうなー、と少しだけげんなりしながらもそれはあまり気にしなかったのだが、最後まで見て、彼らの意見が正しいと思った。とてもアニメーションの出来がいい、多分男も見られる爽やか(BL)ホモアニメだった。

 俺にとってはボーイズラブも萌え漫画もその多くがあんまり楽しめなくって、それはキャラクターに感情移入する、というのは分かっても、萌えるというのが良く分からないからだ。そういう漫画は、しばしば(この場合は水泳という競技)題材を萌え描写、シチュえーションの為に使う。「萌えシーン(関係性)」が何よりも先行するのだ。だから、俺は『free!』を見て、イベント(画面に動きを出す為、ずっとプールのシーンばかりではない方が求められているのは分かるが)はいいから練習しろよ、ありえない「友情」みたいなのはもういいよ、と思っていたのだが、そういう意見はこのアニメにとってはお門違いの批判になるのだろう。監督、制作者の意図とは、視聴者が求めているのとは別のものなのだろう。

 でもやっぱなー。本気でスポーツ、競技を、何かをしていて、やっぱり「勝ちたい」って思って戦う人たちに、共感したりするんじゃないのかなーと思った(てか、スポーツアニメっしょ? と最初は思っていた!)。萌えとかは、後から付いてくるものじゃないの? 

 割と最近のアニメでとても面白かった、ジャズと高校生の進路や恋模様を描いた『坂道のアポロン』では、思春期におけるじぶんの居場所とか恋愛とかも重要なポイントではあるが、きちんと、登場人物がジャズのことばかり考えていたのが良かった。ジャズが好きで、音楽が好きで、それで繋がる関係。

 さらにアニメでは、原作の漫画も良かったのだが、「音楽」が流れるのがとてもよかった。スタンダードナンバーが大体一話に一曲は取り上げられていて、このアニメを見て、ジャズに興味が出てくる人がいるかもしれない。『スラムダンク』を見て、バスケ始めました、みたいな。

 目にして、パワーがもらえるっていうのは、すごくいいなと思う。多分、そういう生活態度ではないのかなと思う。

 とか言いながら、お茶しているだけなのに「プロ級」の演奏ができる「けいおん!」を俺はそこそこ楽しんで(全部ではないが)みていたわけで、というか、最初から「そういうファンタジー」だろうと思って何かをしながら片手間で見ていたわけで、別にアニメなのだから「アニメーション」だけでも、キャラクターの「かわいらしさ」だけでも良ければ、それでもいいのかなーとも思うのだけど、俺はキャラクターのためにストーリーがある、みたいなのではないアニメが見たいのだけれど……。

 この水泳アニメのことを思っているときに、海で十数年「泳いで」ないことを思って、少し呆然としていた。

 最後に海に行ったのは、五年以上前、友人と葉山へジャコメッティ展を見に行ったついでに海辺に行って、砂場でわーわー言ったことで。それはそれで(もちろんジャコメッティ展はすばらしかった!!!)楽しかったのだ。

 でも、自分が夏は海に行こうぜとかバーベキューしようぜみたいな人らとずっと付き合ってこなかったことにも、自分のことながら、少し、びっくりした。

 仲間でのり良くわーい、みたいなタイプではないのだから、というか全体でみたらそういうタイプの人たちの方が少数かもしれないのだから海に行こうがバーベキューをしようが、その人たちが楽しんでいられたらどっちでもいいのだけれど、そういう人たちとの時間を楽しめなかった自分に少しだけ自己嫌悪がわく。

 とはいえ、誰だって「ぜんぶ」を楽しむことはできないわけで、友達とバーベキューを楽しむ人は性格の悪い人間の書いた哲学書や評論を読む楽しみは(多分)味わわないわけで、人によってできること、得意なこと不得意なこと、キャパシティというのは必ずあるけれど、それを言い訳には、なるべくしたくないなあと思う。好きなら、欲張りになっていいと思う。欲張りにならなきゃなと思う。

 「せぷてんばあ」の「泣きつかれた 九月の海」はもう、過ぎてしまったけれど、先日海の割と近くにある神奈川の工場地域に行って、潮の香りと、ただ、だだっぴろい工場ばかりの風景に、心地よい疲労感を覚えた(単に肉体労働の後だったからかもしれないが)。

 肌の上に感じる大量の水の感覚を、俺は忘れてしまっていて、元からだけれど、タトゥーを入れてからさらに、温泉とか市民プールとかから距離が空いてしまって、俺は肋骨や鎖骨の浮いた、墨の入ったゾンビのような身体をそれなりに大切にしていて、ふとした時の気分転換に、新しいタトゥーを、そして海に飛び込む自分の姿を思う。

 今すぐは難しいとしても、長いことしていないのだから、きちんとしなくっちゃと思う。好きなことがやりたいことがあるならば、欲張りにならなくっちゃ。


 とてもかわいらしい、アジカンの歌う海辺の歌。

 埼玉のとある街のヤンキー
 彼は海も 
 実はキスも初めての

 という歌詞がとても、かわいらしいというか、センチメンタルでキャッチーな曲調と相まって、その光景が浮かんでくる。俺も、この年でも、初めてがいっぱい
 




 心の臓がわずかに逸るビート
 躍りますか
 日溜り高鳴る世界
 夢でも消えないでいつか