不明返信

 最近は夜以外暑い。何もかも減退している、かもしれないけれど、まあ、やることはやらなければならない。

 安物のスーツ、に合わせるベーシックな色のデザインの鞄を持っていなかったから、これまで面接の時にはスーツにグラビスの大きな(もらい物の)リュックという格好で、すごく、ださく、自分が嫌になった。スーツにリュックって、マジダサイ。似合う人もいるかもしれない、が、俺はかなりなで肩なのでリュック自体が似合わないのだ。

 ダサい格好をして下らない嘘をつきに行くのか、と思うとそれだけでテンションがダダ下がり、諦め半分で、ブランド物のリサイクルショップを数店回ると、俺にも買えるような値段のバッグがあったのだ。かなり使用感があり、傷物だったから、凄く安かった、プラダのバッグ。

 てか、俺だってプラダがかなり女性向けっていうか、小さくて可愛いのは知ってる、でも、その鞄の色はキャメルとダークブラウンのグラデになっていて、かなり可愛かったのだ。しかし、小さい、かなり実用的ではない、お遊びのバッグ、頑張って履歴書の封筒が入るサイズ、でも買ってしまった。買ってしまった。ついでにシャネルの小花柄ネクタイ(中古で八千円)も買おうか悩んだ、が、こちらは思い止まった。でも、超可愛かった。バーバリーのちょいダサエムブレム、トラディッショナル系のとか、ヴィヴィアンの天使のとかも欲しかった、が、そんなのより明日の生活費を考えましょうそうしましょうていうか、バッグ買っちまっただろいいのかよいいんですいいってことにして、

 先日久しぶりに面接を受けた。

 
 
 
 その時丁度読んでいたのは、清水アリカの『天国』の奥付で紹介されていた、SEX RESISTANCE と題されて刊行された、アメリカの小説達だった。八十年、九十年に書かれた小説の中で、性という題材はRESISTANCEという言葉に負けない強度を持っていたのだと思う、けれど俺は1984年に生まれた。レジスタンスを知らない子供。

 そのシリーズのジャケはロバート・メイプルソープの官能的な花のシリーズが使われていた。これ以上の適任はいないだろうというセンスには、多少期待が持てた。

 実際結構面白かったのだ、デニス・クーパーの小説。さらさらと三冊読んだのだ、ゲイの少年達おっさん達のどうでもいいどうしようもない話。『その澄んだ狂気に』のあとがきでの訳者のコメントが秀逸なので引用する。

「しまった! デニス・クーパーはポルノだったのだ。ポルノとはいっても、別に難解であったり、形而上学的であったりするような、例の文学的ポルノじゃあない。むしろ、エロ映画という意味でのポルノ、つまり、まるで傀儡のような人物たちがわざとらしく性行為を演じるチープな世界、バカバカしくも向こう側に突き抜け、意味を中和化し、不安を宙吊りにし、欲望だけが流れていくあの、空虚のことだ(中略)ポルノの真の主役がここの登場人物ではなく欲望であるように、デニス・クーパーの世界でも真の主役を演じるのは欲望そのものである」

 デイヴィッド・ヴォイナヴィッチの小説も中々よかった。ビートニクスのような乱暴な叫び、「ドブ」の様子を正確に描写しようとするその瞳は、硝子球のように透き通っているだろう。こっちもゲイの破滅的刹那的日常的風景の連続、をねっちっこく。何よりも題がいい「ガソリンの臭いのする記憶」。小説としてはどうかと思うボリス・ヴィアン(この人はゲイではない)の小説や詩も題が素晴らしい「僕はくたばりたくない」「醜い奴等は皆殺し」。

 面接の時に、正直に、「暇つぶしに、エイズやフィストファックや監禁殺人とかの小説を読んでいます」と答えたらよかっただろうか?そんなものは三文小説の中だけで十分だけれど、俺の人生も、かなり、それに近くなってきていると、ひしひしと感じている。

 受けた所も時給は八百円代。男一人都内で暮らすとして、なんか終わっている金額だ。これまでは色々とそこそこの場所を受けたのだが、落ちたし、受かっても辞退したりして、身に染みた。俺にまともな仕事はできそうにない。かといって俺は仕事をまともにしてきた。サボる人にやんわりと忠告をしたことさえあった。労働と、不真面目な労働が嫌いなんだ俺。この先も、隘路。

 諦めがついた、のか、どうかはしらないが、気が楽になって、夏にぴったりな小野リサのベストを流す。かなり幸福なアルバムだ。この声に不快感を覚える人はほぼいないんじゃないかっていう位の柔らかい歌声のボサ、スタンダードナンバー。ついでにメイプルソープがジャケを撮ったテレヴィジョンズのアルバムも聴いた。幸福な、古臭いロック。

 で、受かってしまった。本当に落ちるものだと思っていたから、何だか信じられない。

 それに、そのバイト先でまた金銭的に困窮するのだから、またすぐに辞めるかもしれない、とも思った。二ヶ月以上もふらふらしていたので、また仕事をする、ということがいまいちピンとこない、けれど、しなければならないのだ、読んできた小説のように、路上に転がる、路上で引っ掛ける、には未だ早いはずだ。

 とにかく、仕事を得たのだから、今住んでいる場所から脱出できるかもしれない。幾つか障害はあるけれど。変われますかね。ブリッジの「change」でも聴くことにします。あいびうぉっちにゅーゆはぶちぇーんーゆーはぶちぇーんじゆはぶちぇーん

  まだふざけていきたいのだが、どうなることやら