前回の夏休みは?

 昨日書いた老人ホームの映画を見た。大体、ないとと同じ感想を抱いた。俺は漫画の微妙な実写版、みたいな違和感を覚えた。(乱暴な言い方だけど)漫画って、わざとらしかったり、御都合主義だったりする部分がある。けれど、普通は、それが作品の魅力になっている。でも、それを実写にするにはかなり作品への愛か敬意が必要だと思う。原作と派生作品は違う。同じ良さを求めるのは難しい。けれど、それにかける強い思いが一緒ならば、伝わるならば、稚拙だったり突っ込みどころがあったりしても、受け手は感じることが出来るんだと思う。

 俺にはあの映画は無理でした。「仕事」でやってるんだなあって感じ。ショットとか音楽とかの「美しくなさ」について語るよりも、監督の思いがさっぱり伝わってこないっていうか、そのことに思いを巡らせてもないとみたいな「冷たい映画」という感想しか湧かない。中途半端なファンタジーって、「ソリ」が合わない人にはキツイ。てか、監督の名前にセンスねえとか気持ち悪いとか感じないなら、多分楽しめるような気がする。俺は、あまり興味がないことについて考えなくていいんだと思う。

 最近は睡眠時間が細切れになって、少しずつ、一日三回位寝ている。小銭稼ぎがない日も、朝の四時を過ぎないと眠れない。正直、嫌になってしまうのだけれど、辞めてまともな仕事を探す気力もなく、金を使っている、使うしかないのだと気付いた、使わないとどうしようもない、使っているとはいっても、せいぜい一度に数千円、とかの話、はした金、収入以上に消費するはした金をいつまで工面できるのだろう、と考えるとふいに、布団の中で何時間も眠れない、あの瞬間が蘇ってくるのだけ、また、準備がいつまでも整わないのに朝に昼に夕方に夜に、投げ出されるあの体験は慣れることがない。幼稚園児の頃、死ぬのが怖くって夜眠れなくなったことがあった。あれを思い出す。死ぬことなんて考えていないけれど。忘れていることはあっても、慣れることなんてない。

 でも、体調はそこまで悪くはない。田七人参(の粉末)と濃縮プロポリスを飲むようにしているから。はっきりとした、効き目を実感している。嬉しい。でも、それなりの値段なので、一か月だけのお付き合いになるだろう。てか、他に金の使いどころがあるだろうに「ポケモン」や「モンスターファーム」で育成しているんじゃないんだから、と、我ながら少しだけ、面白いと思う。げーむのう。どうせ育成するなら、もっと可愛いのかかっこいいのがいいな、と思うけれど、こればっかりは仕方がない、変えようがない。あるものでなんとかしましょう。あり物で適当にでっちあげるの、俺、それなりに得意なんだ。

 売り払ったモノたちの中で(俺にとっては)かなり高値がついたものがあり、思いがけない喜びと共にむなしさに襲われる。贅沢なむなしさ。でも、贅沢な方がまし、余裕がなくなったら、色々と大変だ。少しの余裕くらいは持っていなければ、だろ? お金の事を考えないせいかつ、それが訪れないにしても、考えないように、心がけるしかない。

 数日前に小説を書き終わり、ここ数日、まともに、頭を使う本を読んでいない。頭を使う、というか、著者について思いを巡らせるような本に。というか、本なんて読みたくないと思う。考え事なんてしたくないと思うそしていずれ本を読まなければならないと思うのだろう。この繰り返しにうんざりしているわけではないのだが、何だか澱が溜まってきているような「実感(!)」がある。ばかなはなし。でも、俺は当事者なので、馬鹿にはできないというか、単に、俺が馬鹿?

 高校に入ってすぐに、自分の身体が自分のものではないことを、自分が、最も親しい他人であることを悟った。悟ったなんて大袈裟な言葉を使うのは気持ちが悪いものだけれど、その体験は悟った、と表現するのが適切だった(その頃の俺はかっこいい詩人の名前すら知らなかったし、彼と自分が似ていると思ったこともない)。今もその思いは身体の中に残っているけれど、最近は自分の身体が借り物のような気がしてきている。

 というか、前からあったその思いが強くなってきている。死んだら肉体が神様の元に帰るとかそういう話ではない。借り物でも、一番親しい。誰よりも親しい、俺の身体。誰よりも親しいんだったら、もう少し親切にしてやってもいいんじゃないか、と思い、優しくするなんて選択は、つまりどうにか持っている生活がブチ壊れることしか思い浮かばず、もう少し我慢してもらいたい夏、おわらない何千回目の「ぼくはなつやすみ」。

 ただ、少し幸福な事があって、それは俺の髪が大分伸びてきているということだった。「長髪かっこいい」とか思っているくせに、カート位の長さ(前髪が顎に着く〜肩に届く)で十分、というか、カートみたいな髪が、金髪がいい。さすがにこの年で金髪は厳しいのだけれど。

 十代ならば似合わない金髪(日本人は金髪があんまり似合わないだろう)でも平気だったし、学生さんがぎこちない感じの金髪をしていても、俺は「いい」と思う。でも、この年で金髪って、てか、小銭稼ぎ的にもやばいしね。金髪は色々と面倒だ。何より、俺は「似合っていない」のが嫌だ。でも、金髪の誘惑。安いブリーチ剤でも、(全体を見ないならば)きらきらした髪。身体の一部分が好きになる、小さな出来事。タトゥーを入れるよりもはるかに安価だ、てか、俺のこの状況で「おれ、タトゥーいれるっす」って、想像すると頭が悪過ぎて、笑みがこぼれた。タトゥーがアミュレットになるなんて、俺はそんなに可愛らしい性格をしていない。本当のお守りにするならば、ヤバい位、俺の望むように彫り込んで欲しい。でも、好きな髪の長さになって、美容師さんにそれなりにしてもらったら、お祝いに小さいのを入れてもいい。「素敵にカスタマイズ」それはいつだって、わくわくする。身の回りの物を自分好みにする、小さな幸福だ。「素敵にカスタマイズ」したなら、俺に貸出した人は、喜んでくれるだろうか?