花々は音楽を吐く

ぼーっと見れる映画を見たかった。俺はアメリカの人気映画に詳しくないので、どうやら楽しい映画らしい『マッドマックス』と『エド・ゲイン』を見たのだが、びっくりするほど何もなかった。映画が悪いとかそういう問題よりもむしろ、何を楽しんだらいいのかさっぱり分からなかった。目の前に映像が流れていた。それだけだった。

 この分じゃ他のカルトとかホラーとかいう宣伝文句の映画を見るのはつらいかもしれない。あ、ならヤン・シュヴァンクマイエルとかカレル・ゼマンの映画ならどーよ、と思いついたのだが、借りられるのは少数で、しかも見たのとか。元々一部で人気の監督だし当たり前か。ああ、でも、ぼーっと見られる映画が見たい。

 そんな俺に優しいのは、やはりデレク・ジャーマンエドワードII』を見ると、いつもの真っ青イメージジャーマンじゃなくて、きちんと「映画」にもなっていて、少し驚きつつ、変に楽しめてしまった。ジャーマンが嫌いな人でもそこそこ楽しめる「映画」になっていると思う。

 でも、続いて見た『エンジェリック・カンバセーション』は期待を裏切らなかった。これぞジャーマン! プライヴェート・フィルム観賞会! でも、「腐った百合は雑草よりも悪臭を放つのだ」って台詞があって、それは気にいった。あと、上半身裸の男の胸やら腹やらに悪魔のタトゥーがあって、それを他の男が清めているシーンが良かった。てか、単に悪魔のタトゥーの男かっこいい。それだけ。

 でも、その悪魔を清めるのに、スーツ姿(だったと思う)の男が、何度も悪魔の膝に、口づけ、とまではいかない、唇を何度何度も何度も触れさせる映像が流れたのは、ちょっとやり過ぎだと思った。この映画の監督がジャーマンだからしゃーない、てか、同性愛とかに偏見があっての台詞じゃなくて、ちょっとそのシーンはやらしすぎた。いや、別にやらしくてもいいんだけど、ぼーっとしていて不意打ちくらったんだ。

 バカハラチンタロウ大先生は、こういうのは規制しなくていいんですかね? ゲージツならオッケーすか。

 そしてダグラス・サークの『ぼくの彼女はどこ?』が本当に良くできたメロドラマだった。もう、一々静止画面が映像が美しいし登場人物は魅力的で台詞も洒落ていて、何度も書いているが、映画が「動いて」いる瞬間を発見できるなんてすばらしいことだ。幾ら褒めても褒め足りない。

 しかも、娯楽映画として伏線回収やら設定やらも堅牢で、別にサーク大好きとかそういう人じゃなくても、或る程度の年齢の方なら「あら、楽しい映画ね」って感じで気軽に楽しめてしまうと思う。サークの最高傑作とかではないけれども、これはサークの映画、つまり、素敵な映画だ。

 で、少しずつオンラインレンタルの借りられる幅が迫っていると言うか、本気でクレジットカードを作らなければならない(今月か来月で切れるのだ!)のだが、どうにも気が進まず、CDもたまりにたまり、レンタルと購入分を含めてほぼ未視聴の15枚以上のアルバムが家にあり、馬鹿? あ、知ってます。俺。

 ってことは、ipodを買えばいいんだ! なんだ、簡単なことじゃないかあはははは! 

 家電量販店を回っていると、どこも大した値段の差はなく、店員さんと会話していたら、向こうから「ipodの値下げと言うものはないと思います」と聞いてもいないのに答えてくれた。その店だけかもしれないけど。確かにそれはずっと前から実感している。てか、本気で年末年始のセールっていうの? それにipod が出るのに命をかけていたのにそんなのにかけるなよ命。

 ともかく、ipodは買うことに決まった。それだけで心が落ち着いた、ら、またタトゥーのことを考えてしまう。ipodよりも金かかるよ。でも、今一番欲しいのは、タトゥーなんだ。とても欲しい物があるなんて、なんて幸せなことなんだろう。

 前にも書いたけど、ゲーテが「すみれ」って詩を書いていて、その内容が「菫が人に踏まれる」ってだけなんだけど、踏まれた菫が「貴方の足元で死ねるならいいの」、みたいなことを言っていて、この詩を目にしてから、そうだ、足の土踏まずにいつか菫のタトゥーを入れよう、と(また例により)数年前から思っていて、でも実行できず、だって、花柄のワンポイントのタトゥーは女の子にしか似合わないでしょ。だからこその普段は誰にも見られない土踏まずのタトゥーなんだけどさ。

 大分前に、ヴィンセント・ギャロが死んだ兎の、小さなタトゥーを身体に入れたことを知って、なんて可愛らしいんだギャロ、と思った。俺も以前猫を二匹飼っていて、数年前に亡くなった時はもう、涙が止まらなくて、でも、きっと、惰性でどうにかなるのだときちんと頭は働いていて、しかし涙は止まらず、その飼っていた二匹の猫のタトゥーを入れようなんて、絶対に俺には出来ないと思うのだ。

 ギャロはきっと、自己愛もかっこつけもすごく激しい人だと思う。でも、彼はクールで、つまりかっこよくって、少なくとも俺にとっては、兎のタトゥーを入れられるような心意気は見習うべきことだ。

 タトゥー、というか、本気で、全身が花々になればいいと思っている。あまり周りに不快感を与えるのは嫌なので、出来れば服で隠れる範囲だけでいい、てか、それが望ましいけど(全身タトゥーって数百万かかるぞ! 一生無理!)。

 ワンポイントの花柄なら女の子、ギリギリでイケメンにしか似合わないだろうけれど、過剰な花々の洪水であったなら、美しくも醜くもない俺にだって似合う自信がある。てか、多くの男性は、花々の洪水が似合うように出来ている、ような気がする。

 でも、花々よりも、今は胸の十字架、だけで、安くて5万位だろうか?
 
 とにかく生き伸びる為には(大袈裟だが)IPOD、その後、前向きであるならば、十字架を胸に。何度も書いているけれど、信仰心とかじゃなくて、たんなるベタベタな趣味(でも服の下に隠れているから大丈夫だ)。

 水野純子の『ピュアトランス』っていう超かわいい漫画の中で、喧嘩大好き乙女趣味ヤンキー少女がでてくるんだけど、彼女の紹介文で、喧嘩で全身に傷があるけれど、その一部はかっこつけのため自分でつけた、って一文があって(はず)、超キュートだと思った。或いは超同感っす。全身穴とか模造宝石とか傷とか花とかだったら、とたまに夢想する。その一部は、実現できるんだって、実現しなければどうにかなるんだって、ようやっと思ってきている。

 まあ、とにかくipod。お金なんかじゃなくて、あり溢れすぎていながらも聞くだけなら簡単に消費出来てしまう恐ろしい音楽の事で、困ろうと思う。