ヒーロー散骨ヘロイン散財

 




眠ってしまったり目が冴えてしまったり、これじゃあまずい、ということで久しぶりにベッドの周りを整理(というかこの発想自体が終わってるのだが)すると、ベッドの半分は本が汚らしく積まれていて、その数、40位?いや、もう、考えたくない、それらをとりあえず床に置いて、シーツを洗濯して、布団も干して、イヤホンなんてしないで、爽やかにショパンなんて流しちゃうんだよねグールドの。

 グールドのショパンは今まで聞いたことが無くて、どうやらグールド自体が毛嫌いしていたらしいのだが、聞いてみるともう、俺史上最高に陰鬱で定期的に棒で殴られるかのような演奏に胸キュンでした。グールドがショパンの魅力を一番引き出していると、クラシックに詳しくない俺は思いましたはい。

 ベッドの上から放り出された物の一つ、XTC目当てで借りたコンピレーションCDをかける。二十代の前半に、XTC のOutside Worldを繰り返し聞いてやり過ごしていたことを思い出したりして、なんか借りたコンピの中で、高校生の頃から「いつか聞かなきゃな」と思っていたJellyfish のファンクラブに入るならという曲がかなり良くて、何であの時ちゃんと出会っていなかったんだと思いながらも、今出会えたことに感謝。ポップで陰気なギターサウンドもいいけれど、歌詞がまたよくて、


天国に行きたいなら
お金を払って祈るしかないってこと

ファンクラブに入るなら気を付けた方がいい
ランプシェードみたいなイバラの冠は
妖しい魅力
彼の栄華の美味を分かち合うなんて素敵じゃないか
こうして堕ちた偶像を偲んでいる

ファンクラブに入ろうなんて大間違い
舐めた切手の数を思うと今も胸やけがする
運命が彼の車を叩き潰す前に、
好きになっていればよかった
落ちぶれたスターの為に祈ろう


 これが誰を指しているのか、おそらくイメージとしてのスターだと思うのだけれど、俺はすぐに大好きなバグルスの「ラジオスターの悲劇」と、大好きなカート・コバーンについて思いを巡らせた。

 スターの為に祈ろう、だなんて、ほんとに? 俺は真面目にできそうもないし、寝てしまったり起きてしまったりしているから、今日もまた外に出る。

 代々木公園ではフリマがやっていて、本当にヤバインすよね、とか思いつつね、色々冷やかして、冷やかすだけでも結構楽しい、のだけれどフリマの撤収がなぜか三時らしく、うろうろしているともう三時頃で、一部の店だけそれを律儀に守り、俺も多少焦りながらも結構買っていく、いやあ、無駄遣いほど楽しい事は、そうそうない、ってことで、気づけばリュックパンパンに紙袋、服七点雑貨五点購入、って大丈夫かよ、大丈夫だ多分。しかも家で合わせてみると、似合わないのばっかなの。マジうけて、鏡の前で苦笑、

 ばかりもしていられなくって、きちんとしなければ家だって追い出されてそうしたら?

 路上生活が厭だから犯罪に手を染めて刑務所に入るという人が一定数存在するそうで、そのアグレッシブぶりに俺はちょっと「すごいなー」とかいう阿呆な反応しかできないのだが、そういえば最近、たまたま刑務所漫画を三つも読んでいて、最初こそわくわくしていくのに、三冊とも、途中からダレてくる。一応どれも(俺が読んでいるのは)健康的少年誌ではないので、それなりの描写はあるのだが、エグい感じやだらしない感じが薄れてくると、もうそれは舞台を生かし切れていないように思えるし、そもそもあそこは期間限定だからこそ、刑務所から出ても新たな社会刑務所に入るからこそ題材としてはいいのかもしれない。

 傑作刑務所漫画として、『刑務所の中』もいいけれど、俺は『軍鶏』の最初の方がとても好きで、エリート君がストレスと恐怖で親を殺して少年刑務所に入り、最初こそ駄目人間で強者の慰め物でしかなかったのだが、空手を覚え、「殺されないように」必死に空手に相手を倒すことに、はまっていく姿がとても共感できた。

 その後彼はヤクザの下っ端だけでは満足できず、華々しい格闘世界という名の興行に喧嘩を売るのだが、ストーリー的にはその辺りが一番面白かったように思える。ファンクラブに入るなら、死に行くヒーローの為に祈ろう。


 マリオ・ジャコメッリの展示ではなく、幾つかの、少ない資料を目にして、やはり行くべきだったのかなでもいいや、と思いながらも、彼の詳細なプロフィールや知らない写真に出会えたことに感謝する。

 彼が神学生を撮るシリーズの前の、ホスピスの老人を撮っているシリーズを目にしたときに、俺はそうだ、この人を見た時に、ダイアン・アーバスを想起したのは間違いではなかったのだと、勝手にそう思った。あぶれ者を、フリークスを正方形の画面の中にきちんと収める、誠実なアーバス

 ジャコメッリは言う

「風景は始め人間と同じ物質、肉の事を考えながら生まれた。土は人間の肉と同じなんだ」

「プリントするときに手で修正がかけられる印画紙。白が損なわれないように、黒が閉ざされないように、黒の内と同じように白の内が読めるように。白、それは虚無。黒、それは傷跡」

 彼は早くに父を亡くし、母の働くホスピスに出入りするようになる。写真を始めたのは28というから割と遅いスタートではあっただろうが、彼はずっと、己の景色のなかにいたはずだ、そして、それを再現するすべを手に入れたのだ。

 彼は亡くなる直前のインタヴューで告げる「もし私の人生の良かったことを挙げるなら、貧しかったことと、私が受けたすべての苦悩である」

 こうした真摯な言葉、そして彼の写真と言う眼差しに触れてなお、俺が思う歌うのは


彼の栄華の美味を分かち合うなんて素敵じゃないか
こうして堕ちた偶像を偲んでいる

ファンクラブに入ろうなんて大間違い
舐めた切手の数を思うと今も胸やけがする
運命が彼の車を叩き潰す前に、
好きになっていればよかった
落ちぶれたスターの為に祈ろう


 口ずさむ、耳に刺さるメロディが、俺を引きとめて、ほんの少し明晰にしてくれる。ヒーローありがとう。誠実で美しい君が大好きだ。以前好きで良く見ていた、チューボーですよみたいに、今日も、街の巨匠に感謝、俺も。ヒーローにお祈り、は出来なくても君の事を思うよ。