サイボーグ水泳

 親讓りの無鐵砲で小供の時から損ばかりして居る。


とは有名な夏目漱石の小説の冒頭だが、俺も親譲りだかどうかは知らないが、無鉄砲というかクソ短気と言うか、「損ばかりしている」、なんて口にしてもどこか愛らしい『坊っちゃん』というわけでもなく、久しぶりに途方に暮れ、
「あ、俺、久しぶりに途方に暮れてる」と思った。あーもういいから引きこもろう、と思った。思うだけだけれど。


 そんなこんなであと二カ月で30になるが、十代と何も変わらない。二十代もそうだ。三十になってもそうだろう、と思う。リハビリテーション人生。多分、こういうのが好きなんだ俺。

 髭の『ブラッディマリー、気をつけろ』がとても心地よい


 http://www.nicovideo.jp/watch/sm9150945


 もう一回殺してくれ 来週
 カクテルグラスでおぼれてる最中
 ブラッディ・マリー ブラッディ・マリー

 何度もリピートして、口ずさむ。アルコールに弱い俺だけれど、ブラッディ・マリー位ならごくごく飲める。アルコールもドラッグもセックスもあってもなくても、浮遊感のある人生ってのは素敵なことだ。溺れているのか、泳いでいるのか。

 




http://www.youtube.com/watch?v=K5FZdNe_YSc&feature=player_detailpage


 The Apples In Stereo - Tidal Wave


 高波にさらわれたいなんちゃって。積極的に、溺れようぜなんちって。



 今週は本を(雑誌や漫画も含むが)五十冊以上買ってしまった。ほぼ全部中古なので値段的にはまあ、(本当はヤバイが)いいとして。いやあ、俺、洋服も好きだが、一番好きなのが本でよかった。エコですね(は?)

 当然半分も消化できず(おまけに図書館でも本を借りている)、ベッドの上が酷い有様で、犬小屋もしくは倉庫に暮らす俺は、何だか人間でもけだものでもなく、墓守、いや、グレイヴ・ディガーといった有様。

 そういえば亀井徹の画集がほしい、と前々から思っていたのだが、あのまとめて衝動買いで買いあさった本らの値段で余裕で買えるじゃんか! と気づいて自分で阿呆だなと思った。でも、正確には亀井徹の描いた骸骨と薔薇の図案のタトゥーを入れたいなあ、ということで、

 でもこういうのって著作権的にも彫師の技術的にも難しいなあと思う。というか、それなりの大きさのを入れるとなると、また、つまらない嘘をついて小銭稼ぎをしなければ、とか思うと自分で彫れればいいのになあ、と思う。かなりDIY精神が高くて、かっこいいなあと思う。心にいつもサイボーグを。或いは、ブッダ、キリスト。

 沸いた頭で見る映画は市川崑『満員電車』『太平洋ひとりぼっち』。『満員電車』はちょっと容量の良いずれた色男が社会人になって巻き込まれるコメディ。市川崑らしいユーモアにあふれた佳作で安心して見られる。『太平洋』の方ははっきりいって市川崑の映画を(見たいのは)あらかた見てしまったからという気のないチョイスで、正直ヨット乗り、しかも石原ゆーじろーとか全く魅力的だと思わない(嫌いではない)ので見る前からどうせ飽きるだろうなあ、と思っていたが(だったら借りるなよ)さすが市川監督、それなりに退屈させることなく、それに多分俺には魅力は良くわからないが、主演が画面に映えているように思える。映画自体は好きでもないが、ラストの適当な「眠いから終わり」みたいな終わり方は好きだ。

 俺も、眠いから終わり。がいい。俺は7、8時間位寝ないと頭が働かないというか、抽象的な思考が出来ない。多分、抽象的なあれやこれやというのが無駄なことで、無駄なことをするのも考えるのにも余裕が必要と言うことだろうか。

 所用の帰りにたまたま銀座に。久しぶりに来た銀座は何も変わっていないように見えて、それは単に俺が銀座に慣れ親しんでいないせいと、かなりの方向音痴(周りを見ない)のせい。

 本当に自分でもがっかりするほど方向音痴が酷いので、一人で電車に乗る時は一々意識していなければしょっちゅう迷子になる。というか、常にipod+車内では本を読んでいるのが明らかに悪いのだが…。

 鳩居堂で二、三、文を買う。この位なら俺にでも気軽に出来る。ささやかな贈り物のことを考えると、少し気が楽になって、そういうのがいい、そういう風なのがいい、と思うのはどこか、俺が自身のちゃらんぽらんさに後ろめたさのような物も感じているわけで、でも、まあ、後ろめたさの全くない人なんて、何だかあまり信じられないのだけれども。

 超絶キュートなチェブラーシカの監督の『ミトン』を見る。十分のコマ撮り短編アニメが三本。男の子の赤い手袋がわんちゃんに、みたいな幼児向けのアニメではあるが、すごく面白い。十分アニメとか、集中力のない俺にぴったり! 

 あと、音楽が何だか物悲しいのもいい。子供向け、みたいなのではなくて、大人も見るような映画音楽と言っても全く不思議ではない。チョコチョコ動くお人形と、少しメランコリックな音楽が相性抜群だ。

 そういえばロシアンティーってジャム入りの紅茶だと思っていたのだが、チェブラーシカの本にウォトカを少し入れる(好みで)と書かれていて、ロシアではちびっこもウォトカを飲むのか、と少し驚いた。(『家なき子レミ』でも身体を温める為ワインを飲んでちびっこのレミが酔っぱらう、みたいなシーンがあったが)


 ドストエフスキーゴーリキーゴーゴリプーシキンは寒い中でウォトカをかっくらってテンションを上げてあのうねるような文章を書いていた、みたいな話も、あながち嘘ではないかもしれない。テンションを上げなければ、みたいな気持ちも強い半面、ちょっと、しばらくぼんやりしたいとも思う。

 でも、まあ、少し休んでまた、片づけを。好きな物があるってことは幸せなことで。俺も、サイボーグとして傀儡として、カスタマイズの喜びを。溺れられる位の人間ではありたいなと思うのだやっぱなんちゃって。