フリップフラップ

pspの『ジャンヌダルク』というシミュレーションゲームをプレイする。四年前に発売されたゲームで、その時から気になってはいたのだが、どうせいつかプレイするだろうと放っておいて、今、プレイしている。

 『ジャンヌダルク』の人を書き分ける絵柄は『世界名作劇場』を想起させ好感が持てる、史実を題材にしているので写実的な方が好ましい、というか、今の時代に放送したらそこそこ視聴率取れると思うのに『ロミオの青い空』とか『家なき子レミ』とか。

 物語も貴族の権利争いにジャンヌが巻き込まれ利用される、ということが登場人物の口から語られていて、よくできていると思う。でも悪者は「死神」とか「魔王」という存在がいて、そっちが担当してくれるのでまあ、都合がいいのだけれど、それはそれで「ゲーム」的で(流通的に)いいと思う。

 プレイをしながらミシェル・トゥルニエの『聖女ジャンヌと悪魔ジル』を思い出す。二人が対話をする、好きなシーンがある。ジャンヌがジル・ド・レに「あなたは神学に詳しい。あなたの仲間は馬鹿にしているけれど」というようなことを口にすると、ジルが語る。



「それは本当のことだ私は思想などを持ったことは一度もない。私は学者でも哲学者でもないし、読み書きすることは大の苦手だ。しかし今年の二月二十五日に、あなたが突然シノン城にやってきた時から、私のこの、貧しい頭の中に止めることの出来る唯一の思想なのだ」

 ジャンヌは突然警戒しながらジルを見つめる(中略)

「だが、私は特に、あなたの中にあって、なにものにも汚すことのできない、その清らかさゆえに、あなたを愛するのだ」
 
 頭を下げると、ジャンヌの傷が彼の目に入る。

「私があなたにしたいと願う唯一の口づけを受け入れてくれるだろうか?」

 彼は身をかがめて、ジャンヌの傷の上に唇を長々と当てる。

 彼はそれから立ち上がると、下で唇をなめる。

「私はあなたの血を聖体のように拝領したのだ。わたしは永久にあなたと結ばれているのだ。これからは、私はあなたの行くところならどこにでもついて行くだろう。天国でも地獄でも!」

 ジャンヌは身体を激しく揺すって起き上がる。

「天国か地獄へ行く前に、私はパリに行きたいわ!」

 

 あなたが唯一の思想なんだ、なんて感動的な台詞じゃないか? 感動的な台詞だ。台詞だ。普通の状況でそんな言葉が漏れたらご遠慮願いたいような台詞だ。というよりも、トゥルニエ=作家が書かせた「貧しい頭の中に止めることの出来る唯一の思想」という告白であるからこそ機能するのだろう。貴族ではないならば「二歳の雄牛くらいの知能」では輝かしくは生きられない。

 この著作の後半ではきちんと、色んな人から怒られることをしちゃうジルだけれど、ゲームの方では頼もしく影のある男として描かれている。てか、後半ジャンヌが死んでジルが狂って自分の城で色々と悪いことしちゃう、とかまじでやったら、ceroのレーティングいくつ? てか家庭用で販売できないっすね。『高二→将軍』みたいな超展開でよさげなのに!

 ジャンヌが女だと知ってショックを受けた(だか興が覚めただか)三島が後年「てんのーから学生の時に時計もらっちゃったんだもんしょーがないでしょ」とかいうようなことを座談会等で語っていて、自己保身に立脚したありがたいありがたい恒常性に似た義理人情ではないのであれば、「好きな人からされたから」は十分説得力を持つものではないかと思う。好きな人、というか、敬意を抱ける人、といった方が正しいか。敬意を抱くのは困難だ。他人を象徴化したり自分語りに利用する際に「せねばならない」という乾きのみを許す(実際そんな甘っちょろいことはないが)というのならば、好きで死んだ好きで殺した、もそれ以上の言葉はいいよ、と思う。

 とはいえ貴族でも「二歳の雄牛」でもないのだから、「もう少しがんばりましょう」そうしましょう。