桜も睡蓮も君のもの
最近寝不足というか、ぼんやりとした眠り、浅い眠りを繰り返していて、ふとした時にまどろみ落ちてしまう。考え事をしなくてすむというのは幸福なのかもしれないけれど、ふと空いた時間にぼんやりできることで、頭の整理も役に立たないことを考える時間もできる。そのほうがずっと、うすら寒くて幸せだ。
クリスマス、の翌日に聞く、『夜桜とフロイド』
「夢から覚めても夢の 夢の中でまた夢の中
さまようアタシは今日も
コワイ夢やアマイ夢を見たの
「恋するバカなアタシは
ワルイ人がワルイ人が好きなの
「あいつの背中の刺青は 春の夜桜よ パっと散りそうな
粋でいなせで艶っぽい 思い出すたびにね 気を失いそうになる
「先生先生ジグムンド あなた博士でしょ？ 心理学の？
あたしの胸の夜桜を 二度と散らさずに忘れさせて
クリスマス クリスマス御釈迦様
あなた今夜はね？ お暇でしょ？
かなしき乙女世界中の アタシ達を皆叱ってほしいの
ロマンチック、とはつまり役に立たないことで、役に立たなければたたないほどわくわくしてしまう。ワルイ、というよりもちょい悪笑の方々が口にする、ステータスのある会員制のスワッピングパーティーでシャンパンを飲んで談笑する彼らを見たときの「どんづまり」感、あるいはロマンチックなミュージックの歌詞、
「たくさん血が出たり骨を折っちゃったりするのは僕の時代にはあんまり好まれなかったんです。
フェティッシュとか、精神分析とか、そういう詰まらないものが流行っていて。
でも、彼女達が好きなものが結局、宝石と香水と毛皮だって事は永遠なんですよ。
裸に毛皮だけ着せて、香水の瓶を割って、お腹を軽く傷つける。
詰まらないプレイですけど、効果は凄いんです。真っ赤な血がうっとりするような香りで。
勿論、楽しくも何ともなかった。
気持ちよくも何ともなかった。嬉しくも何ともなかった。
この国の社交界の一部では、こういったことが何百年も続いてるんだなって思うと、変に敬虔な気持ちにさえなりかけたもんです。
笑うのを我慢するのに苦労しました。
嫌な感じの嘲笑しかできないから。生まれてからずっとそうなんです。
復讐心ですか？どうだろう。今の東京の子供に比べればね。
」
こういうのを目にすると、何だか、帳の下りた冬の繁華街をふらふらしているようなぼんやりできる感じですきだ。今の時期にぴったりだ。店になんて入らない方がいいあるいはさっさと出た方がいい。ぴったり、がいいのは人じゃない方が好ましい。人の中の恒常性じゃない方に。役に立たないものに。
仕事の出来る人というのの共通点があるように思えていて、実際に会ったりとかインタヴューを見たりとかでもそうだが、そういう人は自分がとても大好きだということだ。俺は自分のことを好きでも嫌いでもないというか、自分大好き人生楽しもうぜ、みたいな方にはちょっと距離を感じてしまうのだが、自分のことが嫌いだとか言える人（その人は単に自分を好きになりたいけれど嫌いとか言う）とか何も楽しむ（楽しませる）気がない人よりはずっと好きだ。だって、楽しい方がいいだろ。
でも、好きじゃない方が、もっと色々楽しめるような気がする。『マクベス』の台詞、魔女が口にする、
きれいはきたない きたないはきれい
というか、色々と楽しめる方がいい。幸福も不幸も（それらを身に受けて、つまり認識しているのなら、降りかかっているのなら）どちらも情報量が多くて（情動に訴えかけて）わくわくする。真冬の中の喜び。自分のことも人のことも物のことも景色のことも、勝手にした方が、ロマンチックな気がする。
ただ、ロマンチックでは腹が膨れない、というか、俺、最近食欲が割とすごくて、一日四食生活なのだが、全く太る気配がないのは幸福なのか不幸なのか分からない。自分の肌に触れると、少し、肋骨が浮いているのが分かる。きちんと栄養を吸収していないように思う。
ふとした時に、自分の身体を見ると、他人の身体、どこかの国のフィギュアみたいで、面白いし、あれ、と思ってしまう。目にするものは全部、他人の身体。
その時の足場の無いようなどきどきは、好きな洋服に初めて袖を通した時のようだ。
あんなに美しいのに、人間が着て初めて完成するなんて、（人が着て完成されないのならば現代芸術とでも嘯けばいいだろう）はなばなのような美しさだ。
ダブルバインド、と言えば聞こえがいいというか多少はすっきりするかもしれないが、それでも、好きな物があるというのは幸福だ。そして幸福な人は幸福、と口にしない、文章にもしないということだ。幸福ではなくても、わくわくする。
「叱ってほしい」、とはあまり思わないのだが、俺も「ワルイ人がワルイ人が好き」で、でも「ワルイ」人はほぼいないわけで、さんじゅっさいになったら、ワルイ人になるようにがんばろう、それか3DSを買おう。
