ブルーム ブルーな

 田村マリオの本を最初に手にしたのは、ジャケ買いした『社会不適合者の穴』だった。乱暴に無理矢理紹介するならば、ちょこっとセンチメンタルなビアズリーがずっこけ三人組を書いちゃいました、みたいな(誰も理解出来ない説明)。

 エログロ描写はあるものの、それが性的という感じはうけず、大人向け少年漫画ってかんじの、かなりお気に入りだったのだけれど、エロティックスというマイナー誌での連載のせいか、わずか二巻で無理矢理完結することになる(中村明日美子の『コペルニクスの呼吸』も同じ雑誌でこれも二巻完結。こっちもちょこっとだけ二冊につめた感がする)。

 彼女の短編集『春の虫虫』を古本で買った。かなり前から出ていること自体は知っていたけれど、何故か買わずにいた。

 デビュー作と同じような題材で、一部にパラレルワールド、パロディのようにして同じキャラクターが登場したりする。相変わらず性描写やグロい表現はあるけれど、そこからは性欲や嗜虐、被虐欲が抜け落ちているような感を受ける。ふと、自分が女の子で漫画家志望だったなら、こんな風なのを描いていた、描こうとしていたのかなと思った。

 本人のサイトを見てみると、この三冊しか発表していない(しかもサイトは半閉鎖状態っぽい)。今はどうしているんだろう?漫画を描いているといいなあと思う。

 それと一緒に買った文庫本が角川文庫の三島の本。三島の本は大体読み散らかしてしまったのだけれど、『美と共同体と東大闘争』と題されたこの本は初めて目にした。

 楽しいお喋りは別にして、こうした攻撃的な討論会というものは、それなりの面子が揃っていないと、意義はあったとしても必ず消化不良で終わる。それぞれが好き勝手に自分の中の言語で喋るから当然といってもいいかもれない。東大全共闘との討論会の様子を収録したこの本も所々で読むに耐えない場所が出て来て退屈だった。そもそも俺がここで語られていることに関して興味が薄いこともその一因だろうけれど。

 ただ三島が「天皇」という言葉を発すると、俺にも天皇について思いを巡らせる時間が生まれるのだ。

 最初に頭に浮かんだのはアレクサンドル・ソクーロフの『太陽』という昭和天皇をモチーフにしたとても出来のよい映画で、その出来の良い部分はそこらで書かれているものと重複するからここでは書かない。
 
 そして前日に読んだ宮台真司のエッセイ集。この中にも少し天皇に言及する箇所があったのだ。

 天皇は必要か?と問われたならば、俺は必要だと思っている人が一定数いるだろうと答える。大きく分けて二つ、象徴に盲目な人と、(自分自身というよりもむしろ)人々には象徴がなければならないのではないかと悩むインテリ。

 しかしこれは先程の問いに答えてはいない。正直なことを言うと俺の意見は「しらんがな」であるのだが、強く思うのは、天皇を求める人は天皇の人権を侵しているのだということを自覚しているか否か、それでも未だ「普通の人間」に『天皇ごっこ』をして欲しいのか、という疑問だ。

 でもこんなことを思ったとして、多くを占めるであろう盲目的に象徴を欲する人にこの声は届かない。届くとするならば、彼らは象徴を捨てる羽目になるからだ。生活に象徴の詳細情報は不必要だ。

 だが、少しだけ俺は三島の生き方に仄かな憧れを抱いているのだ。彼の行いを馬鹿で滑稽だと思いつつも、自分自身に超越者へ帰依を望む心情を拭いきれない。でも誰だって多少はあるはずだ。

 皆「カッコイイ人」好きだろ?
 
 とはいえソクーロフの映画に出来が良い(文句が付けられない)とか言う感想を漏らす俺にはどの超越者への距離も、程遠い。

 田村マリオの短編集の最初の作品は、天才髪ボサボサヒョロガリ服役囚が、刑期を減らす為にグロテスクなキメラを作る話。男は命令に従い12年間ひたすらキメラを作る。或る日駄目人間の所には可愛らしい女の子が送られてくる。

「そうそう 今回の資材 生きてるから よろしく」

 男はなるべくグロテスクにしてくれとの依頼を受けている
。可愛らしい女の子は連続殺人犯の死刑囚。生への執着が薄い女の子は、既に子宮と腸に手術を受けて拡張されていた。男に逡巡はあっても、結局は手術をする。オリジナリティの枯渇している男、依頼主から幾つかの条件を与えられ、それを作業を円滑に進める要素と没頭する。女の子は今回の改造で男の刑期が終りらしいよと教えてあげる。

 依頼主の要望を知っている女の子は、ブタとでもくっつけてと言い放つが、男はそれを断る、変態趣味に付き合いたくない、傑作を作ると宣言する。女の子は歯軋りしてそれに呪詛をぶちまける。あんたは最後に可愛い子作ってそれでよかったね、でも私は続く、醜くなってさっさと終わりたいのに

 男は女の子の身体から花が咲くように改造して、庭に埋める。花に埋もれながら、花に侵されながら、女の子は最後に腕を伸ばし「ありがとう」と呟く。

 依頼に失敗して男の作業は続く。汚い家の窓から広がる景色には白い花。

 象徴を抱けない人間だから、欲望の薄い人間だから、花に軽薄な愛情を抱けるようになったのだ、と自分のことを思っている。天皇はどうでもいいから、これからも花のある景色を見ていきたい。見れますように。田村マリオは漫画を描いているのだろうか?(俺は見ることが出来るのだろうか?)とりあえず俺もキメラちゃんとおゆうぎ