魔法がいらないのは君とそれと

  やらなきゃならないことは沢山あるのだけれど、予想外の出費やら雑務やらに追われて、なんとかやらねば、みたいに無理やり自分を奮い立たせていたのだが、

「あ、オレ今疲れてるわ」とはっきりと意識して、疲れたならば小休止を取るしかない。自分の体をコントロールするのは自分の役目だ。認めたくないことだって認めて。そうしないときちんと進むことができないだろう。


 ファスビンダー映画祭、時間をぬって、ぎりぎり『聖なるパン助に注意』を見ることができた。『リオ・ダス・モルテス』の時は早めに整理券をとってかなり番号が後半通路に座り見の人まで出る始末だったからびくびくしていたが、今回はガラガラでラッキー! って、好きな監督の映画祭のプログラムでガラガラというのも少しさみしいのだが…(贅沢な悩み)

 映画撮影現場で金銭や人間関係のトラブルが描かれる、群像劇における人間関係のもつれというファスビンダーいつもの映画なのだが、やはり面白い。残酷で身も蓋もなくて少しだけロマンチックで情けない。

 にしても、俺はこの会場で三回映画を見たのだが三回ともちょくちょく笑い声が漏れたのには驚いた。確かにとても滑稽で笑いを誘うシーンはあったのだが、彼の映画はコミュニケーションにおける断絶というものが大きな主題になっているように俺は考えていて、だからどんな滑稽で馬鹿らしい行動も言葉も、それが必死であればあるほど、自己中であったり先鋭的であったりすればするほど相手の理解は得られないものなのだが、それはとても痛ましく、笑うことなんてできないというのが俺のかんそうなのだが…

 そして会場で以前同じバイト先の先輩に会った。お互い番号も知らず、七年位ぶりの再開だった。当時はちょろっとだけしゃべってはいたが、お互い仲の良いグループが違うし、ノリも少しずれていたからあまり仲良しというわけではなかったが、映画を見終わった後軽くお茶をするのは結構楽しかった。その人はお酒が大好きで、俺は誘われないとお酒を飲まない(お酒があまり強くない)タイプだが、帰り際に

「まあさ、今度飲もうぜ」

 という本気だか本気ではないだかの常套句を耳にすると、何だか懐かしいような気分にさせてもらった。


 こういう少しだけ親しい人の社交辞令って、俺はわりと好きなのかもしれない。こういう俺の感想って、少し悪趣味かもしれない。


 最近読んだ『ファッションは魔法』山縣良和+坂部三樹木郎

 がかなり面白かった。雑に言うと日本のストリートにも洋服をファッションショーを、みたいな感じのノリの本なのだが、若き二人がそれぞれのやり方で奮闘している様と、その結実の一つとして、まるでインスタレーションのような、お祭りのような参加型のショーを行っているのが中々興味深かった。

 正直オレは現代美術におけるインスタレーションにおいてかなり懐疑的で、それはアートワールドにおいて批評家が投機家が評価しやすい、コンセプトありきの、美しさ、堅牢さというよりも単に「びっくりさせる」とか「感傷的にさせる」モノ達だからだ。馬鹿げたことにもっともらしい理由をつけてプレゼンテーションをする、みたいなのは、本当にげんなりしてしまう。それなら「値段のついてしまう」「現代美術」というパッケージではなく、「お祭り」でいいじゃん、ってかスノッブな(とても悪い意味で)どんちゃん騒ぎじゃん。(浅田彰がこれを「お座敷スノビズム」と十年以上前に揶揄していたのだが…)


 でも、アートではなくファッションであるならば、話はまた別だ。この著作で語っているように、主役はあくまで人なのだから。人が着て、街に出て、動いて、初めて生き生きとするもの、それが洋服なのだと。


 また、イヴ・サンローランの言葉を引いて、


「人はだれでも生きていく上では美しい幻を必要とする」


 と言い、著者は魔法の力が、よくわからないものの力がひつようだと口にする。

 しかし、また、リアルクローズ(日常的な服)とクリエーションの間のバランスを取るのは難しい。と、挑発的なコレクションを作っていながらも苦悩する姿もリアルで真摯でいいなあと感じた。また、人間が「着るもの」という人間に向き合ってからこそ始まるクリエイトに関しての姿勢はとてもまっとうで、良い服には、一見滑稽に見えてしまうものにだって、それだけではない「実用性」が備わっているのだ。

 また、著者がスクールの中で生徒の持つ「バグ」を大切にするという視点はとても大切なモノだと感じた。何かがいびつであったりわからなかったり今ひとつであったりしても、何か「表現したい」というこだわりがあるからこそ、何かの手段で、人は作品を作るものだろうから。そして、それはやはり様々な人の影響を受けながらも、とてもオリジナルなものであるはずなのだ。バグは、その人だけのものだから。


 またスクールでは専門外の人との交流を持たせるというのもいいなあと思った。ファッションは複雑な自然そのものを映し出す、という彼らのことばもいいなあと思った。

 頑張っている人の本を読むとやっぱり元気が出ていいなあと思う。素敵な場所は自分で作るもので、特にファッションなら見知らぬ誰かとも気軽に楽しさを共有できるのが素敵なことだと思う。その点、数十年前の文学、芸術作品は、共有が中々難しく、それを思うとたまにぽーっとなってしまいもするが、俺も自分に正直に、それらへの気持ちを大切にしていけたら。

 そしてそればかりでも身体にあまり良くないわけで笑

 http://www.youtube.com/watch?v=_otQ9TLxnqA


GREAT 3 - DISCOMAN






 マンションのロビー 香り立つドーナツの匂い
 バランス取れないまま 笑ったり泣いたり繰り返す

 イエーイ

 誰よりもうまくやってやるさベイビきっともっと

 かなわない夢も叶えてみせると僕らはいつも愛を重ねる
 夢じゃない嘘じゃないうまく言えばい それはつまりほら

 そんな  イエーイ イエーイ イエーイ




 夢じゃない嘘じゃないうまく言えばい それはつまりほら そんなー


 って、めっちゃセクシーですね。こんな投げやりに、でも、ロマンチックに。