コオリのお城に僕も

 金が無いから仕事をしようとしたのだが、体調のせいでダメになった。というか、週の何日かは15時間以上寝ている。吐き気がする。もうそろそろ、年貢の納め時かなあとも思う。


 それなりに好き勝手やってきたので、うまくいってなかったので、きちんと、いつ塵芥になっても良いようにしておきたいな、とは思っている。

 だが、文学の小説の方は、結構調子がいい。ちゃんと、毎日書いていて、書き終え速いペースで書き終えたから、腑抜けになってしまったが、それでもまだ、気になる事柄は、書きたいテーマはある。

 そういえば、自分の書く人物の中には大抵サイコパスが登場する、と思った。自己中心的で尊大で罪悪感がないのになぜか魅力的に見える、というのが雑な定義だが、きちんとした診断を下すならば、こういった特徴に「反社会性」を加えると、サイコパスと診断されるそうだ。

 反社会性、十代の悪ガキなら誰でも(そうか?)共感してしまいそうな言葉。そして、それを捨て去り、サラリーマンやフリーターに「きちんと」なっていく。

 でも、それじゃあつまらないじゃないかなあ、というか、社会からもつまはじきにされる存在もいる。

 反社会的にしかいきられないとしたら、或いは少しずれるが社会に属せないとしたら。大なり小なり、そういう人の事しか俺はほとんど興味がないし、かけない。自分がそうだから。

 あまりこういうのを書かないのだが、先日読んだBL警察ヤクザ漫画、梶本レイカ『コオリオニ』が、今更ですが、(三月発売)今年の個人的ベストワン漫画で、本当に胸に来て、5日位毎日最初から最後まで読んだほどだ。

 ストーリーは実際にあった道県の不祥事を元にしていて、ヤクザと組んでチャカをあげる(点数稼ぎ)とか、武器庫に潜入したりすることになる。

 ヤクザは八敷 翔 ロシアンハーフで美しくビッチで頭が回り、好きな人以外は罪悪感なく殺す。

 刑事は 鬼戸 圭輔 何でもこなす男前な悪徳刑事 

 その二人のコンビが最初は「利害関係」で結びついていたのが、段々と自分達が「バケモノ」だと思い、同朋意識のような、友情に近い恋、のような感情を(主に翔が)抱くようになる。

 、翔は、幼いころから、働かない親父に、ロシアンハーフの美貌から犯され続け、佐伯、という先輩に「辛い時は心をコオリにするんだ(コオリオニという遊びの様に)」と教えられ、その佐伯がぐれた時、一緒にヤクザまがいの商売を始め、すったもんだがあり、正式に組入りする。

 翔は見た目は明るく、罪悪感がなく、何もかもに冷えている。

 刑事の鬼戸は、親も刑事だったが、カラ出張のニセ領収書を、上司に「書けません」と言ってから、出世コースから外れて、北の大地に飛ばされ、両親ともダメになってしまう。

「言われたとおりのことだけをしろ そうじゃないと とうさんみたいになってしまうぞ」

 という言葉通り、鬼戸は、とんとん拍子で出世もして、結婚もして、エス(情報提供者、ここでは銃を渡してくれる相手)もいる状況、順風満帆なのに、それも崩れていく、

「『どんな』言うこともしてきたのに」、同僚に「おまえは普通じゃない」とエスには「おんなじ、御気の毒様」と言われる。

 それでも、翔も、鬼戸も生き伸びてきて、偶然出会うのだ。

 この二人の濃密で切なくも熱い話は是非買って読んで欲しいので、サブストーリー的な、話しの事でも。

 なんと書き下ろし130ページ(無償なんだって!!!)で加えられた、翔のただ一人の親友、佐伯の話が、本編もそうだが、本当に胸に刺さった。から、書く。

 彼はADHDで、文字が書けなかった。この漫画の設定が今よりも十数年古めなので、時代的に教師もそれをきちんと認識できず、徹底的に叱られ続ける。

 そして母は家に男を連れ込み、それでお金を稼ぐ。しかし、佐伯は学力はあった。世界の名作やら文芸書を読む能力もあったのだ。

 でも、彼は様々な要因があるにせよ、翔が父親に犯され続けているということを知り、ぐれる、ことを母親に宣言する(宣言する所がマジメでいいですね笑)

 後は、もう、十代を悪行の限りで過ごすことになる。でも、彼の親友は翔だけだ。多分、他の金や女が欲しいだけの「チンピラ仲間」とはちがうからだろう。


佐伯は分かっているのだ、翔と二人バイクを走らせながら、



「世間が周りが この身の上が 俺達がクズなのは 俺達のせいじゃない」

 というモノローグに、「ちっ がうんだよなァ」 と呟き


 アノ頃の俺達は 多少深刻には死にたがって いたし

 試みてもいたが ただそれは

 自殺では満たされない 欲求だったのだろう

 

 ここで見開きになり、黒い闇の中を親友二人でバイクに乗った佐伯の、モノローグのセリフが切ない。

 せめて死の国くらいは 俺達を受け入れてくれやしないかと……

 居場所が欲しい…



 そして、彼が選んだのは、「俺のお城はイカレたお城 探しに行こう コオリのお城」翔、であり、ヤクザの仕事だった。翔は罪悪感がなく頭が回る、でも、佐伯は、違った。或る日幹部に呼び出されて言われてしまう。

「お前、ヤクザ向いてないんじゃないか、俺らは罪悪感がないが、おまえはなんていうか、繊細で作家先生みたいだ」
「お前案外普通じゃないのか?」

 それを聞いた佐伯は、自分が悪いこともできないしかといって知能も劣る、できそこないのゴミクズ以下じゃないか、と暗澹たる気持ちになる。

 ちびっ子の佐伯が何度も「あけてください」と扉を叩いたけれど、開かない、美しい氷の城の幻想を見る。

 そこから、自己破滅的な傾向が加速して……


 というので、本当に自分の好みであり、漫画としてもかなり読みごたえがあるものだから、BLとか無理、とか思っている人にこそ読んで欲しい(実際ヤクザライターとかの人がべた褒めしていた)


 あと、俺はこのレイカ先生の本、出た奴7冊全部読んだことがあるし、単行本7冊も出してるから人気作家、だと思っていたら、このコオリオニの売り上げも悪いし、仕事も8ヶ月依頼がないし、廃業します、みたいなのがホームページに書かれていて、あぜんとした。

 そう、漫画家に限らず、好きな人が突然いなくなることが、あるんだ。

 だが、レイカ先生はまた連載が決まり、改めて活動することをページに書いてあって、本当にほっとした。人のことを心配している場合ではない、けれど、やっぱりうれしいな。

 パソコン横に薬の束を雑に積んでいるのだが、それが崩れて、金と青の十字架に磔刑にされたキリスト像が出てきた。滑稽で楽しくってクソみたいな光景。とりあえず、春くらいまでに、何かまた書けたらいいな