大丈夫。大丈夫だって言って

一応多額の借金は返済した。だからといって、巨大なマイナスがなくなっただけで状況は悪いままだった。

薬飲んで頭回らなくてだるくて、ずっとギャンブルがやりたい、逃げ道がそれしかない生活。

その上、一応六月七月はそれなりに働いていたのに、複数の日雇いなどからの仕事がぱったりとなくなり、新しい所に応募するもうまくいかず、寝て日々を溶かす。

 新しい派遣の仕事は9月から。色々と厳しい所で一か月更新。自分に務まるかは分からないけれど、やるしかない。でも、モチベーションが無い。やりたいことすきなことって何だったっけ。

そんな風に八月を腐らせていて、15日を過ぎたころ、ようやくなにかしなければと、えを描いた。中断していたアクリルでのらくがき、しかも半年ぶり。

 俺は美術が好きで、上手い人のを見まくっていたが十代で「写実的な画が描けない」という理由で画を諦めた。代わりに小説を書くようになったが、画をかくこと自体は好きだったはずなのに、しかし描くことはなかった。諦めて、そのまま十数年が過ぎた。上手い人のを見まくっているから自分の下手な画が許せない。

そんな言い訳をして描いてなかった画。半年ぶりのアクリル画

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半年ぶりの素人画にしては、まあいいのではないかなと思えた。勿論細部の雑さやらは酷いのだけれど、画を描く楽しみを思い出した。それに、十数回アクリル画を描いて、それ以外全く画を描いていないのに下手なりに上達しているのも感じた。

 やらなきゃな。病気に甘えているんじゃなくて、少しずつやりたいことをして行かなくっちゃ。

 俺ももうすぐ40身体も精神もガタがきている。まともな会社員も小説とかで少しの金を得ることもできなかった。その日暮らしの躁鬱病者。いつ駄目になるか分からない。もっと危機感を持ってやるべきこと、片づけて行かなくっちゃ。

 とはいえ一進一退。全てがよくなることなんてなくって、相変わらず色んな不安と戦いながら、でも、少しだけ日常を取り戻している。

 映画も半年以上ぶりに見ることができた。不安が酷くてじっとしていられない。だから90分程度のわりと楽に見られそうなのをいくつかレンタルした。

映画『処刑の島』見る。少年時代にうけた復讐の為、20年ぶりに島に戻った主人公がとる行動とは……話の筋は単純だけど、後半に詰め込みすぎな感じが。でも映像は良くて撮影宮川一夫。久しぶりに見る映像のチョイスがこれかいと思うけど、きちんと作られていて楽しく見られてよかった。

マルセル・カルネ監督ジャン・ギャバン主演『港のマリー』見る。おじさんが若い奔放な女の子に振り回されて、とか言う説明文だけど、実際はそうでもなかった。男女のよくある恋の話。なのにモノクロの船町も気の利いた台詞の応酬もとても良くて、古き良きフランス映画って感じで良かった。

小西康陽がプロデュースした、夏木マリの歌、港のマリーの元ネタだから、いつかこの映画見ようと思って早十数年笑。ようやくみたよ笑。 夏木マリの歌も最高に良くって、映画の内容とは違うけど、そこがまた良い。奔放で不幸で美しい歌の中のマリーも、映画の若いのに大人びてカワイイマリーも美しい

 モノクロの映画を見ると、何だかわくわくするのだ。映画と言えばモノクロ、とトリュフォーも言っていた。別世界の出来事のような感動。それは黒と白の単純な光と影が物語る映像だからだろうか。情報量が多い映画よりも、モノクロの映画の方が美しいと思ってしまうことがあるのはなぜだろう。

 初期のモノクロの映画は画質が悪いとか映画として洗練されていないとか、いろいろ問題がある物も多い。それでも、久しぶりにモノクロのフランス映画を見て、ああ、好きだなこういうのって思えて良かった。

大金をかけた、センスのある、ありきたりな話。

俺とは別の世界の物語。一時間半で現実へと突き放される。それでも、映画は美しい。少し虚しく切なくて、そういうのが自分は好きなんだ。

 少しずつ、何かしなければと思い、六本木のサントリー美術館に行った。そしたらまさかの休刊日!!!

 頭がくらくらしたが、覚悟を決めて六本木から歩いて恵比寿の山種美術館へ!! 貧乏人は歩くしかない。というか、歩きながらgreat3をずっと聞いていて、体力的にはへとへとだけど、それはそれで楽しかった。

 ずっと歩き続けていて、何時間もgreat3聞いてた。今更だけど、夏の曲多いなー。切なくてソウルフルな彼らの曲と夏の終わりは相性よくって、メロウ。

 彼らが九月にライブをやると知って驚き嬉しくって、それと同時にお金をどうしようかと思った。

大好きなバンドのライブを見るのに、金の心配をした自分が情けなかった。でも、働けないかもしれないし、支払いがヤバくなるかもしれない。

 色んな不安をこじらせこねくり回していたが、数か月前のコットンクラブでの彼らのライブは本当に良かった。rubyが聞けなかったのだけは残念だったが、 golfがとても切なくって片寄明人の甘い声とキーボードの電子音が合わさって夢の世界だった。比喩だけど、比喩じゃない。その位気持ちよかった。元々好きな曲だけど、さらに好きになったし、大好きな片寄明人が今も歌ってくれていたことに感謝した。

どうか、プロでもそうでなくても、何かを作っている人はやめないで。休んでしまっても仕方ない。でも、続けるのって一番難しくって素晴らしいことだ。休んで、またその楽しさを思い出して。

 山種美術館日本画に挑んだ精鋭たち』見る。明治以降、西洋画という大きな存在に対峙する作品たちの展示。速水御舟の白芙蓉のみ写真可能。実物は金の花粉が花弁を覆っていてとても繊細で美しかった。日本画はやはり実物見なきゃなーと思った。

他には前も見た上村松園の牡丹雪はやはりとても良くて、柴田是真という画家は知らなかったが、ユーモラスな蛙や波に千鳥という漆絵が良かった。中でも一番は横山大観の『波上群鶴』という小品。一対の小さな襖の作品で、小さな鶴、淡く揺らめく美しい海の青と白。それでいて地の部分の面積が一番広いというのが、広大な印象を与えていてとても良かった。

空間の使い方が本当に上手い。日本画の省略と細密さは美術館で生で見なければと思わせてくれる。輪郭線を伴わない技法は朦朧体として当時とても批判されていたらしいが、良い作品は必ず惹きつける強さも持ち合わせていると思う。

 山種美術館は何度も行っているからわりと好きな同じ作品を見たり興味が無いのもあったりとかもありつつ、行ったら必ずよかったなあって思える。

美術館って、美術ってそういうものだよなって思ったらとても素敵な事だって思えた。

 俺、まだ書きたい小説あるんだ。金にならないし時間と精神を削るからできるか分からないけれど、やらなきゃ、というかやりたい。小説を書くことだけは十数年続けてきた。美術を好きということは、素直に好きだよって言える。

 素直になれるって素敵な事だ。普段の生活は、繕ってへらへらして、薬を飲んでいるだけのしけたおっさん。でも、創作の世界なら、誰かの作品に触れている時は違う。それが錯覚でも徒花でも。大丈夫。大丈夫だって言って俺に。