おおきくなったね

携帯電話で小説を読んだことがあるだろうか。俺は携帯はおろかネット(PC)でまとまった量の小説、評論を読むのも苦手だ。それは携帯で小説なんて、と思っている先入観もあるけれど(実際当たっていると思うが)、単純に画面の問題で見にくい、自分がそういった形式で思考をしつつ閲覧することに慣れていない、といったことを感じる。

 家庭用テレビゲームの初期、FC、GB等では容量が少ないし、メッセージウィンドウに一度に収まる量を考慮して、文章が作られていた。携帯電話よりもさらに少ない情報量。

 ハードの性能が上がっても、基本的にノベルゲーム(選択肢を選び話が変化する小説タイプのゲーム)を除き、画面下部三分の一程度のウィンドウに表示される情報量は、大した量ではない。物語を語るには心伴い。にもかかわらず、思い出補正はあるにせよ、ゲームのシナリオや物語で高い評価を受けているもの、実際に俺も「面白かった」と思うものはある。

 それはゲームが文章以外の要素からも成り立っている、という当たり前のことで、音楽が、ボタンを押す快楽とその反応とが、文章を体験の名前で補完するのだ(あくまで文章との主従関係においては)。

 作家のブルボン小林がエッセイで「ゲームのシナリオで褒められるのはオウガ位でしょ」と言っていたが、俺も「小説単体で」といったら似たようなことを感じる。けれど、初期の女神転生のシナリオを担当した鈴木一也は普通に冒険小説を書いたのを読みたいと感じるし、ヘラクレスの栄光Ⅲの野島一成、MOTHER1,2のいとい(この人自体はあまりすきではないけど)やサンサーラナーガ2の押井(アニメ見たことない)はゲーム的な仕掛けとシナリオとが幸福な出会いを見せているように思えた。

 キャラクター小説を書き終わってから、今の人気作(だと思う)の何冊かを書店でパラパラめくってみたのだが、多少予想していたとはいえ、全く「文体」というか「文章」が頭の中にあったものとは別物で、面白かった。萌えとかを前面に押し出していないのでもそうだった。でも、やけにセンテンスが長いくせに何を感じることもない大人向け大衆小説よりも、短い息で、感嘆符や擬音擬態語と一部だけ難読漢字の言葉達を友にした方が、俺は好きだと思った。

 それにしても、俺はマルグリット・デュラス「みたいな」のをライトノベルだと勘違いしていたのか?、というか、自分で出来上がった小説を再読して、ふと、子供向けデュラスを書きたかったのか?と疑った。以前も日記で書いたが、俺はデュラスの小説があまり「いい」とは思えない。半裸で、乾いた唇と濡れた瞳で訴えかけるような、彼女の文章。彼女が脚本を書いた映画の出来がとてもよかったから、シナリオ的な文章とも思っていた。

 けれどそれは感情移入、彼女の誘惑に身を任せるのであれば(しかもキャラクター小説とは異なり不実さえも許せるならば)、唯一無二の園遊会である、かのように機能するだろう。中々キャラクター小説向きではないだろうか?いや、このままだと語弊がある。デュラスの豊潤さと隙間は、映像や挿絵を許す、手を開いている(実際のデュラスの本についているのは見たことないが)。

 とはいえエンタメで一番重要な要素は「理解できて面白い」ことに尽きるだろう。そんなんほとんどねーよ。なんて思っている俺みたいなのは書くにも読むにも不適切な人間ではあるが、「ルール付きの小説書きゲーム」のような面白い体験だった。どうすれば課題(読んでもらえる)をクリアできるのか、と自分で書きたいこととの折衷案を探し試すゲーム。

 ところで俺はPCのゲームを全くやったことがない。PCの女神転生は前々からやりたいと思っていて、しかしバグの多さや値段の高さで手を出していなかった。ヒロインがゾンビに食われるとか性交で体力回復とか、家庭用ゲームではありえない表現もばっちりらしい(繰り返すが、そういった場面が喜ばしいのではなく、さまざまな可能性を示唆、提示しているのが嬉しいのだ)。

 今出ている国産PCのゲームの90%以上はエロゲーらしい。過激な表現が許されていて、一定の客層が見込めるからである。また、エロゲーは電脳紙芝居と揶揄されるように、その多くがノベルゲームになっている(らしい)。これはつまり難しいプログラムの知識がなくてもゲームバランスやバグ取りに労力を割かなくても、文章と可愛い女の子の画(それと声)だけでできてしまう、とても敷居が低く、なおかつ客層が見込めるゲーム形態(らしい)。

 とはいってももうとっくにゲームバブルは終わっており、オレサマ荒稼ぎなんてことは夢物語。でも、自分で作ろうとするならば、依然として他のゲームよりも敷居が低いし客層も(多少は)見込めるだろう。

 PCゲーム向きのエンタメキャラクター小説、という募集があれば、と悔んだが、大手がそんな本道と比べたらニッチな世界での育成に力を入れるわけがなく、しょうがないから俺は自分で助平なゲームの制作をすればいいんだね! と思ったが、瞬時に我に返る。我に返ったところで何があるわけでもない。