青い空

雑な性格をしているせいか、ipodに使用しているイヤホンを2、3ヶ月周期で買いなおしている。普通はどの位もつものなのだろうか? 俺の場合、いつのまにか断線してしまっているのだ。一生、というか5年とか使えるなら高価なヘッドフォンを買ってもいいんだけれど、どうせブチ切れるんだと思ったら、千、二千の微妙な買い続けている。

 で、ふと、ネットで調べるとガスパールとリサのイヤホンがあって、ヘッド部分がガスパール、かリサになってんの! やっばいね! 超やばい! んだけれど、これをつける俺はかなりヤバい、っつーか学生さん位しか似合わねーよマジだけれども、今の俺の耳は髪で隠れている。ガスパールやリサをしていても、大丈夫。買わないけど。

 一人暮らしを始める時に、母親から柘植の櫛を貰った。母が長年使っている、手の脂で酸化で柔らかい飴色になった櫛ではなくて、山吹色と橙色の混ざった、真新しい櫛だった。母と同じ、飾り細工の無い半月型の櫛には、清潔な印象を受けた。

「伸ばした髪は僕の目や耳をふさいでる」のも「こんなことはいいたくないのさ こんなことはいいたくないのさ」も「何かが違うと考える頭は真っ白に 何かが違うと考える頭は真っ白に」も地で行っていた俺だけれど、泣く泣くアルバイトの為に髪を切ることになる。往来で涙が出た。頭は真っ白、つまりはただの馬鹿、長い髪に執着しながらも、考えなしだった。神経質なくせにいざというときは杜撰、杜撰さに救われることもあるが、印象に残っているのはやはり足元を掬われる体験。

「男は髪で耳が隠れないように」意味が全く分からない、いや、理解できるが、怒りすら覚えない。要するにこんなことでぐちぐち文句や疑問を抱くような奴をふるいから落としているだけなのだ。俺はただでさえ色々と残念なのだから、髪で意志を働くという意志を示さねばならない。意味なんてない。たまにこっちが、眩暈がするだけだ。


 やがて、髪は伸びてくる、すると俺はたびたび自分の手で鋏を入れた。気分が良くなったり悪くなったりすると、鋏が髪へとのびる。仕上がりを勘定に入れないならば髪を切ることはとてもわくわくすることだしかし、俺は長髪がよかった、長髪を目指していた。自分は長髪しか似合わないのだと信じていた。けれども一番長かった時で肩に届くかな、程度の長さで、腰までとか胸までとか伸びている人を見ると、小さな敬意のようなものが生まれた。俺にはとても無理だ、と思っていたから。

 櫛はすぐに使わなくなる、というか身体についてあまり考えたくはなかった。だって、勝手に生きてくれているじゃあないか。不健康を言い訳にしてはいたが、自らの不摂生がたたっているのだと自覚しながらも直そうとはしなかった。だって、身体について考えてどうなる? と。

 しかし、俺の身体は(優秀な)機械のようには出来ておらず、身体に時間をかけて向き合うことだってたまにはある。髪一つとっても、初めに十分なお湯で髪をすすぎ、続いて泡だてたシャンプーでゆっくり、指の腹でマッサージをするように洗い、流したのちにトリートメントをしっかりしみ込ませる。風呂から上がったらタオルを髪に押し付けるようにして水分を取り、ドライヤーで十分に乾かす。そして櫛で梳いてから、オイルエッセンスを少し。くせっ毛で髪の量も多い俺だけれど、こうして普通のことをしていれば、翌日しっとりとまとまった髪になる。

 プラスチックの櫛ではなく、柘植の櫛の方がやはり髪通りはいいように思えるし、その手触りがいい。手触り、について身体について生活について、もう少し、後回しにはできないだろうか? 

 でも、髪くらいはやはり綺麗にしよう綺麗にしたい、と思ってはみても自分で切って段が出来ている髪を綺麗にしてもらうとなると、かなり切られてしまうのは目に見えていて、美容院に行けずにいる、というか、偏見というか超主観だけど、都内で普通に切ってくれる所って5000円+指名料、みたいな所のような気がする。普通、っていうのは美容師さんがその後の客のことを考えて、最初にきちんと話をして、カルテを作ってくれるとこ(あの頭の画が書いてあるカルテを見ると何故か安心してしまう)のことで、でも、二ヶ月周期で金が飛ぶことを考えると、どうしても行くことがためらわれる。だって毎月好きなDVD貰える、みたいなことじゃん! きちんと生活としたいことを両立させている人に対して、多少引け目を感じる。髪くらい綺麗にすべきだ。でも、折り合いがつかないならば仕様が無い、はずだ。

 とりあえずこれ以上は髪くらいは切らないようにしたいと思っている。長髪が好きならば、それでどうにかなるならばどうかなってしまうならば、嫌な明日を待つことに対して気が楽になることだってありうるだろう、髪を切りませんように。欲を言えば髪が誰よりも速く伸びますように神様。