しょぼスター

 半年か一年前に比べて、明らかにテレビをつける頻度が下がった。テレビを見るのではなく、つける。俺は何かをしながらテレビを見るのが習慣になっていた。テレビの画面で何かが起こっていても知ったこっちゃない。元気な雑音がしているのが好きだった。

 特に深夜の通販番組のセレ○ション・エックスというのが一番好きだった。あざとさと寒さのバランスが一番好みだった。にぎやかしの女の子(一人か二人)と信頼のおけないてらかどじもんと元イケメン俳優のかけあいは寒々しく、しかしどことなくダウナーな感じが漂い(○シュレとか外人のとかは元気過ぎるし、自然派商品を紹介してジジババ押しのは枯れ過ぎている)好みだった。

 当然何日か続けてみていると、同じ商品が映されるのも良かった。繰り返す悪夢「Recurring Nightmare」(MTG)、の超しょぼい版、みたいな。

 でも俺はその通販番組が何時の何曜日に何時からやっているのか全く記憶にない。新聞もテレビガイドも見ていないし、そこまでしてテレビをみたいとは思わない。ただ、深夜にダウナーな、しょぼい悪夢が流れているのを知っているだけで十分じゃないか?


 とかいってもしょぼい悪夢ばかりに頼っている訳にもいかない。

 光る万華鏡を買って、初日で何だか後悔しながらも、これはこれでいいのかも、とかいう微妙な気分になった。俺は暗闇でパソコンのキーを打つ用に欲しかったのだが、パソコンの画面に集中している時は万華鏡見えませんよね。ちょっと考えれば分かるはずですよね……。

 でもあんまり損した気分になってないのは、それなりに楽しんでいるからかもしれない。多少の気分転換にはなる。買って一日目でお蔵入りとはならず、ちょこちょこ使っている。やっぱり、部屋の中がきらきらするのは楽しい。

 働いていないのだから、無駄な出費を抑える為外出を控えてはいるのだけれど、家にいるよりかはどこかに向かっている時間の方がずっと好ましいものだ。家にいつまでもいてもろくな気分にはならない。向かう先と言うよりも、あくまでその途中が落ち着く。もちろん音楽と一緒に。

 久しぶりにFPMの曲を聞いたらとても良く、というか元々好きだったんだけど、最近はそういうのを聞いていなかった、ダバダバ、パパヤパ、囁く、ラウンジ・シネボサ・シネジャズ・モンド・ハウス。
Gentle people ,
Dimitri,
Riviera,
Stereo Total,
Arling & Cameron,
Armando Trovaioli,
Michel Legrand……

READYMADEと、その仲間たち。

 ずっと、ダバダバ囁き続けるのを聞いていると、何だか気分がましになってくる。とかいいながら、「その仲間たち」の曲を何曲も削除していた。削除しなけりゃIpodに入らないから。

 だから一時期新しい音楽を聴くのがすごく苦痛で、馬鹿みたいにどんどん曲をためられないなんて。そう思っていたけれど、いつまでも曲を聞かないでもいなれない。どんどん消費して、たまに思い出せば、多分それでいい


 新宿で山本タカトの展示が行われていて、いくかどうか少し迷っていた。少し遠くの駅まで歩けば、片道160円でいけるのだ。でも、金額が問題ではないのは分かっていた。

 山本タカトの画集は今最新作で6作目なのだが、俺は三冊所持していて、まあ、画集を三冊持っていると言えば、熱烈ではないが結構なファンといっても間違いはないだろうが、俺は第二画集の『ナルシスの祭壇』がとても好きで、その頃の「線」の太さが、画面の版画的構成、省略の仕方が、「クールでいながらも『ぼてっ』とした画面」がとても好きだったのだが、どんどん線が細くなり、書き込みも増えてきて、好きは好きなのだけれど、ちょっと好みからは外れると言うか、細密に技術に拘泥しているようにも感じられてきて、画集を手にとっても購入することはなくなっていた。

 でも、まあ、外に出る口実を作ってくれたのだから、感謝しなければならない。買ったまま試着以外一度も袖を通していないシャツを着て、新宿に向かった。

 新宿に一人で向かったならば、まあ、服を見なければならないので、何件か服屋を回り、多少欲しいのはあったけれど超欲しいのは無かったから、出費は抑えられた。何だか得した気分になった。洋服を見るのは楽しい。

 その後ディスクユニオンでCDを三枚買った。そして紀伊國屋画廊に向かう。正直、思っていたよりもずっと魅惑的な作品が並んでいて、ここ数年の作品の中では一番好みだと思った。別に俺の個人的に好きな時期を見出したのではないけれど、この先もやはりこの人の作品を見てみたいなと思った。

 会場で売られている素敵な画集と俺の買った、(一日で飽きた)しょぼい万華鏡はほぼ同じ値段であった。でも俺は後悔しなかった。しょぼい光が今の俺には必要だったから。画集は購入しなかった。

 地元の駅に戻り、レンタルショップでCDを7枚借りる。沢山消費して、沢山忘れなくっちゃと思う。