すばらしきこのせかい

 色々と(些細なことが)あり迷っていたのだけれど、motocompoの出演しないmotocompoのイベントに行った、良かった。音楽が好きな人と、好きな音楽について話すのはやはりとても楽しい。あと、やっぱりどんな大きさであっても、イヤホンではない爆音は心地が良いのだ。

 テクノ、シンセ、エレクトロ、の持つ心地よさとはかなさ。反復。ひたすら反復する心地よさとはかなさ。大勢の人数で(つまり一人きりで聞く以外ってこと)体験すると、何だかいっつもそれを意識してしまう。前にも書いたが、このことは後で考える。

 ニンテンドーDSで出ている「すばらしきこのせかい」というゲームがある。このゲームは賞をとり海外でも発売され、その上サントラが二種類も発売されるような人気ゲームで、俺も大好きだった。飽き性の俺が真エンドを見るまでやりこんだゲームだった(まともにフルコンプしようとしたらは百時間以上かかるゲームだと思います)。でも、数年前に(てかいつも)金がなくて売った。400円位になったのか? たった400円! とにかくこれで別のゲームの資金になる。

 俺はクリアしたゲームをガンガン売る。ゲームは売れば多少の金になるし、それに俺は、どんどん新しい物語を消費しなくっちゃいけないから。売り払わなければいけないから。

 そのくせ売った癖に再度購入したゲームも多々あり、バウンティソードやら幻想水滸伝やらリリーのアトリエやら俺屍やらポップンミュージックやら、他にも多数あって再度購入の「候補」もかなりあり、自分でも馬鹿だと思う。でも、今回、またはじめから「すばらしきこのせかい」をプレイ出来て、本当に良かったと思った。攻略本も二冊買ったし、当然結末も知っているけど、ね。

 舞台は現代の渋谷。主人公の15歳のネクは他人と繋がるのが嫌いで、いつも大きなヘッドフォンをして「ノイズ」を遮断している。その彼が訳も分からず、渋谷の雑踏に倒れている場面からゲームは始まり、そして「ミッションをクリアしなければ存在が消える」というメールが届く。

 現実に良く似た、しかし異なるアンダーグラウンドな渋谷で、死神のゲームに参加する羽目になってしまう。ネク。しかも、「ノイズ」を遮断している彼が、ルール上必ずパートナーと二人で課題をこなしつつ、「ノイズ」と戦う羽目になるのだ。

 俺が高校生の頃は学校になじめず、しょっちゅう学校をさぼって渋谷に行っていた。実家から歩いて行けた。家は金もちではなかったが、両親が見栄っ張りだった。感謝している。今とは違って多少はバイトもしていたので、本やらCDやら服やらを見て回っていた。金はすぐ尽きる。でも、ただ、一人きりでも、町にいられれば良かった。

 だから渋谷が舞台になっていると言う時点で無条件でこのゲームのとりこになった。しかも一部名前を変えた、「ほぼ本物」の渋谷を冒険できるのだ。

しかもDSの二画面を利用し、バトルでは上ではパートナー、下ではネクを操作し、タッチペンでスラッシュやタッチや円を描いたりして、バッジの力で超能力を使うのだ。ハードの特性にあったゲーム内容だ。


 このゲームのすごい所は多数あるのだが、まず一つ目が曲の種類が豊富で、「ノイズ」との戦闘ごとに曲が変わるし、そのジャンルもテクノ、ラップ、ガールズロック、メロコアアンビエント、と多岐にわたっていて、特にバトル曲でボーカルが入っているのは(曲によっては英語で歌われている)かなり本格的に「音楽」に力を入れているのが分かる。だからバトルもしていてあきない。

  また、そのCDも実際にアイテムとして購入できるのだ「タワレコ」「HMV」(みたいなところ)で! メニュー画面でいつでも好きな曲が聴ける。

 俺は高校の頃は薄暗い店内のHMVが好きだった。それに、視聴すると妙にいい曲に感じられて、家に帰って再視聴するとそうでもなかったり。でも、あの薄暗い雰囲気でするヘッドフォンはとても好きだった。

 しかしいつからか店内は明るくなり、俺も金の羽振りがさらに悪くなり、中古ばかり買うようになる、そして、最近HMVはつぶれてしまった。前は通ってもずっと行っていなかったけれど、やはり、さびしかった。F○REVER21が出来るらしい。渋谷に限らず大好きな町は、その分入れ替わりが激しく。悲しいし、楽しい、ハウス、テクノと、ちょこっとだけ似ている。

 野暮なことを言えばそれぞれのジャンルでガチでやっている人と比べるとちょっとアレなのだが(それでもかなり良曲はある)、一つのゲームで多数のジャンルをここまでのクオリティでこなしているのは、本当に稀なゲームだ。素晴らしい。

 あとこのゲームではブランド、という概念があって、洋服を着るとパワーアップするのだ。その洋服を着るには一定の勇気が必要で、食事やレベルアップで勇気が上がるようになっている。最初に仲間になる女の子のキャラは勇気が高い、つまり、女性用の服を最初から着られるようになっている。でも、主人公のネク君(全部で四人のキャラがいる)達だって、レベルが上がればどんな服も着こなすことができるのだ。

 また、それぞれに様々なボーナスが得られる服装があり、主人公のネクならストリート系の服、お洒落な女の子のシキならかわいい、セクシーなアイテム、イケメン金持ち風のヨシュアは高級ブランド、馬鹿元気スケーターのビイトはB-BOY系の服装で、それぞれボーナスが得られる。でも高い服(敵を倒すとサイキックを使えるバッジが貰え、それを換金してお金にする)の方が基本的に能力がいいので、似合う格好にするか、ボーナス重視かで悩むのも楽しい。

 また店員とのやり取りも楽しい。最初は客を馬鹿にしているギャル店員が(口には出さないが心の中が表示される)服や超能力を発動する為のバッジを買いまくるとフレンドリーになるのも面白い。

 それにそのブランドと超能力を発動する為のバッジは十二支をモチーフにしていて、それもセンスがいいなと思った。さすがに本当に洋服のブランド名を使うのはまずいだろうし。

 ネズミをモチーフにしたのならチープな服、牛なら攻撃的なギャル系、馬なら高級感あふれるアイテム、羊は可愛い系、トラならパンクス、とか発想もいい。

 なのに売った。でも、やっぱ、今また再プレイして良かった。

 主人公のネクには一つだけ好きな物があり、それはCATのグラフィティを見ること。好きな「ラクガキ」見ると、意味もなく心が穏やかに、豊かになる。CATは「全力で今を楽しめ」とネクに言う。最初はノイズを遮断していたネクも、「分けのわからない今を楽しむ」ようになっていく。


 これはもう、RPGというか少年漫画の類型的な、何度も繰り返されたパターンの一つだ。ノイズと戦い、受け入れたり受け入れなかったりしながら、仲間と成長していく。

 でも、実際の人生は漫画やゲームのような美男美女でも最高の仲間がいるわけでもない。「全力で今を楽しめ」、なんて、すぐに忘れ去られてしまう

 でも、俺にはそれが必要で、「すばらしきこのせかい」で、俺は感動することが楽しむことが出来た。ここ数日、他にもやることがあったのに、ほぼずっとぶっつづけで、もうプレイ時間は25時間を越えている。

 他にやることは? 「クリアしたゲームの再プレイが今を全力で楽しむ」ことなのか?

 そんなことは誰にだって答えられない。でも、このゲームが、俺に何かをくれたのは紛れもない事実で、何度も、漫画のゲームの映画の小説の「かっこいいセリフ」に憧れ、忘れ、また、触れて、思いだして行くんだ。反復の幸福と悲しみ。俺はもっと、それを身をもって受け入れていくべきかもしれない。

 とにかく、「すばらしきこのせかい」はすばらしいゲームだ。それだけでも、十分だ。