やっぱりサンキュー音楽、或いは神様

 ipodのことをまた考えていた。30GBしかないので、新しい曲を入れようとする時には、何度も消さなければいけない。誇張ではなく、1000曲だか2000曲だかそれ以上だか、曲を入れ替えていた。

 けど、もう限界だ。だって、なんで曲を消さなくっちゃいけないんだ?

 それに何より、アルバム単位で曲を聴く、というより、ポップソングのいいとこどりでituneに入れる、みたいな姿勢を続けているから、ロックやらジャズやらさらに遠ざかっていった。新しいジャンルを開拓するのにもおっくうになる。だって、また、何かを消すことになるのだから。

 超欲しい160GBのは、保険を入れて三万。どこの店でもたいして値段の差はなかった。三万なんて俺には大金だ、けど、たった三万ごときで、思い悩んでいるのが本当に馬鹿すぎると思った。馬鹿だ。本当に馬鹿だ。

 年末か、年明けに買おう、必ず買う。そう決めたら、気持ちが少し楽になった。どんどん、色んなジャンルの音楽を聴けるんだって、そう思えるようになったから。

 youtubeで見たTHE BAKER BROTHERSのCHANCE AND FLYという曲がえらくファンキーなジャズで、スゲーわくわくした。だって、最近ピコピコ、キラキラ、ザーザー、ばっかり聴いていて、ソウルフルな歌声から逃げていたから。しかしレンタルにはなく、さっそくその曲が入ったアルバムを購入しようとアマゾンを見ると、中古でさえ定価と同じ値段で、クリックができなかった。

 何度も金のことばかり書いて、自分でも品がないと思う。でも、実際俺はお金がないくせに、沢山聴きたいんだ、(本気で好きなアーティスト以外)2500円のかっこいいアルバム一枚より、数枚の中古CDやレンタルの方が、どうしても魅力的に映ってしまう。だって、それだけ、多くの音楽を聴けるんだ、触れられるんだ。

 でも、どうしてもその曲が欲しくて、渋谷のレコファンで買った。2000円でした。聴いた。ファンキー! かっこいい! ソウルフル!

 交通費とかはいい、俺、渋谷好きだし。あと、jaga jazzistのアルバムを初めて買った。大学の頃めっちゃ仲良かった、今は音信不通の子が彼らを好きで、俺もかっこいいと思ったアーティスト。欲しいな、と思いながら、ずっと買ってなかった。答えは単純だ、あまり値崩れしないアーティストだったから。それだけ。でも、やっぱ、聴くとかっこいいね。あと、これも数年前からずっと欲しがっているnujabesもいいな。大好きなアマゾン先生で今日も中古定価以上になってたけど! 大好きシネアマゾン!

 金がなくなるのが、怖い。ウソついて金儲けが怖い。でも、音楽のジャンルを自ら狭めるのは、もっと怖いんだって、やっと気付いた。どっちの道もアレな感じでも、やっぱ自分で選ばなくっちゃね!

 渋谷に向かう電車の中で大澤伸亮の『神的批評』を読む。宮沢賢冶や柄谷ら四人の批評をまとめた本だ。中でも、というか、俺にとってはこの本に収録されている四人の中で最もなじみの深い、新潮の評論賞を受賞した「宮沢賢治の暴力」が良かった。とてもよかった。

 宮沢賢治といったら優しい童話作家、或いはあまりにも過剰に供給されているそれを反転したイメージで語られることのある宮沢を暴力と言う視点から語っているのがすごく、俺の感性にあっていた。

 彼の童話はきつい。中でも「よだかの星」はnirvanaのrape me やAll apologies級精神不安定になる話だ。でも賢治は、俺も大好きなカートのように容赦ない。また、カートとは違う意味で(ちょっと似てるけど)、キュートだ。

 また本論では「ビヂテリアン大祭」について

「賢治は菜食主義者につきまとうモラリスティックなイメージを徹底的に相対化している。そこには自らが正しいことを行ってるというモラリスティックなイメージを徹底的に相対化している。そこには自らが正しいことを行っているという自惚れはまったくない。あるのは自己に対する徹底的な懐疑と、にもかかわらず、「泣きながら」でも生きようとする、どうにもならない自己の存在である」

 と語り、また、賢治の詩について、カメラマンでも象徴詩人でもダダイストでもない「修羅の眼」として、その詩が「言葉が新奇なためなじみにくくはあっても、ここには言葉が言葉を呼ぶ自律的運動はない。何も象徴していない。ただ、いったん心に沁み入らせると、そのようにしか対象をみえなくさせる確かな手ごたえがある」
「言語という象徴秩序に支えられた表象の空間に亀裂を走らせている」

 という視点で論じているのは面白く、説得力のある物だと感じた。

 また、キリストの言葉の恐ろしさ「自分を愛するように隣人を愛せ」と賢治との関連、突飛な行動やら宗教への傾倒やらへの言及も興味深く、大変楽しめた。熟読していて、久しぶりに電車を乗り過ごしてしまった。

 また、この著者のあとがきは立ち読みでも是非読んで欲しい。超雑に言うと、「俺はやるぜ!」的な内容なのだが、気持ちが温かくなった。神様がいなくても、求道者もクールな人も真摯な人もいる。それだけでも十分ありがたいことだ。どんどん、消費しなくっちゃ、俺。


 原罪ではなく、生きることに対するやましさ、というものが、俺にはあり、それと格闘している人には強いシンパシーを感じ、また、そういったものと無縁の大多数の人々(しかしそのおかげで社会は回り、俺の大好きな「アマゾン」だって存在でき、そこで販売されている商品だって手にすることが出来るのだ)には、何だか居心地の悪さを感じる。責めたいとかではなく、俺がそういった人から逃げたくなる、いや、何度も逃げてきた。

 気の合う、jaga jazzistを教えてくれた友人からも、nujabesを教えてくれた友人からも。

 でも、もう、それは仕方ない。そういう人間だと身にしみて分かってるんだ。『勝手に逃げろ/人生』(これ、何度か日記で書いてるけど未だに見てない、みたい!)だ!

 でも、160GBのIPODを手に出来るような、そんな人間でなくてはいけないと、強く思う。

 今日もオンラインレンタルで六枚のCDと一枚のDVDが届いた。今月か来月かでクレジットカードの期限が切れる。あーあ。もうオンラインレンタルできないのかな? でも、図書館にある、古臭いロックならまだまだ借りられる。十代後半から二十代前半にはまっていた、ロック、グランジプログレ(って、本当は大してくわしくないんだけどね!)ituneから消してしまった曲も、もう一度入れればいいだけだ。

 賢い人は、別にHDを買って、そこに音楽ファイルやら保存しておくらしい。(これ常識なのか?)一万、二万位でどうにかなるらしいよ。俺、今持っている音楽がなくなったら(略)。だから、できたらHDも買おうと思う。まともに、日雇いもしようと思う。

 沢山音楽が聴けるって、幸せなことだ。ありがたい。幸福なことに日本に住んでいて借金のない俺にはそれが出来る。図書館にも通えるし。

 やっぱサンキュー音楽、或いは神様。