僕は旅行者じゃない

 18の頃に始めて引っ越しをして、それから十年で七回も引っ越しをした。多いような気がするのだけれど、どうだろうか。

 俺は元々、というか多くの人がそうだと思うが、引越しなんてちっとも好きじゃない。かなり無駄な時間もお金もかかる。引っ越しを楽しめる人は十分なお金と余裕がある人だろう。

 俺の隣人の深夜三時以降に起こる、普通ならあり得ない騒音に悩まされ続けて、管理会社や隣人に苦情を入れ続けて早一年以上。本当に、全く話が通じなかった。責任逃れといいわけを聞きながら、自分が醜くなるのを意識するのは、とてもださいことだった。

 さっさと引っ越さない俺が馬鹿だと思った。でも、金がないと引っ越せない、でも更新期限が八月で、厭がおうにも引っ越しをせねばならなくて、しかし先立つ物も定職もなくて、死んだ魚の目で、どうにか不動産屋を巡ることにした。

 住みたい家に住めるわけなんて無くて、つまりまた引っ越しをしてしまうことになるかもしれないが、期日は迫っている訳で、とにかくひとつの物件に申し込みをした。審査があるということで、落ちるにしても受かるにしても早く結果を出して欲しい物だ。

 その先だって、何の保証もないのだから、

 http://www.youtube.com/watch?v=o3wDXH70pQ0

 illのedenが頭の中で響く。少し、前向きになれるような。



http://www.youtube.com/watch?v=SLWqw7946i4&list=PL37DA44E273AC07A0

 というか、本当に俺はこういう音楽が好きなんだなと思う。シュゲイザー、ニューウェイヴ、ロマンチックテクノ、ロック。

 ひたすら、適当な嘘ばかり並べていて、もう、どうにかなってしまうようなどうにでもなっていいような気がして、でもそんな俺でも音楽が繋ぎ止めてくれる。冷房の利いたゲームセンターのトイレに腰をおろして、うなだれて、インスタント・リプレイ。

 最近馬鹿みたいに、夜に物が食べたくなって困る。折角節約をしているつもりなのに、何だか急に馬鹿みたいに食べたくなってしまう。何かを口にしている瞬間に、また別の物を口にすることを考えてしまう。


 厭な、気分の焦燥高揚。もう少しでこの街ともお別れ、と思うと外に出たくなってくる。外に出ても店に入っても何かあるわけでもないけれど、でも、歩きながら大きな声でipodと歌を口ずさむのは、とても気分がいいものだと、たまゆら、そう思う。

 ペルソナ2の台詞で「どちらも厭な選択肢しかないことがしばしばあって、でも、それを自分で選ばなくっちゃいけないんだ」というような台詞があった。本当にそうだなと思う。俺は選んでいるだろうか? 安物の熱狂と惰性でごまかしてはいないだろうか?

 とにかく、なんにせよ。さっさと色々とおわらせなきゃ。でも、俺もそれなりにラリって来て、道で音楽に合わせてダンスをして、クラクションが鳴って、車に轢かれかけた。一瞬だけ轢いてくれればいいのにと思ったが、向こうにしてみたらいい迷惑だ。

 この年になっても、暴力について知らないなんて、いや、この年になっても、きっと、暴力なんて皆知らない。暴力、そして音楽が今の俺の、数時間の友人、のような気がしていて。