You may even say I'm a fool

三十になった、とはいっても、当たり前なのだが、何も変わったことなんてない。

 まあでも、好きな洋服でもひとつくらい買おうかな、と思っていたら、気がついたら三着買っていた。よくあること。そうか? 刺繍入りのシャツに銀とグレーのストライプのシャツ、炎に燃えるマリアのTシャツ。全部、カードで。クレジットカードって、キリストみたいに慈悲に満ち満ちている(は?)。趣味も学生の頃から全く変わっていない。アシンメトリー、スタッズ、ラメ、ダメージ加工。それかシンプルでシルエットが綺麗なの。

 実用的でなければないほど、洋服は素晴らしいと思う。問題は(特にファッションに興味なさそうな人とあうときに)着にくいということ。だって俺、派手な服は目立ちたくてきるわけじゃない、むしろ目立ちたくなんてないのだが、目を奪われるのはいつも、モードの中のゲームの中の突っ込まずにはいられないような洋服。

 そして、そういうのを着るのは体力が、ガッツが必要だ。試着するのだって、こっちのコンディション(と財布)が良くなければコーディネートを考えるとか以前に服に負けてしまう。洋服の、デザイナーの挑発に負けないように。平気なふりをして、鏡の前に立って、そうしたら、ほら、平気な気がしてくる。インスタント・トリップ。

 洋服を好きになる時にはきっと、生きたマネキンになっている自分自身も好きになっているはず。新しい服を買ったら、金はなくてもどこかに行きたくなる。美しいものを目にすると考えると心が豊かになる、として。それはきっと口づけるのも身に付けるのも同じで。そして、後者は少し、虚しくなる。くちづけも意匠(衣装)も、虚しくて幸福で最高だ。それが楽しめているならば、きっと悪い人生ではないのだろう。

 六本木アートナイト2014に行く。主にヒルズとミッドタウンで参加型のアートのイベントが行われているのだが、少し前に行ってなんだか「作品」としては微妙だからなーと思っていて直前まで迷っていたが、向かった。

 親御さんと一緒なのか、ちびっこややけに若い子やらが多い、いつもとは少し違う六本木の夜。健全すぎる夜。ヒルズのブルジョアの「蜘蛛」の下に蝟集する人々が、子蜘蛛のようで面白いなと思う。昼間のあの彫刻作品はそこまですきでもないのだけれど、夜の、暗いシルエットと、若い友人やら恋人たちやらとは似合いなように思える。場所柄夜になってもとても明るく、また、光を使った展示は浮足立った空気とともに合っているように思えた。


 肝心、のはずの展示は、正直キャプションによってどうにか自立している類の、つまりよくある(投機としての)及第点を満たしているらしき、面白みのないしかし優等生達で、でも、多くの人がそれを楽しんでいる様子は結構好きだ。盛り上がっている様子の人混みって、とても好きだ。

 イベント会場のアリーナを見下ろしながら、椅子に座って、テーブルに小型のスピーカーをipodにつなぎ音楽を流す。周りにじゃまにならないはずの貧弱な音量と最低の音質のハウス、テクノミュージックを流しながらシャボン玉を吹く。外国人がおおげさに「ワオーバボー」と口にする。

 アホらしくって、楽しくって虚しくってわくわくする、つまり繁華街の夜にはスパンクハッピーの曲がとてもよく合っていた。大好きな『フォーエヴァー・モーツァルト
もちろん、元ネタはゴダールの映画。大好きな映画。繰り返される「ウィ」と「ノン」

http://www.youtube.com/watch?v=A2LvEmJ8KXc

For Ever Mozart - Trailer




(って、ねっとになかったので別の素敵な彼らの曲を)


http://www.youtube.com/watch?v=SSo1S2eTXkA



 この歌詞も素敵だけれど、「モーツァルト」の歌詞もとても好きだ

 


 なんでなんで嘘をつくと眠れるの 私はあなたが好き あなたが一番すきなの



 なんでなんで 恋をするの なんでなんであなたが好きなの
 教えて欲しいの 教えたがらないで 何もわかりたくないみたい



 でも、これが一番はまるのはきっと、歌の中のシネマの中の人だから。

 でも、歌の中の人生を生きるのも、生きた気がしてしまうのも、悪いことではない。素敵なことだと思う。数分間の、戸惑いと倦怠と幸福。夜の繁華街に浮かぶ蛍光灯の群れ、都会の星々。


 でも、夜だけで生きるなんて無理だし、夢はきっと、覚めるから愛おしくもあるだろう。朝のことを、楽しい夜の戸惑いもいいけれど、何が起こるかわからない、つまらなくてわくわくしてしまう、かのような朝のことを何度だって。

 MOTHERサウンドトラック-Pollyanna(I Believe In You)

http://www.youtube.com/watch?v=8NRneK3TVeE

You may even say I'm a fool
Feelin' the way that I do
You can call me Pollyanna
Say I'm crazy as a loon
I believe in silver linings
And that's why I believe in you


 新しい服を着たなら、少しだけ、新しいことがしたくなる。これからの自分の人生を楽しくするのは自分以外の何者でもない。好みの服で、好みの歌で危なっかしい足取りで歩いていけますように。そんな自分の姿を夢想しながら。