映画見たよ

 生活サイクルが改善しているわけではないが、映画の感想。

 こちらは初めて見る、キェシロフスキの『傷跡』

20年ぶりに故郷に戻り、反対を押し切って化学工場を建設する中年の工場長。
破壊される森林や家々…。
1970年代のポーランドの政治的状況を背景に、故郷の復興のため工場の建設に取り組んでいた男が、住民と事業との狭間で苦悩する様を描く。

 という説明で大体事足りるような、一部ドキュメンタリーのような構成をとっている作品。おそらく、これを見ようとする人の予想の範囲を越えるような出来事は起こらないけれど、それでも、この作品の寒々とした風景、荒々しい画素数の低い映像。やるせなさ、と、それだけではない、主人公の意志と言うのが痛ましくも胸に来る。ラストシーンも、切なくて好きだ。

 もう一本、キェシロフスキの『偶然』こちらは一度見た。

今にも出ようとする列車に乗ろうとする青年が、列車に乗れた場合、警備員に阻止された場合、そして列車に乗れなかった場合…。彼の運命はどう変わり、どのような人生を送るのか。

 というもので、それぞれ、党員、反体制派、どちらにも属さない(本来の彼のなるべき職業であった医師になる)というもので、それぞれの痛ましいドラマがあり、結ばれる女性も、後に敵対してしまう元恋人、人妻、普通の出会い、とそれぞれ違っていて、視聴者を飽きさせない。

 それにしても、どの道を進んでも、挫折や憤懣や怠惰や思わぬ悲劇が待っているのだ。だから、同じような展開を見せられても、退屈しない。

 それにしても、ヨーロッパ映画でたまにテーマになる、党、ストライキ、告発、移民というものは、日本人の俺にとっては、分かる気がする、だけで、実際の所、実感として分からない問題なのかもしれない。

 分かるのは、きっと、どうにもならない気持ちや疎外感といったものくらいなのだろうか? 

 日本人は「度を越えて、集団で」怒らない、人が多い。俺に関していえば、面倒だから、というよりも、信用していないからだ。様々なことを。

 それでも、自分の権利を、食い扶持を獲得しなければ生きていけないわけで、つくづく生きるのに向いていないなと思う。

 あと久しぶりに ビクトル・エリセミツバチのささやき

 を見る。とても有名だし、見てない人には見て欲しいので、大筋等ははぶくが、本当に作品として素晴らしい。無駄がない、という以上に、主人公の少女の魅力的な、「本当に子ども」らしい感じ。それと対比的な、

スペイン内戦終結直後(1940年代)のスペインの農村部の精神状況

 をうまくとらえた、しかしそれをあまり前面には出さない演出と、ラストに向けての展開が切なくも、花影のような感を与える。

 どんなことがあっても、でも、主人公の少女は、負けたりはしない。それは、あることの重みを理解していないから、子供だから、かもしれないが、でも、それは少しだけ痛ましくも、美しいものだと、俺は思う。

 自分の中にあるもの、自分が受け取れるものは、もう対してないような「気がして」、でも、豊かなものにふれるとまだまだだという「気がする」。めまい、眠気、錯覚ばかり。

 そんなこんなで多くの物を失ってしまった。それでもパソコンがあれば小説が書けてしまうのは、きっと、幸福なのかもしれないし、痛ましいことだ。