わるいともだち

夜以外は嫌いだ。普通の人らが働いている時間だから。一応面接を受けたり仕事を探しているが、元より勤労意欲も生きる意欲もないのだから、空疎と諦念の間を行き来する。金の心配を毎日しながら寝てばかりの生活。

 錠剤を水、時々アルコールで流し込み、スマホでギャンブル。大抵負けるし、買っても止められない。常に残高をスマホでチェックする。愚か者の確認行動もギャンブルも止められない。

 もう駄目だよ流石に立ち直らなくっちゃ、ってさ、こんな生活を続けていたのを終いにしようとしても、すぐには断ち切れない。借りた金をスマートフォンで気軽に賭けて、溶かすのは屑の快楽。お金が欲しいんじゃない、死ぬ理由が欲しいんだ、

 なんつって、たまに日雇い仕事にもでるし、売れそうなものを売り払い、とりあえず今月の支払いを工面する。たまには死にたいって思うしたまには生きたいなって思うよ。

 その日は現場が原宿でお洒落な人が沢山いた。普段は見ないようにしていたけどさ、やっぱり着飾って金かけてる人、洋服が大好きだって分かる人らを見ると少し幸福な気持ちになる。俺も昔は服が大好きだった。今ももしかして。

 少しだけ、借りた本や溜まってた本を片付けることができるようになっていた。本を読むのってエネルギーがいるし、何より余裕がないと無理だ。俺はずっと、十数年も一人で読んだ本の感想を長々と書いていたが(特に二十代の頃)ある時、そういうのをする気が無くなった。他人の作品に費やす時間も大切で楽しくって豊かな物だが、自分のを書かなきゃって。他人の書評批評感想を沢山書き続けて、自作の小説を書くと言うのは難しいことだ。気軽なのだったらできるかもしれないけどさ、どっりもやるのはね。無償でね。十数年独り言を続けていると、ふと、終わりにしたくもなる。

 新しい小説を書こうと思っていたが、今の状況ではとても無理そうだ。薬の量も増えたし、頭がうまく働かないし、何より金を稼がねばならない。お金。死ねばいいのに。お金を殺して燃やして、金銭を虐殺して生きる仕事、ネットで募集していないのかな。

 数年ぶりに、かなり昔に登録した日雇いで日銭稼ぎ。知っているメンツがいて、あー懐かしいなって、そんなに親しくはないけれど皆がんばってんだなーって少し卑屈になっちゃって、でも明るく振舞っていると、一人の友人だった男と再会した。多分、3,4年ぶりくらいだった。

 彼は、長身の俺と同じ位の背の高さでおまけにガタイが良く喧嘩も強く、物凄くお調子者で、お茶目で雑でポジティブで、人の痛みが分からない男だった。

 多くの人は馬鹿だなあと思うだろうが、昔は悪かったんだよねーとか自慢をする男と言うのは俺のいるような環境にはそれなりにいて、俺も馬鹿だなー

 やってもいいけど(よくねえよ)言わなきゃいいのになーって思ってしまうのだが、その中の一部の人には親近感のようなワルガキに対する好意のような物を抱いてしまうこともある。

 日雇いで出会ったその彼は、ガチの人で、あまり多くを言うのは良くないので控える。しかしそいつは「虎彦(仮名)パイセンむしろどんどん書いちゃって下さいよ」とか言ってしまうような奴だ。前向きなドエム、いや、恥という概念が彼には欠けていた。不利なのは嫌だけど、勝つのも恥部を見せるのも大好き、自分大好きの男。

 もめごと大好き。お金女大好き。良心の呵責や常識が全くない。でも、世渡り上手で、結構友達思い(のように見える)。

 仕事で知り合った人と、遊びに行くことなんてほぼないのだが、彼とは何度かご飯を食べたり服を買いに行ったりした。俺は本が大好きで彼に「読みやすい本」をあげたが、多分一冊も読んでないだろう。

 本なんて読んでいるときちがいになる。たぶんきっと。

 金と性欲と快楽の為に頑張って仕事をしたりしなかったり。それが生活の知恵というか、人生を生きる上で必要な一面なのかもしれない。 

 でも俺は働きたくないし、働くときちがいポイントが俺の身体にたまってくるし。一人でずっと本を読んでいてもきちがいポイントはたまるし。

 逃れられない気が狂う恐怖。

 こんな極端な思考をしている勤労意欲のない人間だからか、大抵の友人とは関係が続かない。ちょっとしたことで、俺がぶちぎれるか、相手が俺のヤバさに引いておわる。

 俺はただ、神様の赦しについてとかユニコーン麒麟や天使性や宝石や悪人やデーモン、本物のぞっとするような憎みや恐怖や豊かさや芸術について語りたいだけなのに。紅茶を飲んで音楽を聞いて、誰かの瞳の中のデーモンについて語りたいだけなのに。

 彼とは小さないざこざがあって、俺がスマホの機種編で全部データを消したから、それ以来だった。俺の中では、彼は昔仲良かった人になっていた。

 でも出会った彼は、持ち前の空気の読めなさとスーパーポジティブさでぐいぐい俺に話しかけてきて、俺も適当に話を合わせていて、彼は会話をしていてすぐに実は、と新しい犯罪の告白をしてきた。結構な大事というか、俺なら一生誰にも話さないようなことだが、彼にとってはそれも話のタネなのだ。恥知らず。痛み知らず。

 俺は自らの恥と痛みを意識しすぎる人生だよ。

 マジばかだなーどうしようもねえなあって思いながら、でも、久しぶりに話していると数年前の時とお互い何も変わってなくって、わだかまりもなくって、悪ふざけばかりしながら仕事をしていた

 俺は何曲か歌を歌いながら仕事をしていて、彼がヤバイ自分の近況を話し出したから、俺はもののけ姫のサビを歌って、彼は爆笑していた。仕事中に歌を歌うっていう時点でかなりきているが、彼が楽しそうだからそれでよかった(よくねえよ)

 夜遅くに仕事が終わって久しぶりに会った人らとコンビニで酒を買って地べたで飲んだ。あーこの感じ懐かしいなって思った。久しぶりに会う人、もう二度と会わないかもしれない人。好きでも嫌いでもない人、お世話になった人、過去にぶちぎれた人。色々いて、俺は割と気分屋で愛情深くて狡い人間なので(自分でこういうことを書ける卑しさ)、色んな人と楽しく話していた。

 楽しかったっすよねーそういうとこ好きっすいやーまじ会えて良かった、みたいに幾らでも素直に言葉が出てきていて、俺は嘘をついていないが、屑だと思う。

 でも、その場で誰かが喜んでいたなら、その時だけでも嘘をついていないなら、それでいいんだって思っている。

 彼は色々悪いことやとても下品なことやずるいことをしながらも楽しそうに生活をしていた。良心や自罰がないからか、彼はいつでも楽しそうだ。ノリが良いバカという点を除けば、俺とは真逆かもしれない。   

 あ、違った。一つ大きな共通点があった。彼も俺もヒリヒリしてないと生きていてつまんねえなって思う所。俺は、まあ、色々体験もあるけれど、作品に触れて作品の中でそれを作り出そうとする。デーモンにもし会えるとしても、作品の中でね。

彼は自らトラブルに飛び込んで、痛い目を見たりしながらも、悪いことや楽しいことを自分の身体で受け止めようとしている。

 色々話してかなり盛り上がって、でも終電があるから解散。俺以外はほとんどみんな仕事があるし。日雇いだって仕事は探せばあるけれど、そんな働くなんてきちがいみたいだろ。俺はしたくないし

 別れ際、彼に「俺は色んな夢を持っているひとの真剣さとかきらきらした言葉や表情が好きでさ、それとさ、罪を語る人間のギラギラした愚かな輝きがヒリヒリして好きなんだ」というようなことを伝えた。

 彼は本を全く読まないからこういう例えとか通じるのかなって思ったけれど(彼に限らず本を読まない人は長話やたとえ話をとても嫌う、あ、俺の話がくどくって駄目なだけか)、彼はニヤニヤして「やっぱ虎彦(仮名)パイセンといると最高っすわ!」って返してきて、俺も猫の笑みを返す。

 彼とラインを交換した。俺はギャンブルで数十万負けてるから奢れよって言っていて、今度彼に奢ってもらう予定だ。

君も俺に奢って。それか、直接会ってニヤニヤしながらヘドロの輝きで自慢をしてくれよ。