俺と身長体重ほぼ一緒だったん

渚ようこのCDジャケがやけに艶かしく、黒く、古臭く、好みで、これは信藤ちゃんの写真かな、とクレジットを見ると森山大道で驚いた、けど、写真家だから色んな人の写真をとってあたりまえですね。大道の写真は好き、だけど、ヒスとコラボしたのは、あんまり好きじゃなかった。ヒスの服一枚しか持ってないけど、白地にピンクとオレンジでやたらめったらLOVEって書いてる厚手のシャツで、って、活字にするとかなり派手な服だな、派手だよ。

 南Q太の新刊を読んで、買う気にはなれず、というか、ここ二年位のは持っていないかもしれない。若者のゆるい、泥沼の、恋愛よりも『地下鉄の風に吹かれて』の三十代離婚私小説風漫画の方がギリギリできつくて面白かった。

 枡野浩一の名前はずっと前から知っていた。以前俺は南Q太のファンで、つまらない、と知りつつも、昔の作品まで買い漁り、一時期は全ての本を揃えていたのだ。枡野は歌人にしてQ太の二番目の夫だ。彼の著作を読んだことのある友人は、「離婚した後で、約束したのに、ひどい、子供に会いたいって毎回言っている人だよ」と言った。面白そう、と思いながら、実際その本を手に取るまでには四年も掛かった。

 『あるきかたがただしくない』というこの本を読みながら、これを教えてくれた友人のことを思い出した。森美術館で偶然会った、名前を忘れた、枡野を教えてくれた友人、恐ろしいことに、俺は交友範囲が狭いにもかかわらず、人の名前を忘れまくる。後輩に挨拶されても気づかないことが多数あったらしく、後でシカトしないで下さいよ、とかそういったことを何度も言われた。シカトはしていないんだけれど、考え事はしていたんだ、ゲームとか、ゲームとか、お菓子とか。彼女は就職したよ、と元気そうに言った、鈴木さんか、佐藤さん、お元気でしょうか?
 
 枡野浩一の本には、本当に子供に会いたい、ということばかり書いていた。エッセイの二回に一回はそれが話題にあがる、すごい。彼は嘘が嫌いだと言っていたが、正直なのも、良くないかもとそこそこ嘘つきな俺は思う、けど、面白い、いい、のか?。離婚に関してどちらが悪い、なんて他人が考えるのは滑稽だが、自分をモデルにしたエッセイ漫画も描くQ太の方に(この様子は『地下鉄』に詳しい)、ファンとしては肩入れしてしまっているのだった。勿論この漫画がフィクションだとは思っていないけど、枡野の本を読むと、Q太ちょっと勝手じゃないか、とか、思ってしまう、今までQ太の夫としてしかみていなかったくせにね俺。

 俺の好きな、南Q太の自伝的漫画『こどものあそび』では、胃潰瘍で入院した主人公が、医者の許可が下りていないのに勝手に退院するシーンがある。そこで主人公は見舞いに来た男に(身体、入院費)心配され、今度、払いに来るよ、との台詞のやりとりがあるのだが、なんと、枡野のエッセイによると、Q太はその入院代を踏み倒したらしいのだ。そして後に入院することになった枡野に彼女は(当時は夫婦)言う、

「どうして医者に言われた通りに大人しく入院なんかしているの?」

 巻末の長嶋有との対談で、長嶋はエッセイにも収録されているこの台詞が好き、と言っていて、枡野もそれに同意している(俺も好き)。その後で「でもどうして医者に言われた通りに大人しく入院なんかしているの?なんていう人は、子供と元夫を、月に一回会わせないよね」
「そうなんだよー。本当にそう思う」
 と続いており、面白かった。枡野の短歌は、正直ちっともいいとは思えなかったけれど。エッセイもねちっこかったけど。でも、また読みたいと思った。俺にとって彼は良く分からない人だった