劣悪なんちゃってなんちゃって

諍いは絶えず、会話を重ねれば、お互いに通じ合えないことだけが浮き彫りになる。なんでこの人とあんなにも仲が良かったのか、もう見当が付かない。体調も最悪で、口にしなかったり暴食したりを繰り返していると、急に胃腸の調子がおかしくなり、三日間は歩くだけでも辛かった(最初は盲腸かと思った。なったことないけど)。幸いにも連休前だったので家にいられて助かったが。

 身体も精神もとても劣悪な状況だった、にもかかわらず、小説が(自分としては)驚くほど書けた。毎日ワードを起動して数時間パソコンの前に張り付いていられた。

 その間にはまともに小説を読む気がしないので、エッセイやら時評書評の類を主に読んでいたのだが、以前も少しは目を通していた中島義道の(専門の哲学系のではない)本を続けて読んで、思わず何度も笑ってしまった。この人ちょっとアレだね、ってのと、一部の、同病哀れむとがないまぜになって。

 しかも、この人の自己愛と(自分にも向けられる)憎しみのダダ漏れ文章を読みながら、初めて聞いた布施明の全曲集、どの曲もソウルフルで、しかも歌詞に「愛は、愛は、不死鳥」って!中島のエッセイの中身はいかに愛というものが自己欺瞞で!、とか、この善良な畜群がマイノリティーを苦しめるのか!とかそんな内容で、ギャップでかなり楽しませてもらった。

 その時期にウシジマ君も初めて読んだ。最近無職とかニートとか関連の、肯定的なゆるエッセイ漫画とかが溢れていて、それはそれで結構なことだとは思うが、少し「食べすぎ」だったので、中島のエッセイと共にスパイシーで楽しめた。やっぱりグロイのがないとね(福光センセの新作はぬる過ぎて、どうも。『欝』とか『駄目』でもてはやされた人が、それを多少克服したら魅力がなくなった、みたいな感じで残念です)。

 俺は中学校の教科書にナニワ金融道を載せるべきだ、と思うのだが、今のところ知人の賛同は得られていない。というか、無理なのは分かっている。

 しかし初めてあの漫画を見た時の嫌悪は忘れがたい。見たくないものだし、家に置きたくないものだと思った(家が広くて大きすぎる本棚があるならいいが、俺にそれはありえない)。きれいな物が一切排除された、漫画を描く上で必要なコマ割りやら人物描写やら単純な画力やらセンスやらが存在しない、恐ろしい世界。しかし、その汚くて嫌な感じが、連帯保証人とかを扱う漫画にはものすごく相性が良かったのだ。本当に借金を抱えたら、あの漫画を読むよりもはるかに強い恐怖やら焦燥やら嫌悪に襲われることだろう。だから若いうちから教えなければならない。他人は信用するな。信用するならば裏切られてもいいと思う人だけにしろ。

 今の学校ではフリーターになるなと教わるそうだが(あ、大学でそういう話してたか!)
借金をしたらどうなるかをきちんと教えてはいないと思う。小さい頃から汚い物に慣れさせておくといいですよ、奥様!

 ウシジマ君はナニワ金融道よりも漫画として様々な点で優れている、からこそ少し物足りなくもあり、十巻を過ぎると多少マンネリしてきたような(これはしょうがないか)気がする。えげつないのを描ける人には、もっとえげつないものを、と求める。素敵な画を描く人に別の素敵な物を期待するように。

 中島義道の四十冊近い(以上?)の著作は、その多くを「私の個人的怒り」エッセイが占める。そしてその内容は同じようなものなのだ(自身でそれに何行かさいて触れている。さすが神経質で自己愛過剰な哲学者!)。そのおかげで俺は長々と彼の怒りに触れていられた。俺自身も以前住んでいた部屋で壁を殴り「うるせえ!ブチ殺すぞ!」とかやっていた(こう書くと頭可哀相な人だな。えへへ)ので、彼の意見は賛同できたりもするのだ。とにかく世界には傷つきたくない、自己保身ばかりの人が多い。というか、俺が喧嘩をするのは大体このことだ。しかし幾ら俺でも、相手に「苦しめ」と言うことは、ためらう。なるべく親しい人だけにしようと、他人にはなるべく何も要求しないようにしようと思い生きている。

 でも、小説ならばいいだろ?自分で読んで「まずく」なっていなければ、御の字だ。人間の幸福と不幸は楽しいことだろ?人間的だろ?この前、ふと「あーしにてー」と思った。別に俺に自殺願望はない。ただ、死ぬ時はこんな風に軽く、ふっと、消えたい。それと同時期に「ドラクエの新作予約してー」とも思った。別に俺はドラクエのファンではない。ただDSならば寝転がって出来る(し、さっさと売ればそこそこの値段で売却できることは確実)からいいなと思った。

 「死にたい」でも「布団の中でゲーム」でも、漠たる目標があるのは幸福だ。そして俺の幸福の伴侶はグロテスクなのか、とも思ったのだが、最近はグロテスク過剰で、少しは余裕ができたような気もする。頑張って家庭用ゲームもしようと思います(視力が下がりテレビとにらめっこするのが辛い、老人か!)。