たった今業魔殿で天に召されました

 『伝説の万馬券』があたった。換金すれば四十万になるらしい。四十万。『伝説の万馬券』の割にはせこい金額ではないか?でも、たった三回目で当たったのだ。これでゲームの世界では当分お金に困らないだろう。「魔晶変化」してくれた「愚鈍」の「仲魔」に感謝。

 今日契約更新を終えた。当分引越しはおあずけだ。腹立たしいことだが、過ぎてみればなんてことはなかった。数千、数万に心を奪われている自分が浅ましいのだ。

 新しい職を探しているのだが、それと同じ位、働かなくてもいいのではないか?という思いも湧きあがってきている。ささやかな貯金を食いつぶせば、数ヶ月は働かずに済むのだ。

 冗談めかし、親に「人に使われるのは嫌です。お店をやりたいです」、と言うと、二年後に退職金が出るから貸してあげる、という予想外の答えが返って来た。うちは貧乏でも金持ちでもない。退職後も父は働くらしいのだが、いい年した親にたかるのも心苦しい、とはいえ、開店資金を俺の力でどうにかするのは絶望的だ。まあ、借りてもかえせばいいよね、と気楽に考え、妄想をする。

 お店を開く初期費用は、大雑把に言って、低く見積もっても300万から500万らしいのだが、その多くが保証金(一年分の家賃も)や内装費等に占められているので、場合によっては、かなり安く済む確率もある、らしい、のだ(希望的観測)。特に数百万かかる内装費なんて、自分でやればどうにかなるだろうし。アクション・ペインティング風、ジャクソン・ポロック風アルタ・ポーヴェラ風、とか、そういうことにして。
 
 どうもカフェよりもバーの方が金が掛からずにすむらしい。初期調理器具とかの関係と、単純にアルコールの方が単価が高く儲けられるから。とにかく店が出来たらなんでもいい!と思って(妄想して)ふらふらくらくらいる俺にとって、高円寺に『古本バー』があると知ってこれだ!と思った。やばい、バー=酒=大人=親に恩返し系。これはガチでヤバイ。ちなみに俺の好きなお酒はしんるちゅーとカルアミルクとラムコーク。お酒?てかさ、俺ビール一杯で顔真っ赤になるの、アルコール飲めないわけじゃないけど、顔赤くなるから嫌いなの、てかさ、甘いもんのほーがよくね?だって甘いじゃん。

 最初の選択の時点で躓いているとしか思えない。

 そういった先延ばしの予定の、楽しい妄想の時間の他に、いっそ数ヶ月ひきこもろうか、とも思っている。元々自由な読書と執筆の時間が欲しかったのだ。今までは自分のような無気力系人間にとって、ひきこもりは緩慢な自殺に直結しているような気がして、とにかく金を稼ぐことは続けていた。しかし、お店のことを考えると、少し気が楽になるのだ。将来、自分の力で生活できる「かも」しれないこと。自分の店で美しいノイズを垂れ流しにすること、を考えると、生きていくのも悪くないかもしれない、と、数年ぶりに(これでも)ポジティブな気分になるのだ。

 とにかく先のことは分からない、けれど、いつかは自殺以外の手段でノイズまみれになるかもしれない、わくわく。