プリンターのインクはなんであんなに高いんだよ

 調子が悪いのはいつものこと、けれど、

 朝起きて立ち上がろうとすると腰の辺りに違和感を覚えた。今までに味わったことのない痛みが腰にはしった。激痛ではない。しかし一歩踏み出す度に、違和感。歳の近い友人がぎっくり腰になったことを思い出す。腰に悪いことはしていない、と思いつつ布団の上に腰を下ろす。病欠になることを考えた。起きて、ゆっくりと腰を動かす。駄目ではないと思った。変な気分だ。もっと悪くなればいいような、そんな気がしながらその日のアルバイトを多少の違和感だけで乗り切った。翌日には違和感は大分引いていた。ほっとしたけれど、急に身体の変調は訪れるのだ、都も思った。

 立ちっぱなしで(俺は背が高いので)机の上で細かい作業も行う今の職場は、かなりあっていないだろうが、すぐに辞めるわけにはいかない、けれど、辞める理由を毎日のように、空いた時間に夢想する。

 取ろうとしている資格だって、それを本当に欲しいか、と自問自答すれば、それほどでもないことは、最初から分かっている。けれどもそれとは逆の選択をしても同様だと、自分の我儘は知っている。

 課題とアルバイトばかりの日々は、怠け者の俺には奇妙な気分で、そつなくこなしていながらも、日々吐き気の誘惑夢想。

 でも、それらも何度もこなしていたから、気分転換の為にロックマンの1〜6の三枚組みのCDを買うことにした。四年近く前からずっと欲しい欲しいと思いながら中古でもそれなりの値段だったから買い惜しんでいたCD。小学生の頃、友達の家で何度もプレイした(そして何人ものロックマンが志半ばで光の粒になった)ロックマン。貧相なファミコンの音源の、耳に刺さる電子音は俺のかなり好みのものだった。だから、手に入らずとも、手に入らないままでいいと思っていた。俺にとっては高額なことを理由に。

 それでも、全く金がないわけではない。欲しい物はありすぎるけれど、自分の欲望に向き合うのが、希薄な欲求に向き合うのが怖かっただけなのだ。

 カプコンのホームページから簡単に購入手続きをすませた。数日後に家に届いたCDは、想像通りのものだった。再生を繰り返しながら、容量一杯のIpodから何の曲を消そう、と考える。最近は頻繁に曲を入れ替えている。俺の30GBのでは、もうそうするしかないのだ。

 そして、そんなことを考えている時に、突然PCが動かなくなった。単にいつもの通りお気に入りの中のサイトを巡回しているだけだった。何を押しても反応がない。強制終了も電源もきかない。電源のコードを引き抜き、やっとパソコンのモニターは光を消した。そして電源を入れると、読み込み音はする、けれど画面はすぐに黒くなってしまう。何度も何度も黒い画面を繰り返した。

 2回ほど修理に出したパソコンは、もう5年も使っている。そろそろかな、と思いながら過信していた。

 自分のことも、まだ、大丈夫だと思いつつ、実際その通りで、過ごしていた。自分の責任で少しずつ蝕まれていても、そういうものだと思っていた。なんだか、自分のパソコンに感謝したい気分になった。自分の身体に感謝したい気分になった。「いや、ありがとう。」

 今月末に提出する十近くのレポートを今から書き直すことは可能だろうか。週一のライブ授業はソフトをインストールしなければいけないからネットカフェでも大丈夫だろうか。ハードディスクの中の、書きかけの小説は、別に、そこまで惜しくなかった、小説を書かねばと思いながら小説のことを考えたくなかった。少し、放心状態に、清々した、気分になった。

 ふと、そういえばパソコンのトラブル対処のページをコピーしていたことを思い出した。セーフモードで起動して、復元して、直った。あまり実感はない。けれど、動いている。またこんなことは起こるだろうけれど、とりあえず、今は、平気だろう。バックアップをとった。変な気分だ、消えればいい、と思いながらとった。

 数日後に、頑張っている友人や頑張っていない友人に会った。頑張らないのもいいけれど、もう少しやろうかな、と思った。


 もう少しもう少しの日々。新しい「ロックマン」が俺には必要だ。きっと少しのお金や選択で手に入るもの。電子音の海の中に浸れるように、もう少し。