そうそういつものことですから

教えてもらった多田美智子という名前を図書館の検索ワードに入力してみると25件ヒットしたのだが、その多くが訳者として該当しただけだった、のだが気になる題名を見つけて借りたのは初めて目にしたマルセル・シュウォッブ『少年十字軍』、を読みながら考えていたのは古屋兎丸の『インノサン少年十字軍』の下巻が早く出ないかなあということで、この人は器用すぎて色々手を出せるのはすごいとおもうのだけれど、無理して青年誌向けの絵を描かずに『ライチ☆光クラブ』のようなデッサン力が問われる写実的に近いタッチで描いているのが一番しっくりくるというか、なまじ画が描ける人がマンガの画を描くと無理やりキャラをデフォルメしているような感じになってしまい痛々しく、以前教授が「芸大に入るため浪人して死ぬほど石膏デッサンを続けていて受かったそのあとで、どうしても上手く書く癖がついてしまって、それを取り払うのに長い時間が掛った」のだと述懐していたことを想起するのだけれど、そもそもその教授は彫刻が専門だったから立体をする人にもデッサン、エスキースの段階でそんな悩みがあるのかと感慨深くしかし、俺はその教授の作品があまり好きではなく、その理由の一つに作品の背面があまりにも美しくないことで立体作品はあらゆる角度から見て美しいものであり展覧会のパンフレットや作品を写真としてアップする際よりも実際の作品の方が凌駕していなければならないのだ、などと考えている俺は美大生ではない、し、えーと何の話だった?いや、覚えているけど。

 多田智満子の著作で初めて目にしたのが同時に借りた『花の神話学』という本で、澁澤龍彦の『フローラ逍遥』が「(現実にはいない)知的な隣のお兄さんのおしゃべり」だとするとこの本は「ひんやりとした大学の講堂で聴く教授の脱線話」という趣がありとても面白く中でも著者自身も気に入っているという『蓮喰い人』の話は俺も好きになった。本文中には「現実を思い煩うことのない浮世離れの人々の代名詞」とあるのだが、俺も蓮(しかし『オデュッセイヤ』内の蓮は現代の日本人がイメージする蓮とは違うらしいのだが)を喰って暮らしたいものだが実際に旨い、腹を満たす花というものは世界中に存在しないだろうし絵空事だからこそ美しい、とも言えるのだがこの『蓮喰い人』という言葉は少年十字軍に通じるソープオペラ/メロドラマチックでしかもそれが俗っぽい幕切れを迎える展開に置いて通底したものを感じるのだが、そういえば少年十字軍の物語の中で売られて終わり、というのが多くその先を見たいのは俺だけなのだろうか?お伽噺は続いて行ってしまうものだから、とか何とか考えしまうのは。とはいえ俺は神話や歴史、伝記の類に興味が薄く重い腰を上げて読んだ『ハドリアヌス帝の回想』も『流れる水のよう』な文章を追っていくうちに読み終える始末で、それはそれで「正しい(といっても語弊がない)」読み方の一つであるとは思うのだが、もう少しそういったものに興味があったら読書の幅も広がるのにと感じることがあり、しかしそれならゲームの「攻略本」や「設定資料」の方がサービスが多く楽しめるように思えてくる。どうせ作りものなのだから。まあ、神話の方が電波的な設定が多くて面白いと言えるかもしれないけれど。

 初期の女神転生のシナリオを担当していた鈴木一也の女神転生TRPG系の本を今、何冊も読んでいるのだけれどその中の一冊『新世黙示録』という本を読みながらぼんやりと、そういったことらをごちゃごちゃ考えており、そういえば「私が気づいていないだけで本当に霊的な存在はあるのだ」と錯覚する幸福な瞬間がふと、おこり、神の証明が不可能なことと同様にそういった存在が皆無だという証明もできないだろう、けれどそんなことよりも作りものの悪魔と神様でどう遊ぶかを考えた方が建設的(!)だと考える俺なのだけれど、神話や神学を「ガチで」学ぶ人たちは本当にどういった考えをしているのか気になる信仰心の薄い俺、は「正しいもの」に対して畏敬の念を抱いているけれどそんなものは(幸運がおこったにせよ)ある一面でしか成功(現象)しないものだと確信しており、こんな性格だから組織の中で動けないのだなあと改めて納得、している場合でないのは自分でも分かっている、のだが蓮喰い人をぼんやりと、美しいと感じるのはどうしようもない。花ばかり口にして生きている人を考えると、それが阿片的なものであろうと、身が洗われる様な気がする。名前がない神様のことを想起する。俺は神様の名前を呼んだり、名づけることができるだろうか?
 
 とかいう終わり方は(いつも通り)わりとひどいのだが用事があるので、では、(インターネット上の「日記」の題名は『電子花瓣抄』がいいなと思ったことがあるがさすがにそれは恥ずかしいだろうと自重した微妙な羞恥心の在り方の俺、はしかし電子の花弁ってとても魅力的なのだが)少しあとでお会いしましょう。