オーディンが入荷しましたって言われたい

 清水アリカの訃報を昨日知った。何年もずっと、小説を出していないから、もう出さないのかなあ、と残念に思っていたが、これでもう、彼の新しい小説を読むことがなくなるのだ。訃報とか音信不通とか解散とか、ちょこちょこ目にするようになってきた。それとの距離の取り方が良く分からないし、ずっと、そんな気がする。

 新宿へ向かった。物が買いたくて向かった。ipodに入れたcassiusの曲を流して、フレンチ・ハウス、ヒップホップより、って、今の気分だった。新宿によく合う。そういえば昔はフレンチ・ハウスのairが好きだった。今は全部売り払い、ipodのも削除してしまったけれど。日本のバンドのairの方は一曲だけ残っている「today」って曲。コドモセクシーな感じで、好きだ。

 子供っぽい、映画のシーンを継ぎ接ぎしたような、そんな小説を清水アリカはよく書いていた。サイバーパンクな感じ? そう、多分、出鱈目な、という意味においての、サイバーで、パンクな感じだ。彼の小説の、子供っぽい、速さ。登場人物に拘泥しない速さが好きだった。(ゴダール的と言うより、あんま好きじゃないハーモニー・コリンガス・ヴァン・サントを想起させる、けれど、この二人の映画監督のより、子供らしさが出ていて、好きだ)

 下らない街(「くだる」街なんてないし)での、小冒険。高校の頃とても好きだった、松本大洋の『鉄コン筋クリート』のような世界、を彼は小説にしていた。それは、意外と身近にあるのかもしれない、生活の為に怠惰の為にそれをみようとしていないだけで、だって、今日新宿で社会の歯車推進フリーペーパーのt○wn w○rkを何故かお姉さんが配布してるの。初めて見た。てか何で? 普通こういう受け取る人が限られてるのって、配らないっしょ。皆仕事してんだからさ、って今の俺には必要だったのかなーるほど、新宿をこの時間帯にふらふらしてる若者は労働してない率高いよねじゃかしいわ!

(後で東口に行ったら、何故かt○wn w○rk主催のお笑い芸人ライブが行われるらしく、その宣伝の為っぽかった。自分で書いてて意味わかんね。何で宣伝チラシじゃなくて、歯車冊子を配布するの?)

 気になってはいたけれど、どうせ何も買うものないだろ、と思っていた、スクウェア・エニックスショップに行って来た。予定通り迷った。だって、新宿駅から徒歩15分だよ!! しかも普段行かない方面の! コンビニで地図を立ち読みして、どうにかたどり着いた。一階にはスライムとかモーグリとかがいて、正直欲しかったが、これ(ぬいぐるみ)に数千円を払うのはさすがにどうかしていなきゃかえない。ってことはどうかしてないんだ、よかった俺!

 二階は、ゲームサイトで「ノムティス空間」と揶揄されていた(FF7以降のイラストを担当している野村氏的空間。要するに、シルバーアクセサリー前髪長めな、好意的に言うとイケメン中学生に似合いそう的センスの、好意的か?)感じだった。でも、二万位するアクセサリーはそこそこ出来が良いのもあった。ちょっとあんまりなのが多かったが、そこはファンの愛でカヴァーするんだろう。カウンターのお姉さん(客がいないので一人しかいない)が「オーディンが入荷したのでご報告させて頂きました」と何度も電話をしていたのにぐっときた。「オーディン」って!! 入荷するんだね!! (大体何でも切れる、斬鉄剣を持った馬に乗った騎士)

 ホームページにも写真があったのだけれど、フロアの一部が硝子張りになっていて、そこに治療中か実験中か何かの、セフィロスの身体が保管されていて、一瞬写メを撮りたいと思った。FF7セフィロスに特に思い入れがあるわけではないけれど、こういうコールドスリープとか未来の人体実験的なモチーフは結構好きだ。サイバーパンク。何か最近こればっか言ってるな。こんなこと言ってないと、やってらんないよね!

 俺は残念なことにイケメン中学生ではないので、そこに展示されていたイケメングッズが似合わないから購入はしなかった(でも、ちょっと頑張れば普通に使えそうなのもあったよ)。現実世界の、洋服を探して、たどり着いた店で、目に留まるのはいつも同じ、ダメージ加工、ドット柄、大人っぽいフリル、花柄、ストライプシャツ、は家のクローゼットにもある。気がつけば同じような服ばかり家にある。しかも、一度しか着てないのすらある。なのに、俺は「外に着ていく服が無い」と思っている。

 よく考えろ、お前が今手にしているdress campの「セフィロスが似合いそう」なシャツは家に似たようなのがあるだろ、お前は王子様でも目指すつもりか? 乞食のくせに(あ、ごめん、言いすぎた)。しかも、値段を見ろ、値引きされてるのに中古のIpodが買えるぞ、今日ソフのマップで見てきただろ、でもさすがに二万弱で電池交換も必要なんて買えんよ、と思っただろ、

 あ。そういえばヘアアイロンも注文したんだった。安物は意味が無いと思って、結構値の張るのを。値を張るのを。よし、さらさらストレートになって銀髪になってから買うとしようそうしよう、てか、ガチでこの先銀髪にするようなことがあったら、気が違ってしまった時でしょう。こわいなー銀髪は漫画とゲームだけで大丈夫っす。銀髪と労働は、他の人に任せるよ。

 どうにかこうにか服屋の誘惑を避け、cdショップの前を通りかかり、さすがにねーよ、と思い入らなかった。ここで買ったらちょっとどうかと思った。結局、四時間もふらふらしていて、何も買わなかった。一応買う気はあったのだけれど、商品を目にするだけで、それなりに満足してしまった。家に帰ると、アマゾンさんが大してやりたくもないゲームを届けてくれている。ありがとう、大好きだアマゾン。

 赤い皮のショルダーバッグを肩からおろすと、着ていた、筋肉無い人向けタンクトップにめっちゃ色落ちしていた。必死で落とそうとネットで調べたが、途中で、どうでもよくなった。説明が面倒なパンクっぽいデザインなので、それでいいと思った。漬け置きの後洗濯し、色移りが残ったタンクトップを乾かしながら、やっぱ「よくねー」なと思ったが、割と、どうでもよかった。合言葉はサイバーパンク(執筆している作家さんは、こういう表層的な意味で使わないんだって)。死んだり解散したり失踪したりする人がいて、でも、俺は続いていくのだから、やっていけますようにとサイバーでパンクな、そんな「日記」が書けたら、日々の、いい気晴らしになるんだよなあと思う。