幸福な予定

体調が割とマシになってきて、映画を見たり少し頭を使う本を読めるようになってきた。本調子(つまり「ちょっとだるい」)ではないにせよ、病院の世話にならなくて済みそうで有難い。ずっとこんなことが続くとは思わないけれど、とりあえずは免れたのだ。

 書こうとしている物が動かない、ペース良く行くわけがない。気分転換が必要だと思い、映画を見ていた。なるべく上映時間が短いもので、ぼんやりできるのがいいと思い、そんなのばかり見ていた。

 全く期待していなかった映画の中の一本、『殺し屋1』の映画版が結構面白かった。ぼんやりと見るには最適な映画だった。

 確か俺が高校生の頃、友人と見に行く約束をして、結局行かなかった映画のはずだった。それから数年に一度、「『殺し屋』見なくちゃ」、と思いつつも果たしていなかった。今回レンタル後にネットで見てみると、暴力シーンだけでこの映画が18禁になっていることを知った。他にもそういう映画はあるのだろうか? あったらきっと、そこそこ暇つぶしになってくれると思う。
 
 この映画は同名の漫画が原作になっているのだが、俺は漫画版の『殺し屋』を半分位しか読んでいなくて、しかも数年前のあやふやな記憶で、予備知識としては最低限というか、好条件だ。あまり漫画と比べたりせずに、エンタメを楽しめるのだから。

 組の若頭(役)の浅野忠信は、極度のマゾヒストにしてサディスト。針で色んな人刺す。浅野は組の「オヤジ」が誘拐され、彼を探すことになる。

 一方漫画版の主人公で映画版では二番手のような「イチ」(演じてるのは麿赤児の息子さんだって! 麿の映画一本しか見たことないけど、カッコ良かった)は超人的格闘センスを持ったいじめられっ子。ジジイの洗脳で、情緒不安定な殺戮マシーンとして、「僕をいじめたような悪い奴ら」浅野と戦うことになる。

 俺はこの映画を長いこと塚本の映画だと思っていたけれど、三池の映画だと、視聴する少し前に知った。三池の映画を一本も見たことは無かった。元々アクションやら任侠やらバイオレンスを好んでいるわけではなかった。
でも、ヤクザ役の浅野の恰好がカッコよかったので、それだけでも十分だと思った。高校の時も、多分同じことを思ったような気がする。

 確かに浅野はカッコ良かった。金髪で、真っ赤なタータンチェックの上下とか、てらてらしたラメ入りシャツ、紫か赤のスーツ(コート? もう忘れてる。でも、カッコ良かった)。完璧、センスのないやり過ぎヤンキーファッションで、それがカッコ良かった。 

 最近のヤクザは暴対法の施行以降、表面はとてもおとなしくなったらしい。漫画で出てくるようないかつい頭にグラサン、悪趣味スーツにギラギラアクセ、なんて人はほとんどいなくなってしまったらしい。

 数年前、俺が友人と道を歩きながらシャボン玉を吹いていると、少しして友人に「ここらへんヤクザ多いから、そういうのやめた方がいいよ」と言われたことがある。俺は止めたが、ヤクザらしき人は見当たらない。都心の飲食店では、たまに「暴力団関係の人はお断りします」という注意書きを目にすることがあるが、俺は絵にかいたようなヤクザを目にしたことが無い。浅野のように、かっこいいだろうか? 

 実際に組に入る若者はあぶれ者以外に、Vシネ等を見て憧れて入ってくる人が結構いるそうだ。スラダン見てバスケの選手目指しました、みたいな。おかしな話ではないだろう。

 賛否両論とか問題作とか鬼才のとか、そういう形容をされる映画の多くは、スローモーションとか色彩補正をかけまくったりしたのとか、そういうのが多いような印象を受ける。この映画もその中の一つだった。

 正直に言って、そういう映画は映像を大切にしていないのだと思っている。そんな恥ずかしい小技よりも、普通にカメラを通すだけで、グロテスクにだって撮れるはずでしょ。でも、それがコメディとしてならば、また話は別かもしれない。

 血があり得ない位ドバドバ出る。人が真っ二つになる。浅野は自分で自分の舌を切る。こういった演出があるのだから、そういう映画的な演出はそれなりに効果的に作用しているような気がしないでもなかった。個人的にはそういうのは全部無くていいと思うけど。

 この映画は暴力だけで18禁になっただけあって、確かに暴力シーンは割と過激だが、見ながらラーメンを食べれる(俺が食べてた)程度の物だ。何だって、或る程度までは慣れることが出来るだろう。この映画はチンピラ浅野カッコイイと思えるならそこそこ楽しめると思う。でも、もっとやんちゃな感じがいいなと思う。もっと人が死にまくるとか、ヤクザやいじめられっ子がわーいって感じのとか。娯楽映画なのだから、もっと娯楽が欲しいな、とそう思った。

 面倒くさい、注文多い俺にとっての娯楽。それは俺にしか作れないだろう。面倒な注文にこたえるのは、いつだって自分でなくてはならない。

 幸福な予定、というものが思いつかない。消極的であるにせよ生活を選択しているとしたら、多分小さくとも幸福な予定を前提にしているのだろう。だからこそこなせるのだろう。

 ミニマル気味でキュートなグロテスク・ムービー、が目にすることが出来たら、きっといい気分転換になるのだと思う。たいして映画を見ているわけではないのだけれど、特にアクション・ホラー・SF・スプラッタ系はびっくりするほど見ていないので、そのうち好みの物に出会えるかもしれない。オオカミの皮も欲しいけれど、キュートなちんぴらに会いたいもしくは、そうなるような覚悟が?