夏になる前に

色んな物を売り払っているはずなのにお寒い財布の中と物にあふれた家の中、って物を買ってるってことだ。でもさすがに不味いのでレンタルとかをするようにしている、というか本当はレンタルだってしない方がいいのだけれど、ほら、色んなのでセールしてるから、仕方が無い、ってことで。

 前に言及した、アメリカ陸軍が金を出して「君も兵隊になろう! ゲーム」America's Armyの話の続きなのだが、今の時代、いや、昔だって兵隊に志願するなんて一発当てたい考えなしか貧困が原因で志願する羽目になった若者ばかりで、ぼんやりと、日本でもホームレス、生活困窮者支援団体の元に自衛隊が勧誘にくるという話を想起した。ちょっとげんなりした。

 そう、考えなしの若者(俺も含む)は鉄砲玉か、さもなければ自慰介護者になろうぜ!

 って、悪趣味かもしれないが、まあ、そういうことで、でも、考え「あり」の若者が賢いか、と言われると、賢いというよりも「リスクヘッジ能力」に優れていると言った方が適切のように思える。頭がいい人が、本来頭がいい人がなるべき役職についていればいいな、なんて二十歳前後の頃は漠然と思っていた、ような気がする。


 二十歳すぎ、少しの期間だけ新宿に住んでいた。街を歩くときに大して好きでもない、セックスピストルズを良く聞いていた。あのスカスカで、ノリがよくて、粋がっている感じがこの街に、若くも年でもない俺に合っていたような気がする。自宅への近道なのでよくラブホ街を横切っていたのだが、朝方にはよく南米の鳥のような髪型のホストとすれ違い、そこの近くにはバッティングセンターがあった。

『軍鶏』という漫画がある。エリート弱虫親殺し坊ちゃんが、ブチ込まれた少年院で空手を習い、ヤクザの下っ端から大きな興行に腕っ節で喧嘩を売るまでになるのだが、主人公の兄貴分のヤクザは野球なんて興味が無い主人公を連れて新宿のバッティングセンターに連れて行く。

 彼は昔野球少年で、ヤーさんのくせにかなり上手く玉を返す。彼は甲子園にまで出場していたのだが、審判の判定に不服でぼこって退場アウトロー、と自分の「後輩」に告げ、いつまでそんなこと(空手)なんてやってんだと諌める。

 その兄貴分は敵に突然撃たれ、主人公の闘っているドームへと向かい観客席から華やかな舞台へ「そこはお前と俺のいる場所じゃねえぜ」とつぶやき死ぬ。しかし、(少年、青年)漫画の主人公は闘い続けなければならない。漫画が終わるか、死ぬまで。

 数年前に少し仲が良かった友人の家に泊まった時に、少しアルコールが入っていたせいか、彼は「一人で夜を迎えるのとか、誰かと朝を迎えるとか、ぞっとするだろ?」と俺につぶやいて、酒を飲んでも酔わない、酔うほど飲めない俺はそれなりに気分が分かるから、あいまいに微笑む。

 そう、俺なんかを家に泊めてくれる気のいい友人(だった人)。朝が来てしまって、そして俺は彼の隣りにいたのだが、目が覚めても寝たふりをしてだらけていて、気がつくとレゲエのミュージックが流れていた。俺は音楽は節操無く聞く方だが、レゲエは全然聞ず、詳しくもない。でも、他人の家の明るい朝の空気とレゲエのけだるく前向きなリズムはとても合っていて、友人にそれを告げると、少し得意そうに「そうだろ」とはにかんだ。

 洋服とかは派手なのとか小汚いのが好みなのだが、香水は男性もののベタな奴が好きだ。ドルガバとかブルガリとかディオールとか、万人受けしそうな奴。彼の部屋はほのかにブルガリの香りがした、ような気がする、が、もう、忘れてしまった。多分、どこかで記憶も美化されているだろう。

 惰性で消費する音楽文学映画、の中で、映画はどうでもいいものばかりが続いてげんなりしてしまっていたのだが、個人的に久々にヒットしたのが、レイナルド・アレナスの自伝的同名作品の映画化『夜になるまえに』だった。

 キューバの貧しく自然あふれる土地に生まれたゲイの少年の、革命や性差別との闘争、逃走の記録で、原作を二十歳前後に読んだきりのせいもあるかもしれないが、この映画はかなり出来がいいものだった。そう、匂いを感じる熱帯の、しかしそれに溺れてはいない映画。

 革命や投獄や亡命やら、最後はエイズで亡くなるし、結構シリアスな問題を扱っているのもあるだろうが、割とルーズでおおらかなカメラワークとショットなのだが、それが良い生々しさ、というか生命感を与えていたように思う。

 俺が好きな芸術家は「かなり」神経質だと思しき人が多く、だからアメリカの作家はあまり好きとはいえない(でもコーマック・マッカーシーやポールボウルズは割と好きだ。神経質そうだから)のだが、それなりに長続きした友人は南米気質というか、ハートがあったかい(馬鹿か?)人が多かったように思う。割と前向きで楽天家で、でも馬鹿ではなくて、他人の事も考えられる人。

 アレナスもそんな人だったのかな、となんとなく思う。官能とほほえみとけだるさ。俺の好きな刺すような官能や暴力ではなく、ブランド物の香水の残り香のような、何度もそれを確かめてしまうような、そんな存在だ。

 豊潤な映画が終わり現実に引き戻されて、ぼんやりと、しながら、俺ももっと消費しなきゃなあと思う。でも先立つものが無いから、ボクサーパンツ一枚で、明かりを消してipodとダンス。

 数はっても仕方が無いので、今日のお気に入りを。

http://www.youtube.com/watch?v=Vl7k3LNoASQ


http://www.youtube.com/watch?v=CKm7U0x5FB0


 南米気質ではない俺も、いつかはレゲエか鉄砲玉か男娼になれるかな、なんてやりもしない、馬鹿な事を思いながら、そんなことも踊っている内に霧散する。何も解決しなくても、音楽も映画もある、それに。