パートタイム労働の星々の中で

 先日昼過ぎ池袋に寄ったら、駅近くで、二十代らしき男性がふらふらしながら、頭部から大量に出血していた。ケンカか? と思ったがその場所にいるのは一人だけだし、といかくだらだらと出血していて、明らかにやばくて、「大丈夫ですか?」と尋ねたら「大丈夫です」と返してくるのだが、明らかに大丈夫ではないわけで、オレの周りの人も集まり、救急車に電話をした。

 寒い時期で意識が朦朧としているらしく、止血用のタオルを持ってきたり服をかけたり、頭を下げないように声がけをしたり。タオルが幾つか真っ赤になったのだが、途中で血は止まったし、救急車は15分位できたし(その場にいたので遅いと思ったが…)、大事にはいたらなかったらしくよかった、ということで、他に介助していた人とも爽やかに別れる。

 のだが、わたくし、その時お酒を飲んで顔真っ赤でして。いえ、わたくし、アルコールに弱くて、ビール一本で顔真っ赤なんですよ。その代わり、意識ははっきりしているし、酔っ払ったりしないんですよね。お酒がとりたてて好きというわけでもないから、自分一人で飲んだりしないし。

 だけど、緊張感がとけて、一人で池袋の街を歩いていると、熱を持った顔の温度を意識する。暑いなあ、冬でも。イヤホンを入れてipodから流れるのはmotocompoのpart-time war 。曲名がすばらしいですね。勿論曲も。(youtubeにないが)。伸びやかでさわやかなテクノ。

 motocompo のDr Usuiも参加しているxxx of wonder明晰夢マドンナもよかった。
キュートすぎるドリーミングテクノポップ南波志帆の声も岸田メルのイラストも超キュート!

明晰夢マドンナ / xxx of WONDER
https://www.youtube.com/watch?v=ovlZaJWUO1c


明晰夢っていうのとテクノってめっちゃ相性いいと思う。



というか、最近またばたばたしていて、そういう時にこういうテクノとか聞くと、気持ちが軽くなる。フロイドもユングラカンも特に好きではないけれども、数分間のポップソングの中での出来事なら、夢も、明晰夢も信じられる気がするのだ。

 最近寝てもすぐ起きてしまったり、短い夢を見る。そういう時はつかれている証拠だし、自分では自覚しているのだが、しばらくはどうしようもないことだってある。


 数日後、電車の中で知らない番号からの着信があり、(電車内だし)ちょっと迷ったが出ると図書館からで、オレが借りた本が電車に置き忘れたそうで、遺失物扱いで某駅に届いていたらしい。それを聞きながら慌てて次の駅で降りて会話を終了すると、そう、網棚にリュックを置いていたことに気づく。

 さーっと身体から血の気が引くが、どこかで楽観しているような、投げやりな気分になって。

 新宿の相談窓口、的なところで事情を話して車両を確認してもらうが、なかった。あ、こりゃまずいかも。と思った。というか、たまたまその時、社員証とか色々入れてしまっていたのだ。よりによってこんな時に。

電車に忘れ物をした電話を確認したせいで、電車に別の忘れ物をするなんて、アホらしくて、他人ごとみたいな自嘲をほんの少し。そして、オレは少しだけ、気が楽になる。


 あ、そうだ、いい機会だし仕事も辞めようそうしよう、とか現実逃避な物思いにふけりながら、折り返しで来た車両を自分で確認してみたら、あった。よかった。会社やめるなら、社員証は返そう! そうしよう。


 ふと、ポール・ボウルズの短編、『コラソン寄港』が頭に浮かんでいた。

  粗筋はこうだ、新婚旅行中の二人、その途中で男が一人黙って汽車に乗って軽やかに無目的に揺られていく といった短編で、オレはこの話が彼の小説の中で一番好きだ。男の心理なんて説明なんてされないし、幸福そうな二人、の間の齟齬、そして別の刺すような幸福。

 そう、どこにでも行けるってことを、『明晰夢マドンナ』、そして多数のポップソングやカルチャーの中で出てくる、「退屈な毎日に ステッキ振って 魔法をかけた」

 ってことを信じられる瞬間。信じるための、生活態度を。

 オレはお酒に酔わない、酔う前でセーブしてしまう。だから飲み会は途中で飽きてしまって、死ぬほど退屈になって、(でもこういう時にスマホとかいじっている人はマナー違反だと思うのですが…)なんで自分はここにいるんだろうとか考え始め、挙句の果てには帰る。そんな協調性とかナッシングなオレでも、オレがいなくなっても(その席は)誰も困らないことが分かるから大丈夫だ(びっくりされることはあるけれど)。

 酔える人が、よって少し位記憶が曖昧に慣れてしまう人が、少しだけいいなーとか思ったりもするが、でも、それはオレにはできないし、無理にするほど憧れているわけでもない。

 ただ、そんなオレでも、何かに酔って、身を任せて行かなきゃなーとおもうわけで、それに飲みとか好きな人は、割りと寂しがり屋で前向きで、刺激を受ける。誰かの悪口とかマイナスな言葉よりも、お酒のほうがずっとキュートだと思うし。

 年末に片付けておきたいこと、そして年明けじゃないとできないことを思う。ストレスがたまるとついついこの先の嫌なことやら人のことを考えてしまうけれど、それよりもチープなキュートな刺激的な夢のことを考える為に。

 都心はいたるところにイルミネーションがあって、とても綺麗で、豪華でちょっと切ない「星屑の街を fly-high」な気分になれる。

 そして、ふと、想起する、『二十四時間の情事』の台詞のように、「或る日君は永久から抜け出す」錯覚。 肌を刺す寒さと、まばゆい電光の光は、ハイコントラストな初期のレネの映画にぴったりで、甘い夢も寒々しい夢も好きなオレは、大抵のことを嫌がりながらも、ふと、楽しんでしまっているから、だから怠け者。

 小島麻由美の「甘い恋」を聞く。

 
https://www.youtube.com/watch?v=a08YBf2-yP4






 甘い、恋やら恋じゃやないことやらで、『コラソン寄港』の彼のように、軽やかに。夢を、ステップを。